第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-8] 三次救急病院のICU入室中から関わった蘇生後脳症患者と家族の一例

急性期OTとして家族に行える事は何か

児玉 広賢1, 草野 裕美1, 浅田 隆明1, 辻 守栄2 (1.千葉県総合救急災害医療センター リハビリテーション科, 2.千葉県総合救急災害医療センター 看護局)

【はじめに】PICS-FはICU患者家族の48%に認められ,抑うつや不安,PTSDを経験する(井上).PICS-F予防にはICU看護師が関わる場面は多くあるが,OTの介入報告は少ない.今回ICU入室患者と現実認識が難しいその家族と関わり,家族の反応や言動に変化が見られた為報告する. 本症例報告は当院倫理審査委員会の承認を得ている.
【症例】A氏,60歳代男性.胸痛と嘔吐認め当院搬送.急性心筋梗塞の診断.搬送中PEAとなりCPR開始しROSC.その後VA–ECMO導入,PCI施行後,IABP留置しICU入室,体温管理療法実施.2病日に頭部CTで広範な皮随境界,基底核,小脳脳溝の不明瞭所見.医師から家族へ神経学的予後は厳しいICが行われた.4病日OT開始.14病日に一般病棟へ転棟,72病日に療養型病院へ転院となった.病前ADL自立し妻と同居.A氏と妻は別地方出身,仕事の関係でこちらに在住.今後は出身地に帰る予定で家も建築中.KPは妻であったがICU入室後に動揺強く長男に変更となった.
【評価】A氏:未鎮静,VA-ECMO,IABP,人工呼吸器管理中(A/C-PC,FiO2:0.5,PEEP9,TV500). GCS;1-T-1.FIM;18点,IMSスケール;0.
妻:11病日に初対面しリハビリの説明を実施.妻は現状認識が出来ず,期待や不安,夜寝付けない発言が聞かれた.CNS-FACEⅡ;接近1.4/4,安楽・安寧1.6/4,保証2.6/4.デマンド;生きて欲しい.
【介入経過】A氏:4〜8病日はROM訓練行い,9病日〜退院まで端座位,チェア位を追加し実施.頻呼吸になる事があり負荷量を調整した.
妻:12病日にリハビリ見学した際,内容に興味を持ち,少しずつ現実を受け入れようと思われた為,一緒にROM訓練を行う事を提案.参加の意志があり動かし方やデバイス類の注意を共有し行った.拘縮予防の為,面会時に行う事を提案すると了承され,実施した感想等,自発的に話す事が増えた.A氏が好きな歌手の話になりCDを持参し一緒に聞いてもらう事を提案した所すぐに持参され,一緒に聴き妻が歌う場面が見られた.チェア位等をする時は妻と日程調整し実施.全身管理はOTが行い,妻は声かけやタッチングを行った.A氏と関わる事で前向きな発言が聞かれ,転院調整場面等,家族と医療者で話す場面では意見を述べるようになった.週2回の介入を70病日まで実施し,妻とも週1〜3回リハビリ参加や精神状態の聴取を行った.
【結果】A氏:人工呼吸器管理中(A/C-PC,FiO2:0.4,PEEP7,TV600). FIM18点.
妻:前向きになれている事を自覚し,出身地に連れて帰る事が目標になった.その為にどうしたら良いか考えていくと先を見据えたデマンドが聞かれた.CNS-FACEⅡ;接近;3.4/4, 安楽・安寧2/4,保証4/4.
【考察】重症患者に対する看護師の視点では危機理論・危機介入を用いる場面が多くある.危機とは不安の強度な状態で,喪失という困難に対処するには自分のレパートリーが不十分で,そのストレスを処理するのにすぐ使える方法を持っていない時に体験する事(小島)と述べている.今回A氏の急な発症と入院により妻の不安やストレスは強度で自身で対処は難しく危機の状態だったと考える.Finkは障害受容の過程を衝撃→防御的退行→承認→適応と4段階のプロセスを示している. 今回,ICU入室時は衝撃,初対面時は防御的退行と現実を否定する段階であったが,早期からリハビリ見学やA氏に触れて動かす事で現実を直面する承認の段階を辿れたと考える.その為,A氏のFI Mは変わらず,呼吸器設定が軽減した結果であったが妻の新たな目標設定やCNS-FACEⅡの改善に繋がったと考える.
【おわりに】急性期OTとして家族の受け止めに合わせICUで普段行っているリハビリの見学や参加,環境調整を行う事で早期から家族の現実認識,不安の軽減や受容が行え,生活の再構築の一助になる事が示唆された.今後は症例数を増やし検証していきたい.