第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-3] 姿勢に着目した脳卒中片麻痺患者の車いす駆動練習の効果

菅原 光晴1, 前田 眞治2, 山本 潤3, 高田 善栄4, 佐々木 智5 (1.清伸会ふじの温泉病院, 2.国際医療福祉大学大学院 リハビリテーション医学分野, 3.国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科, 4.総合南東北病院 リハビリテーション科, 5.川崎市立川崎病院 リハビリテーション科)

【はじめに】歩行困難な片麻痺患者にとって車いす駆動は,生活空間を拡大するための移動手段として必要不可欠な動作である.しかし,片麻痺患者の姿勢の問題として,バックレストに体幹を押しつけた姿勢で駆動している場合も多く,このような姿勢での駆動は,臀部が前方へずれやすいことが報告されている.そこで今回我々は車いす駆動時の姿勢に着目し,背折れ式車いすとカットアウトテーブルを利用して車いす駆動練習を行ったので報告する.
【対象】非麻痺側上下肢により車いす駆動しているものの, バックレストに体幹を押しつけて駆動するため,臀部が前方へずれてしまい姿勢を修正するよう指摘されている片麻痺患者18例を対象とした.そのうち右片麻痺患者は8例(平均年齢71.7±10.3歳),左片麻痺患者は10例(平均年齢73.1±11.3歳)であった.尚,全例が座位保持可能で,発症から平均3.2±2.4ヵ月を経過していた.
【倫理的配慮】研究の目的について対象者本人・家族に書面にて説明し同意を得た.
【方法】練習に用いた車いすの「背折れ式」とは,バックレストが折れる機能でバックレストが折れることにより,自動車のトランクへの収納や持ち運びが便利となるタイプの車椅子である.この背折れ式車いすを利用して,体幹が押しつけないようバックレストが折れた状態で駆動練習した.また車いすにカットアウトテーブルを装着し,その上に麻痺側上肢を乗せて体幹の前傾姿勢を促した.介入期間は1日30分,週5回,4週にわたり実施した.介入後,普段使用している標準型車いすにて駆動中の姿勢を観察し,前傾群(体幹をバックレストから離して前後に動かしながら駆動する者)と,後傾群(体幹の動きがなくバックレストを押しつけるように後傾して駆動する者)に分類し,2群における①直進10mの駆動速度,②駆動中の非麻痺側上下肢の使用パターン,③臀部の前方へのずれ(病棟にて車いす駆動中に姿勢を修正するように指摘された回数を1週間測定し一日平均の指摘回数を求めた),④車いす使用期間(車いす使用開始時から介入までの日数)について比較検討した(①④はマンホイットニーU検定;p<0.05).
【結果】前傾群10例,後傾群8例であった.①駆動速度:前屈群では31.4±9.6 m/minで,後傾群では15.4±6.6 m/minで有意差を認め,前傾群の方が速かった,②駆動中の非麻痺側上下の使用パターン:前傾群では非麻痺側上肢によるハンドリムの操作が主な推進力で,非麻痺側下肢は推進と方向を修正して駆動していた.後傾群では非麻痺側上肢を全く使用しないか,ハンドリムを軽く触れ小刻みに動かす程度で主に非麻痺側下肢のみで駆動していた,③臀部の前方へのずれ:前傾群では0回/日で,後傾群で2.8±1.5回/日であった,④車いす使用期間:前傾群では26.3±17.3日,後傾群では48.3±29.3日で有意差を認め,後傾群の方が車いすを使用している期間が長かった.
【考察】今回,片麻痺患者の車いす駆動時の姿勢に着目して介入したが,前傾群は,体幹を前傾することで非麻痺側上肢を推進力として活かしやすいため駆動速度も速く,また臀部のずれもなかったことから,前傾姿勢での駆動方法を推奨すべきと思われた.一方後傾群では,体幹をバックレストに押しつけて駆動することで,腹筋に比べて背筋が優位に活動するため臀部が前方へずれやすく,非麻痺側下肢を主体とした駆動になると考えられた.しかし,今回の介入によって,すべての対象者に変化がみられたわけでない.その差異として前傾群に比べて後傾群では車いす使用期間が長いことから,駆動時の姿勢はパターン化しやすいと考えられ,早期から姿勢に着目した介入が必要と考えられた.