[PA-5-22] 弱視片麻痺患者が食事自立に至った経緯
利き手交換が必要であった症例
【はじめに】食事は人間にとって,生きるために文化的で社会的な生活行為である.しかし,脳卒中後の障害により,自己摂取が困難になることは少なくない.さらに,視覚障害を伴う場合,食べやすさを重視する傾向にあり,食事を味わい楽しむことが難しい.今回,橋出血を発症した弱視の症例を担当する機会を得た.食事全介助であったが,利き手交換,食事場面への環境調整と直接介入,他職種連携を軸に介入したところ,3食自立となったため報告する.なお,発表に際し症例と家族に紙面で説明し,署名での同意を得ている.
【対象】80代女性.利き手は右.左橋出血により右片麻痺と重度感覚障害を呈していた.病前より明暗がわかる程度の(弱視)であり,入浴以外のADLは自立していた.発症より40病日目に右上腕骨折受傷しギブス固定していた.74病日目に当院転院となり,入棟時のADLは全介助レベルであった.症例の希望は食事の自己摂取で「他人に食べさせてもらうより自分で食べる方が美味しい」との発言が聞かれた.食事は全介助で,車椅子座位で左手スプーンを使用するも拙劣で食べこぼし多かった.また,食事中の表情は乏しく楽しめていないと推察された.病前は左手で皿を口まで持っていき,右手で箸を使用し掻き込むように食べていた.身体的評価は,発症時のBrunnstrom recovery stageが上肢・手指共にstageⅤであった.感覚は表在・深部感覚共に中等度から重度鈍麻.認知機能はHDS−R:13/30点.嚥下機能はRSST:4回,MWST:5点,M-MASA:96点.以上より合意目標を「食事を左手で3食自立となる」とした.
【介入】第76病日目より,利き手交換,実場面への環境調整と直接的介入,他職種連携を軸に実施した.利き手交換は,視覚的フィードバックが困難なため,体性感覚フィードバックを中心とした介入を行った.また,失敗体験をさせないように段階付を行った.まず,左手の身体誘導を行い,皿へのリーチ•掬う動作の練習とスプーンを通した物品の重さや質感認識を促した.次に,体性感覚情報をもとにサポートのない状態で模擬物品を使用し掬い動作から口元までのリーチを練習した.環境調整は,リーチする際の混乱を避けるため各皿の位置と向きを統一し,自助具はスプーンに太柄グリップを装着,取りこぼし防止のために返し皿を導入した.また,昼食時に直接介入を行い,適宜環境調整やスプーン操作を指導した.これらの環境調整は,本人が混乱なく食べることを目的に看護師と共有し,セラピストが介入できない時にも同じ環境で摂取できるように協力を仰いだ.
【結果】統一した環境調整下であれば3食自立となり,本人からも「食べられるようになった,おいしいです!」と笑顔での発言が聞かれた.
【考察】今回,症例の残存機能(体性感覚)に着目し,段階付けを行ったことが,成功体験の積み重ねに繋がり,利き手交換の運動学習を促進したと考える.また,作業遂行技能の習得には実際場面への介入が有効(吉川ら2014)とされていることから,自助具の選定や環境調整を行い,直接介入を行ったことが,食事の自己摂取につながったのではないかと考える.加えて,他職種と連携し,統一された環境をセッティングできたことで,成功体験の積み重ねに繋がり食事自己摂取のパフォーマンスを維持できたと推察する.
今回は,症例の満足度やQOLの評価がとれていなかった.食事は精神的健康やQOLといった心理的要因に関連し,食事満足度とQOLは強い関わりがと報告されている(岩佐2019,太谷2002).そのため今後は,QOLなどの指標を考慮した症例介入を行っていきたいと考える.
【対象】80代女性.利き手は右.左橋出血により右片麻痺と重度感覚障害を呈していた.病前より明暗がわかる程度の(弱視)であり,入浴以外のADLは自立していた.発症より40病日目に右上腕骨折受傷しギブス固定していた.74病日目に当院転院となり,入棟時のADLは全介助レベルであった.症例の希望は食事の自己摂取で「他人に食べさせてもらうより自分で食べる方が美味しい」との発言が聞かれた.食事は全介助で,車椅子座位で左手スプーンを使用するも拙劣で食べこぼし多かった.また,食事中の表情は乏しく楽しめていないと推察された.病前は左手で皿を口まで持っていき,右手で箸を使用し掻き込むように食べていた.身体的評価は,発症時のBrunnstrom recovery stageが上肢・手指共にstageⅤであった.感覚は表在・深部感覚共に中等度から重度鈍麻.認知機能はHDS−R:13/30点.嚥下機能はRSST:4回,MWST:5点,M-MASA:96点.以上より合意目標を「食事を左手で3食自立となる」とした.
【介入】第76病日目より,利き手交換,実場面への環境調整と直接的介入,他職種連携を軸に実施した.利き手交換は,視覚的フィードバックが困難なため,体性感覚フィードバックを中心とした介入を行った.また,失敗体験をさせないように段階付を行った.まず,左手の身体誘導を行い,皿へのリーチ•掬う動作の練習とスプーンを通した物品の重さや質感認識を促した.次に,体性感覚情報をもとにサポートのない状態で模擬物品を使用し掬い動作から口元までのリーチを練習した.環境調整は,リーチする際の混乱を避けるため各皿の位置と向きを統一し,自助具はスプーンに太柄グリップを装着,取りこぼし防止のために返し皿を導入した.また,昼食時に直接介入を行い,適宜環境調整やスプーン操作を指導した.これらの環境調整は,本人が混乱なく食べることを目的に看護師と共有し,セラピストが介入できない時にも同じ環境で摂取できるように協力を仰いだ.
【結果】統一した環境調整下であれば3食自立となり,本人からも「食べられるようになった,おいしいです!」と笑顔での発言が聞かれた.
【考察】今回,症例の残存機能(体性感覚)に着目し,段階付けを行ったことが,成功体験の積み重ねに繋がり,利き手交換の運動学習を促進したと考える.また,作業遂行技能の習得には実際場面への介入が有効(吉川ら2014)とされていることから,自助具の選定や環境調整を行い,直接介入を行ったことが,食事の自己摂取につながったのではないかと考える.加えて,他職種と連携し,統一された環境をセッティングできたことで,成功体験の積み重ねに繋がり食事自己摂取のパフォーマンスを維持できたと推察する.
今回は,症例の満足度やQOLの評価がとれていなかった.食事は精神的健康やQOLといった心理的要因に関連し,食事満足度とQOLは強い関わりがと報告されている(岩佐2019,太谷2002).そのため今後は,QOLなどの指標を考慮した症例介入を行っていきたいと考える.