[PA-6-22] 脳卒中後の上肢に対する行動変容をCROT-Rでリーズニングした事例
【はじめに】本事例は,上肢機能向上を目的に数回にわたって短期集中リハ入院を行っていたが,生活上の変化はなかった.今回の入院では,目標設定を中心に介入したところ事例の行動変容に繋がった.本事例の変化をCROT-R(Clinical Reasoning OT Tool-Resume)を用いて,作業療法士(OT)の本事例との関わりをリーズニングの視点で振り返った.本事例報告を通して,臨床でのリーズニングの意義を考察する.尚,発表については本人の同意を得ている.
【基本情報】A氏,70歳代女性,右視床出血(X年Y月Z日発症),X+5年短期集中リハ訓練開始した.【CROT-Rのまとめ】本事例の作業療法の経過について記述する.「物語的リーズニング」A氏は夫と娘と3人で暮らし.自宅での役割は,家事を手伝うことであった.料理は好きだが左上肢麻痺のため,参加が困難になっている.今回の入院では.Canadian Occupational Performance Measure(COPM) (遂行度,満足度)を用いた目標設定を行い,両手で顔を洗う(1,2),野菜を押さえる(5,2)などが挙がった.「科学的リーズニング」入院時評価は,Fugl-Meyer Assessment (FMA)は42/66点,Motor Activity Log (MAL)はAOU・QOM共に平均0.6点 .日常生活で左上肢を使用するため,COPMを使用した.合意目標は,「左上肢を料理で補助手として使う」となった.訓練は,課題指向型訓練に加え,ロボットや電気刺激を用いた併用療法を行った.「実際的・倫理的リーズニング」OTは毎日1時間20分の介入を行った.入院期間は1ヶ月であった.「相互交流リーズニング」個別訓練に加え,生活場面で左上肢を使用する方法を話し合った.入院20日目に本事例より,「普段から左手を使えるように自主トレしたい」という発言があった.OTは毎日行う食事場面での左上肢の使用を目的に,積木を導入し空間操作の課題を自主トレとして提案した.入院28日目に本事例より「左手を使用してパンを食べました,久々に美味しいと感じた.」と発言があった.退院前には,自宅での自主トレ方法の相談や「野菜の皮むきでは親指が重要」など,生活場面で左上肢を使用する事を考えながら自主トレに取り組めるようになった.
【結果】COPM(遂行度,満足度)は,両手で顔を洗う(2,3),野菜を押さえる(5,2),FMAは49/66点,MALはAOU・QOMは共に平均1.0点と点数の向上が見られた.また,麻痺側上肢を食事場面で使用するようになり,退院前には「家族に料理を振舞いたい」と発言するようになった.
【考察】本事例は,度重なるリハ入院を経験しているが,日常生活での左上肢の使用は困難であった.CROT-Rを用いて本介入の変化の要因を検討した結果,CROT-R使用前のOTの思考は科学的リーズニングを優先しており,本事例のニーズや生活歴・生活状況などの物語的リーズニングに目を向けることが出来ていなかった.その結果,本事例の希望に合わせた目標設定や段階付けの具体化が出来ておらず,本事例の主体性を引き出せなかった.そのため,生活での左上肢の使用に繋がらなかったと考える.今回の入院では,物語的リーズニングにも焦点を当てて考えたことで,本事例の希望に合わせた具体的な提案が可能となり,それを共有できたことで,本事例の行動変容に繋がったと考える.
【参考文献】1)藤本一博,小川真寛,京極真:5つの臨床推論で学ぶ作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2002,PP.1-256.
【基本情報】A氏,70歳代女性,右視床出血(X年Y月Z日発症),X+5年短期集中リハ訓練開始した.【CROT-Rのまとめ】本事例の作業療法の経過について記述する.「物語的リーズニング」A氏は夫と娘と3人で暮らし.自宅での役割は,家事を手伝うことであった.料理は好きだが左上肢麻痺のため,参加が困難になっている.今回の入院では.Canadian Occupational Performance Measure(COPM) (遂行度,満足度)を用いた目標設定を行い,両手で顔を洗う(1,2),野菜を押さえる(5,2)などが挙がった.「科学的リーズニング」入院時評価は,Fugl-Meyer Assessment (FMA)は42/66点,Motor Activity Log (MAL)はAOU・QOM共に平均0.6点 .日常生活で左上肢を使用するため,COPMを使用した.合意目標は,「左上肢を料理で補助手として使う」となった.訓練は,課題指向型訓練に加え,ロボットや電気刺激を用いた併用療法を行った.「実際的・倫理的リーズニング」OTは毎日1時間20分の介入を行った.入院期間は1ヶ月であった.「相互交流リーズニング」個別訓練に加え,生活場面で左上肢を使用する方法を話し合った.入院20日目に本事例より,「普段から左手を使えるように自主トレしたい」という発言があった.OTは毎日行う食事場面での左上肢の使用を目的に,積木を導入し空間操作の課題を自主トレとして提案した.入院28日目に本事例より「左手を使用してパンを食べました,久々に美味しいと感じた.」と発言があった.退院前には,自宅での自主トレ方法の相談や「野菜の皮むきでは親指が重要」など,生活場面で左上肢を使用する事を考えながら自主トレに取り組めるようになった.
【結果】COPM(遂行度,満足度)は,両手で顔を洗う(2,3),野菜を押さえる(5,2),FMAは49/66点,MALはAOU・QOMは共に平均1.0点と点数の向上が見られた.また,麻痺側上肢を食事場面で使用するようになり,退院前には「家族に料理を振舞いたい」と発言するようになった.
【考察】本事例は,度重なるリハ入院を経験しているが,日常生活での左上肢の使用は困難であった.CROT-Rを用いて本介入の変化の要因を検討した結果,CROT-R使用前のOTの思考は科学的リーズニングを優先しており,本事例のニーズや生活歴・生活状況などの物語的リーズニングに目を向けることが出来ていなかった.その結果,本事例の希望に合わせた目標設定や段階付けの具体化が出来ておらず,本事例の主体性を引き出せなかった.そのため,生活での左上肢の使用に繋がらなかったと考える.今回の入院では,物語的リーズニングにも焦点を当てて考えたことで,本事例の希望に合わせた具体的な提案が可能となり,それを共有できたことで,本事例の行動変容に繋がったと考える.
【参考文献】1)藤本一博,小川真寛,京極真:5つの臨床推論で学ぶ作業療法リーズニングの教科書.メジカルビュー社,2002,PP.1-256.