第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-21] 医療機関と地域の就労支援サービスとの連携を図った事で障害者雇用枠での就労に至った一事例

山田 芙生香, 松澤 良平 (IMS<イムス>グループ イムス板橋リハビリテーション病院)

【はじめに】脳血管疾患を発症した方が就労するために医療機関と地域の就労支援機関等とのシームレスな連携が必要な事がある.今回,入院中から就労支援を行い,退院後は外来にて支援を継続し公共職業安定所や就労支援事業所と連携を取った事例を経験した.就労に向けたシームレスな連携については報告数が少なく,就労支援の一助になると思われるため報告する.なお,発表について患者に説明し書面にて同意を得ている.
【事例紹介】40歳代男性.X年に脳出血を呈し入院,X+4月に自宅に退院した.しかし,1ヶ月後に再出血し入院となった.X+9月,日常生活や家事は自立し在宅生活は可能となり退院したが,注意障害や遂行機能障害等の高次脳機能障害は残存し,就労に必要な能力までには至らなかった.そのため,週1回通院し外来にて就労支援を行う事となった.
【経過】外来開始時に面接し「障害者雇用で仕事に就きたい」と希望が聞かれた.精神障害者保健福祉手帳の申請について理解は得られていたため,申請に向けてアドバイスを行い,本人が申請の手続きを行った.手帳取得後に,障害者雇用枠として働き口が探せるよう公共職業安定所の登録に至った.本人の作業遂行としては,事務作業では,ワークサンプル幕張版の数値チェック等を活用した.5〜6桁程の見積書のチェックは見誤りはなく可能であった.清掃活動等の実務作業では,1時間の作業は疲労なく行う事が可能であった.しかし,2つ以上の課題を提示するとメモがないと忘れしまい,メモを書いても見落としがあった.また,時間管理が疎かになる様子を認めた.
 本人から1時間以上の作業経験がない事への不安が聞かれた事,また,通勤を想定し活動範囲を広げる目的に就労支援事業所の利用を提案した.本人宅から電車で約1時間弱で行く事ができる事業所の見学を経て利用する事となった.公共職業安定所と就労支援事業所に対して,退院時の経過報告書と電話での情報共有を行った.共有内容としては,医療機関として仕事における作業遂行評価を行い,得意とする業務と苦手とする業務の特性を本人が職場で説明できるような支援を行う事を伝えた.加えて,公共職業安定所には,本人の特性を活かせる仕事の業種の相談に乗ってもらうような支援を依頼した.就労支援事業所には面接対策等を依頼するとともに,医療機関では病院外での支援が難しいため,就労に至った際の職場訪問等の依頼を行った.各機関の強みを活かした支援を行い,適宜,本人を介した情報共有や直接電話でのやりとりを行った.
【結果】外来と就労支援事業所に通い,約7ヶ月後に公共職業安定所から紹介された2社の面接を行い,1社の合格に至った.外来では,主治医と相談し意見書を作成し,先ずは短時間勤務で開始する事,仕事内容に慣れるべくルーティン業務に従事する事等の情報共有を行った.企業面談は就労支援事業所スタッフが付き添い,円滑に就労に向けての準備ができた.障害者雇用枠にて,1日5時間勤務から開始し約3ヶ月程度慣れてから8時間勤務に移行する事となった.
【考察】脳卒中後の患者が就労に至るには,専門のリハビリテーションが必要であり,また,重症度によっては退院後も就労支援機関が関わりながら就労する事が少なくない.作業療法士は仕事に向けての作業遂行評価ができる事だけでなく,本人の背景や日常生活活動,心理面等を含め多角的に支援ができる事が利点であると考える.また,医療機関が作業遂行評価を行い本人の強みを把握し共有する事で,他の就労支援機関にて実務作業の経験を積む事,適した職業の斡旋に繋がる事が,シームレスな連携になると考える.