第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-19] 病態失認を呈した脳卒中片麻痺者一例に対する客観性を重視した評価およびCI療法の実践

症例報告

伊藤 一輝1,3, 牛澤 一樹2,3, 平山 智子1, 長坂 香澄1 (1.藤田医科大学病院 リハビリテーション部, 2.藤田医科大学 医学部 リハビリテーション医学I講座, 3.藤田医科大学 保健学研究科 博士後期課程)

【はじめに】病態失認は自身の病態への無自覚(Babinski, 1914)であり,リハビリテーションを阻害するとされている(Giaranella, 2005).特に,練習を通して自身の内省と行動変容を援助するCI療法では,病態失認のような認知障害は適応が困難である(Preissner, 2010).今回,半側空間無視と重度感覚障害に加え,病態失認を呈した左片麻痺患者に対して,客観性を重視した評価およびCI療法を実践した結果,上肢機能や麻痺手の使用,ADL上の左半側空間無視が改善したため報告する.
【症例紹介】60歳代,男性.心原性脳塞栓症によって右側頭葉−後頭葉の脳梗塞を発症し,第8病日にリハビリテーション病棟へ入棟した.第24病日からCI療法を開始した.なお,本報告に際して症例から同意を得た.
【作業療法評価】CI療法開始前の上肢機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)36点,Action Research Arm Test(ARAT)32点,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)−表在覚1,−深部覚1と重度感覚障害とそれに伴う上肢運動障害を認めた.病識が乏しく主観評価の信頼性を欠くと判断し,客観評価によって上肢の使用を評価した.松岡ら(Matsuoka, 2020)のADL動作の工程細分化リストを参考に選択した48項目を用いてADL動作中の使用手を評価し,それぞれ31/2/12(右手/左手/両手)であった.Motor Activity Log(MAL)は主観と併せて客観評価(田中, 2022)を実施し,Amount of use(AOU)3.2/1.5(1.7)(主観/客観(乖離)),Quality of movement(QOM)3.9/1.1(2.8)(主観/客観(乖離))であった.また,Catherine Bergego Scale (CBS)は4/20(16)(主観/客観(乖離))と,MALおよびCBSにおける主観と客観との間に著明な乖離を認め,病態失認を呈していると判断した.「左手は問題なく使えています」との発言があり,ニードは歩いてトイレへ行くことのみであったため,評価結果を示しながら麻痺手機能とADLへの影響を共有し,ADOCを用いて面接を行った.CI療法における目標は,食事,歯磨き,更衣,皿洗いにおける補助手を獲得することで合意した.
【介入】1日1時間の作業療法を12日間連続して実施した.1日の介入は,個別介入としてCI療法を30分(課題指向型練習15分+Transfer package(TP)15分),ADL練習を30分実施し,自主練習として課題指向型練習を60分実施した.課題指向型練習では,内的フィードバック(FB)が困難だったため,動画による外的FBを用いて運動学習を促した.TPでは,麻痺手の使用頻度と成功体験を増やして麻痺手への意識を促すために,難易度の低い課題を中心に提供した.また,麻痺手の使用に関する自己評価および日記の確認では,実際に動作を再現してもらい療法士の客観評価を共有した.
【結果】CI療法終了後,FMA49点,ARAT39点,SIAS−表在覚2,−深部覚1と運動および感覚機能の改善を認めた.ADL動作中の使用手はそれぞれ20/7/20(右手/左手/両手)であり,麻痺手の使用の増加が示された.MAL−AOU3.4/3.6(0.2)(主観/客観 (乖離)),QOM3.7/2.6(1.1)(主観/客観 (乖離)),CBS2/15(13)(主観/客観(乖離))と,いずれも主観と客観の乖離が減少し,CBSにおけるADL上の左半側空間無視の改善を認めた.更衣を除き,麻痺手を補助手として使用することで目標動作を獲得した(更衣は着衣失行の影響が大きく難渋).
【考察】自身の運動を客観的に観察することで,病態失認を改善させることが報告されている(Besharati, 2015).今回の介入では,病態失認を踏まえた客観的なFBや難易度調整を行いながらCI療法を実践したことで,麻痺手に対する内省が高まり,MALやCBSにおける主観と客観との乖離の減少や麻痺手使用の増加につながり,目標動作の獲得に至ったと考える.