[PA-6-19] 脳卒中患者におけるiPadを用いたTrail Making Testの有用性の検討
【序論】脳卒中など脳損傷を有する患者へADL向上を目指したリハビリテーションを行う上で,入院時の認知遂行機能を評価することは重要である1).当院においても回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)入棟時に認知機能をスクリーニング的に検査している.全般的認知機能検査としてMini Mental State Examination-Japanese(以下:MMSE-J)とKohs Block Design Test(以下:KBDT)を行い,注意機能,遂行機能などの評価目的でTrail making test-part A(TMT-A)と-part B(TMT-B)を行っていた.しかし,紙面版TMT-Aと-Bは検査者によって検査結果に違いが生じやすく,現場で日常的に抽出できるデータも全遂行時間とエラー数に限られ評価できる脳機能も限られる.近年,電子デバイスで行うTMTを用いた研究も報告され2)3),我々は紙面版からiPadで行うTMT-Aと-B(iTMT-A,iTMT-B;マクセル㈱試作品)に変更している.
【目的】電子デバイスの利点を生かしiTMTから抽出できる多くの因子を用いることで,今まで困難であった全般的認知機能も推定できるのか検討する.iTMT-A &-BでMMSE-JやKBDTを推定できるようになれば,少ない検査で多くの認知遂行機能が評価でき,患者負担を軽減させることも可能となる.
【方法】回復期リハ病棟患者で,上肢手指のBrunnstrom StageⅤ以上でペン操作が行え,失語症状と半側空間無視を有さず,iTMT-A & -Bが完遂できた脳疾患患者45名(男性:27名,女性19名)で年齢69.2歳(±11.9)を対象とした.使用機器はiPad Pro(12.9インチ),Apple pencel(第1世代).統計はステップワイズ法による重回帰分析を行った.MMSE-JあるいはKBDT(換算IQ値)を従属変数とし,独立変数には年齢以外に以下を投入した:(1)iTMT-A,iTMT-Bの(1)全遂行時間のみ,(2)セグメント毎の遂行時間(セグメント時間)(1~5,1~10,1~15,1~20,1~25視標),(3)1~25視標間の各セグメント時間,エラー回数とペン離し回数.本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会(E2018-1554-03)と日比野病院倫理審査委員会の承認を受け,全ての対象者から書面によるインフォームド・コンセントを得て行った.
【結果】全遂行時間のみを使ったMMSE-J,KBDTの推定精度(R2値)はそれぞれ0.20,0.39と従来の報告通り不十分な結果であった.各セグメント時間を用いた場合のMMSE-J,KBDTの推定精度(R2値)は,1~5,1~10,1~15セグメント時間が0.23未満と低値であったが,1~20セグメント時間を用いると各々0.66,0.57と全遂行時間を用いた推定精度を超えた値を示した.1~25セグメント時間を使うと,R2値はKBDTが0.66と向上したが,MMSE-Jは0.60と軽度低下した.更にエラー回数とペン離し回数を加えた解析では,R2値はMMSE-Jが0.74と向上した一方,KBDTでは変化がなかった.以上から,各セグメント時間とエラー回数,ペン離し回数を用いることで,MMSE-JとKBDTの推定精度は従来の紙面版よりも改善が得られた.
【考察】各セグメント時間,ペン離し回数は紙面版で求めることは困難であるが,iPad版であれば自動的に抽出できる.電子デバイスによって簡便に抽出できる多くのデータを用いることで,TMTで評価できなかった全般的認知機能が評価できることは,解析方法を工夫することで,一度に多くの脳機能が評価できる画期的なシステムになる可能性が示された.
参考文献
1)花村美穂ら. 外傷性脳損傷による高次脳機能障害患者の帰結予測. Jpn J Rehabil Med VOL. 43 NO. 9 2006
2)宮田美和子ら.複数の配列パターンを提示できる iPad を利用した Trail Making Test の検討. 日本福祉大学健康科学論集 第19巻.2016
3) 武田隆宏.タブレット端末を利用したスマート TMT の開発. 第一工業大学研究報告 第33号 .2021
【目的】電子デバイスの利点を生かしiTMTから抽出できる多くの因子を用いることで,今まで困難であった全般的認知機能も推定できるのか検討する.iTMT-A &-BでMMSE-JやKBDTを推定できるようになれば,少ない検査で多くの認知遂行機能が評価でき,患者負担を軽減させることも可能となる.
【方法】回復期リハ病棟患者で,上肢手指のBrunnstrom StageⅤ以上でペン操作が行え,失語症状と半側空間無視を有さず,iTMT-A & -Bが完遂できた脳疾患患者45名(男性:27名,女性19名)で年齢69.2歳(±11.9)を対象とした.使用機器はiPad Pro(12.9インチ),Apple pencel(第1世代).統計はステップワイズ法による重回帰分析を行った.MMSE-JあるいはKBDT(換算IQ値)を従属変数とし,独立変数には年齢以外に以下を投入した:(1)iTMT-A,iTMT-Bの(1)全遂行時間のみ,(2)セグメント毎の遂行時間(セグメント時間)(1~5,1~10,1~15,1~20,1~25視標),(3)1~25視標間の各セグメント時間,エラー回数とペン離し回数.本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会(E2018-1554-03)と日比野病院倫理審査委員会の承認を受け,全ての対象者から書面によるインフォームド・コンセントを得て行った.
【結果】全遂行時間のみを使ったMMSE-J,KBDTの推定精度(R2値)はそれぞれ0.20,0.39と従来の報告通り不十分な結果であった.各セグメント時間を用いた場合のMMSE-J,KBDTの推定精度(R2値)は,1~5,1~10,1~15セグメント時間が0.23未満と低値であったが,1~20セグメント時間を用いると各々0.66,0.57と全遂行時間を用いた推定精度を超えた値を示した.1~25セグメント時間を使うと,R2値はKBDTが0.66と向上したが,MMSE-Jは0.60と軽度低下した.更にエラー回数とペン離し回数を加えた解析では,R2値はMMSE-Jが0.74と向上した一方,KBDTでは変化がなかった.以上から,各セグメント時間とエラー回数,ペン離し回数を用いることで,MMSE-JとKBDTの推定精度は従来の紙面版よりも改善が得られた.
【考察】各セグメント時間,ペン離し回数は紙面版で求めることは困難であるが,iPad版であれば自動的に抽出できる.電子デバイスによって簡便に抽出できる多くのデータを用いることで,TMTで評価できなかった全般的認知機能が評価できることは,解析方法を工夫することで,一度に多くの脳機能が評価できる画期的なシステムになる可能性が示された.
参考文献
1)花村美穂ら. 外傷性脳損傷による高次脳機能障害患者の帰結予測. Jpn J Rehabil Med VOL. 43 NO. 9 2006
2)宮田美和子ら.複数の配列パターンを提示できる iPad を利用した Trail Making Test の検討. 日本福祉大学健康科学論集 第19巻.2016
3) 武田隆宏.タブレット端末を利用したスマート TMT の開発. 第一工業大学研究報告 第33号 .2021