第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

Sat. Nov 9, 2024 4:30 PM - 5:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-1] 複数の高次脳機能障害を呈した症例に対する残存機能に着目した食事動作への介入

石田 千紗美, 備酒 睦子, 今田 泰裕, 中田 佑香 (神戸掖済会病院 リハビリテーション部)

【はじめに】ADLの阻害因子は意識障害や運動機能障害の他に高次脳機能障害もそのひとつである(吉川ら,2015).今回,両側性の脳梗塞により,失行や失語等の様々な高次脳機能障害と右片麻痺を呈し,食事動作が全介助であった症例に対して,非麻痺側である左手を使用した徒手・視線誘導による食事練習を実施し,最終的には右手で食事動作の自立に至ったため考察を加えて報告する.なお報告に際して,症例から同意を得ている.
【症例】30歳代女性,右利き,病前は独居で,保育士の仕事をしていた.既往に1型糖尿病があり,高血糖による意識障害で救急搬送となった.意識障害が遷延したため,原因精査目的の頭部MRIにて両側前頭葉と頭頂葉に散在性の高信号域を認めた.脱水による血行力学性の脳梗塞の診断となり,状態が安定した第10病日OT処方となった.初期評価時,身体機能では左上肢には運動麻痺は認めなかったが,右にBRS上肢Ⅳ,手指Ⅴの運動麻痺を認めた.高次脳機能では観念失行,全般性注意障害,右半側空間無視や感覚性失語を認めたが,状況理解により一部協力動作が得られた.ADLは保続や失行により全介助だった.
【経過】
第10病日の食事動作では,右手でスプーンを把持すると手掌回外握りとなり,スプーンは使用せず,戸惑いながら左手で器を啜っていた.一方,左手では手掌回内握りで把持し,すくい動作は何度か徒手誘導をすると自発的な動作が行えたが,スプーンが食物に到達しないこともあり,制止するまで空のスプーンを口へ運ぶ様子が観察された.第12病日から昼食時に動作練習を開始した.運動麻痺や右半側空間無視を認めていたため,左手での運動学習を試みた.スプーンの把持方法では動的三指握りへ修正を行ない,すくい動作では適切な動作となるように徒手誘導をした.練習後は自ら食物をすくって食べることができたが,皿を適切な方向や角度にすることができず,浅い皿ではこぼしてしまっていた.そこで皿を適切な位置にするため,声掛けや徒手で注視を促した.経過で運動麻痺が改善したこともあり,第16病日には右手で動的三指握りにてスプーンの把持が可能になった.深めの皿を使用することで自己摂取が可能となったが,皿の中の食物を食べ終えてもすくう動作を繰り返していたため,皿の入れ替えに介助を要した.そこで皿の食物がなくなった時点で確認をする工程を追加した.第18病日には皿の食物を食べ終わると自ら次の皿の選択が可能になり,第23病日に配膳されると一連の食事動作が可能となった.
【考察】本症例は失行によりスプーンの把持とすくい動作が障害され,保続や注意障害により皿の状態の確認が困難であった.一方,注視や追視が可能だったことや,何度か徒手誘導をすると自発的なすくい動作が出現したことから学習効果が得られると考えた.失行への介入は誤りなし学習が原則(鈴村ら,2017)であり,失行症患者は視覚-体性感覚の統合は保たれる(信迫ら,2018)との報告がある.今回,運動麻痺や右半側空間無視が運動学習の妨げとなっていたが,早期から左手で練習を行ったことにより,エラーの少ない状況下で視覚と体性感覚によるフィードバックを促進し,運動学習に至ったと考えた.また,物体へ注意を向ける際には視覚中心による方向定位がされた後,転換性注意が働くとされている(吉田ら,2010).今回,視覚誘導で方向定位を行なったことにより,転換性注意が惹起され,皿の状態の確認や持ち替えが可能になったと考えた.自然経過の影響も考えられるが,非麻痺則での運動学習や視覚誘導,工程の工夫など残存機能に着目したことにより一連の食事動作の自立することができたと考えられた.