第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-4] 高位脊髄損傷患者に「作業に根ざした実践(OBP2.0)」を活用した作業療法実践

信念対立が解消し,食事動作の介助量が軽減した事例

谷口 真太朗1,2, 内原 基成1 (1.医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院 リハビリテーション部, 2.株式会社 LAGOM)

【序論】
 寺岡らは,作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice2.0:OBP2.0)は,作業療法の専門性を発揮しつつ多職種連携を同時に行う理論としており,学問の対立を克服し,対立が生じないように構成されている.現在,OBP2.0関連の先行研究は,散見されるが,高位脊髄損傷患者に対する報告は著者の確認の範囲では見当たらない.今回,入院時から食事動作の自立に対し強い希望のある高位脊髄損傷患者を担当した.症例は,病棟スタッフとの信念対立も生じており,効率的に退院支援計画を展開出来なかった.そこでOBP2.0を用いて症例を包括的に評価し介入を行った結果,食事動作の介助量軽減に至った.本研究の目的は,今回のOBP2.0を活用した介入を振り返り,介入効果を検討する事である.本研究は,前所属の臨床研究倫理審査小委員会の承認を得た(承認番号:543).
【対象】
 症例は70歳代,男性,診断名は脊髄損傷(C3~5)で重度四肢麻痺を呈していた.Mini-Mental State Examination(MMSE)は23点,食事動作はFunctional Independence Measure(FIM)1点, Classification and Assessment of Occupational Dysfunction(CAOD)は49点であった.具体的な作業機能障害として作業不均衡は,リハビリテーション以外の離床機会が少なく,生活のバランスが崩れていた.作業剥奪は,身体耐久性の課題からベット上での食事全介助であり,食物が喉に突っかえるという不安を感じていた.作業疎外は, Zancolli(左)でⅠ群C5Bであり,生活動作全般に介助が必要であった事から,身体機能に対して将来不安があった.作業周縁化は,車椅子座位で自力摂取を望んでいたが,スタッフの理解が得られなかった.信念対立は症例とスタッフ間で起こっていた.症例は自身の身体に関する不安から早急なケアを望んでいた事や車椅子乗車への思いがあり,ナースコールを頻回に押す事が多かった.一方で,病棟スタッフは症例に早急なケアを行いたいが,業務の都合上,対応が遅くなる事もあった.また,病棟スタッフは離床機会を増やしたい思いがあるも,症例の体格が大きい事や移乗を行う際は2人介助が必要であり,マンパワー的に厳しい現状だった.
【介入】
 症例の心情を理解する為,面接を行った.面接の結果を基に,主治医と言語聴覚士から今後の心身機能・嚥下機能についての説明を行った.病棟スタッフに症例に対する思いを確認し,症例の希望を踏まえた実行可能な関わりを検討し,徐々に離床機会が増えた.症例と担当作業療法士で希望の高い食事に関する具体的な目標を立案し,車椅子乗車練習,上肢機能練習,食事動作練習,食事設定を4か月間行った.
【結果】
 食事FIMは3点,CAODは31点となった.作業バランスの改善により,作業不均衡は軽減した.食物が喉に突っかえるという発言が無くなり,作業剥奪が軽減した.左上肢機能が向上し,一部食事動作が可能となった事で身体に関する不安発言が減り,作業疎外が軽減した.食事環境に対しスタッフ全員の理解が得られ,作業周縁化が軽減した.信念対立が緩和した事で,離床機会が拡大し,不満発言が減った.
【考察】
 今回,症例に生じる作業機能障害と信念対立を分析し, 互いの思いや行動,予後予測,主目標を共有した事で,効率的な退院支援計画をマネジメント出来たと考える.結果,担当作業療法士が身体耐久性や上肢機能,食事動作,食事設定に関する介入を行い,病棟スタッフによって不安時の関わりや離床機会の拡大という協業が行えた.OBP2.0に基づく介入は,本症例のような脊髄損傷に伴う重度四肢麻痺により,生活に不安を感じ,スタッフとの信念対立が生じやすい環境において,有用性があったと考える.