[PA-6-11] 脳梗塞を呈した80代男性に電気刺激療法を併用した運転支援を行った一例
【はじめに】脳血管疾患後の自動車運転再開の可否は個人や家族の生活範囲を左右し,移動することで家庭内外の役割に寄与できる.脳血管疾患後に運動麻痺を呈する症例は多いが,下肢機能改善を目的に電気刺激を併用し運転再開支援を行った報告は乏しい.本発表は神経心理学的検査では概ね高次脳機能の低下を認めず,電気刺激療法を併用した運転支援にて身体機能向上を図った.だがHondaセーフティナビ(以下DS)では,介入に難渋し教習所での実車評価を行った症例を報告する.本報告は当院倫理委員会の承認を得て患者から書面で同意を得た.開示すべき利益相反の関係にある企業はない.
【症例紹介】X年Y月Z日に左前頭葉脳梗塞を発症した80代前半の男性.27病日の当院回復期リハビリテーション病棟に入院時の初期評価では上田式12段階片麻痺テスト(以下上田式):上肢・手指grade12,下肢grade7,右上下肢で腱反射亢進,右足部の表在感覚軽度鈍麻であった.神経心理学的検査ではMMSE:29点,TMT-JA:49秒,B:101秒,コース立方体組み合わせテスト:IQ85,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版では運転適正ありと判断した.本症例は妻と二人暮らしであり,車で毎日近所の複合施設へ買い出しや妻の通院時に送迎を行い,近隣の仲間と週に1回農作業,月に1回ゴルフをしていた.運転で事故歴や違反歴はない.入院時より運転再開の希望があり,早期より運転再開による社会参加の再獲得を目標とした.
【介入と経過】33病日で前脛骨筋の筋収縮を認め,右足関節の随意運動向上目的に随意運動介助型電気刺激IVES(以下IVES+)で深腓骨神経へ電気刺激療法を実施した.38病日から抗重力で内反を伴う自動での足関節背屈運動が出現し,上田式:下肢grade10に向上認め,続けて外反を伴う背屈促通目的に電気刺激療法を実施した.57病日で外反を伴う足関節背屈運動が出現し,DSにて評価を実施した.DSの運転反応検査における単純反応検査の平均反応速度は0.94秒,市街地走行では,交差点右折時に横断する自転車に対して急ブレーキを踏むも間に合わず衝突する場面を認めた.その後は84病日にかけて,運転操作で動作性の視野探索課題と市街地走行を中心に実施した.市街地走行では,変化する状況に対応した判断と操作が求められた際の回避行動が即座に行えず危険場面を認めた.実施後のFBでも走行時の危険場面や注意すべき箇所は認識するも,類似した場面で汎化できず修正不十分であった.
【結果】89病日時点の上田式:下肢grade11,DSの単純反応検査で平均反応速度は0.4秒であった.DSの市街地走行では予測される危険場面で修正が図れなかった.同日に教習所で実車評価を行い,注意を要すれば路上運転可能という結果を指導員から得た.そして101病日の自宅退院後に運転再開に至った.
【考察】本症例は電気刺激療法で神経筋単位での右足関節随意性の向上を認めたことが,ブレーキなどの反応速度向上に繋がったと考える.神経心理学的検査の結果からも概ね自動車運転に支障は来さないと考えたが,DSの市街地走行では予測される危険場面で修正が図れなかった.先行研究においてMichonら(1985)は,運転中に迅速な情報処理速度が要求される段階であるtactical levelにおいて,両側前頭葉から頭頂葉に至る視覚処理機能が動員されると述べている.本症例では前頭葉梗塞による影響から,運転時の予測や判断機能低下が生じていたと考える.今回の症例を通して,従来の運転再開支援に加えて電気刺激療法での身体機能向上を図り,実車評価を含めた包括的な評価と介入により対象者の社会参加の再獲得に寄与する可能性が示唆された.
【症例紹介】X年Y月Z日に左前頭葉脳梗塞を発症した80代前半の男性.27病日の当院回復期リハビリテーション病棟に入院時の初期評価では上田式12段階片麻痺テスト(以下上田式):上肢・手指grade12,下肢grade7,右上下肢で腱反射亢進,右足部の表在感覚軽度鈍麻であった.神経心理学的検査ではMMSE:29点,TMT-JA:49秒,B:101秒,コース立方体組み合わせテスト:IQ85,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版では運転適正ありと判断した.本症例は妻と二人暮らしであり,車で毎日近所の複合施設へ買い出しや妻の通院時に送迎を行い,近隣の仲間と週に1回農作業,月に1回ゴルフをしていた.運転で事故歴や違反歴はない.入院時より運転再開の希望があり,早期より運転再開による社会参加の再獲得を目標とした.
【介入と経過】33病日で前脛骨筋の筋収縮を認め,右足関節の随意運動向上目的に随意運動介助型電気刺激IVES(以下IVES+)で深腓骨神経へ電気刺激療法を実施した.38病日から抗重力で内反を伴う自動での足関節背屈運動が出現し,上田式:下肢grade10に向上認め,続けて外反を伴う背屈促通目的に電気刺激療法を実施した.57病日で外反を伴う足関節背屈運動が出現し,DSにて評価を実施した.DSの運転反応検査における単純反応検査の平均反応速度は0.94秒,市街地走行では,交差点右折時に横断する自転車に対して急ブレーキを踏むも間に合わず衝突する場面を認めた.その後は84病日にかけて,運転操作で動作性の視野探索課題と市街地走行を中心に実施した.市街地走行では,変化する状況に対応した判断と操作が求められた際の回避行動が即座に行えず危険場面を認めた.実施後のFBでも走行時の危険場面や注意すべき箇所は認識するも,類似した場面で汎化できず修正不十分であった.
【結果】89病日時点の上田式:下肢grade11,DSの単純反応検査で平均反応速度は0.4秒であった.DSの市街地走行では予測される危険場面で修正が図れなかった.同日に教習所で実車評価を行い,注意を要すれば路上運転可能という結果を指導員から得た.そして101病日の自宅退院後に運転再開に至った.
【考察】本症例は電気刺激療法で神経筋単位での右足関節随意性の向上を認めたことが,ブレーキなどの反応速度向上に繋がったと考える.神経心理学的検査の結果からも概ね自動車運転に支障は来さないと考えたが,DSの市街地走行では予測される危険場面で修正が図れなかった.先行研究においてMichonら(1985)は,運転中に迅速な情報処理速度が要求される段階であるtactical levelにおいて,両側前頭葉から頭頂葉に至る視覚処理機能が動員されると述べている.本症例では前頭葉梗塞による影響から,運転時の予測や判断機能低下が生じていたと考える.今回の症例を通して,従来の運転再開支援に加えて電気刺激療法での身体機能向上を図り,実車評価を含めた包括的な評価と介入により対象者の社会参加の再獲得に寄与する可能性が示唆された.