第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-14] 回復期脳卒中患者に対する目標設定ツールを併用したCI 療法の有用性について

2症例に対する支援からの考察

高木 克実 (医療法人桂名会 瀬尾記念慶友病院 リハビリテーション課)

【はじめに】近年,脳卒中患者に対し,目標設定ツールを併用したCI療法の効果を示した報告が散見される.今回,当院に入院した回復期脳卒中患者2名に対する支援から目標設定ツールを併用したCI療法の有用性について考察する.本報告は症例より同意を得ている.
【症例紹介】〈症例1〉50歳代女性.右基底核出血を発症し,第19病日に当院入院.病前は自宅で母親と2人暮らし.介護福祉士として介護施設に勤務していた.入院時評価はFugl-Meyer Assessment上肢項目(FMA)9点,Motor Activity Log(MAL):使用頻度(AOU)0.56点,動作の質(QOM)0.78点.MMSE30点.FIM115点. 洗体,整髪以外は独歩でADL自立.復職を希望しておりカナダ作業遂行測定(COPM)(遂行度/満足度)で①身の回りのことが行える(4/4)②家事が行える(1/1)③復職(1/1)を目標共有した.
〈症例2〉50 歳代男性.左内包梗塞を発症し,第29病日に当院入院.病前はアパートで独居.発症6ヶ月前から生活保護を受給していた.入院時評価はFMA28点,MAL:AOU0点,QOM0点.MMSE24点.FIM101点.洗体,爪切り以外は独歩でADL自立.自宅退院を希望しており作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)で①身の回りの事が行える②家事(洗濯,買い物,調理)が行える(①②とも満足度1),を目標共有した.
【方法】目標に対し,CI療法の概念に基づき麻痺手の回復に応じた達成可能な課題指向型訓練(TOT)とTOTで獲得したADL,IADL能力が生活に般化するようTransfer Package(TP)を実施.TPでは症例がOTと行動契約した活動についてセルフモニタリングを行い,OTは進捗状況を確認して問題解決方法を検討した.
【経過】〈症例1〉入院~3週目:TOTでは左手でブロックを把持してのリーチ,食器の把持,パソコン(PC)操作を実施.TPでは左手で食器を把持しての食事,PC練習を行動契約した.入院4~7週目:TOTでは両手でタオルを把持しての洗体,模擬的な調理,洗濯室での洗濯を実施.TPでは洗体,整髪(ドライヤー台使用),洗濯を追加した.入院5週目にADLが自立.7週目に外泊し,家事が1人で行えた.入院8~11週目:入院8週目に職場の上司と面談し,退院後にパート勤務で事務作業,介護補助での復帰が決定.TOTでは職場で使うアクリルたわしの作製,院内デイケアの補助を実施.TPではアクリルたわし作製を追加した.
〈症例2〉入院~3週目:TOTでは右手でブロックを把持してのリーチ,食器の把持を実施.TPでは右手で食器を把持しての食事を行動契約した.入院4~7週目:TOTでは歯磨き,爪切り(爪切り台使用),洗体(ループ付タオル使用)を実施.TPでは整容,洗体を追加した結果,入院7週目にADLが自立した.入院8~12週目:TOTでは模擬的な洗濯,買い物,調理,洗濯室での洗濯.院内での買い物,調理室での調理,外出しての買い物を実施.TPでは院内での買い物,洗濯を追加した.
【結果】〈症例1〉FMA:58点.MAL:AOU4.67点,QOM4.44点.FIM124点.COPMで共有した目標の遂行度/満足度は①②が10/10,③が9/9.第92病日に自宅退院し,退院1ヶ月後に復職した.
〈症例2〉FMA49点,MAL:AOU1.23点,QOM1.15点.FIM121点.ADOCで共有した目標①②とも満足度4.家事動作が安全に行えたことで第107病日に自宅退院し,退院後は行政が主催するサークルに参加するようになった.
【考察】Stacey(2017)は目標設定ツールが対象者の知識を高め,意思決定を促進すると述べている.今回,CI療法に目標設定ツールを併用することで2症例とも能動的な訓練参加が可能となりTOT,TPの効果を高めることができた.その結果,退院後に安全に安心して生活できる身体機能,ADL,IADL能力を獲得したことで自己効力感が向上し,退院後の社会参加が促進されたと考えられる.
【結語】回復期脳卒中患者に対し,目標設定ツールを併用したCI療法の有用性が示唆された.