[PA-6-5] 手の機能回復から生活行為の課題へと目標が変化した一例
【報告の目的】身体機能回復に固執し,作業に基づいた目標共有が困難となる事例は多い.家族はIADL自立を希望されているが,本人が手の機能に固執し,具体的な生活行為上の目標共有が困難な事例を訪問作業療法にて経験した.「包装の開封」といった小さな生活行為の課題解決を重ねることで,自発的に生活行為上での課題提起をするようになり目標の共有に繋がったので報告する.
【事例紹介】A氏,60代女性,一人暮らし.交通事故にて頚髄損傷を受傷し,頚椎後方除圧固定術(C4-6)施行.既往に統合失調症.要介護1.回復期病棟に5か月間入院.Zancoliの分類:C8BⅡ.右手優位に屈曲痙性が見られる.ADLは修正自立.食事の用意などIADLは近隣に住む兄夫婦が介助.面接では「以前のように包丁を使用し,厚焼き玉子などの料理を作りたいが,手がダメだからできない.諦めているから家事の練習よりも手をリハビリして欲しい」という語りが聞かれた.COPM(調理)遂行度2,満足度2.手の機能不全を理由に,他の作業については具体的な話ができなかった.
【経過・結果】手の機能練習と併行し,生活行為における課題を毎回聴取.「ハムの包装が開封できず,パンにチーズだけを挟んで食べた」という語りがあり,生活行為を用いない手の機能練習から,生活行為に繋がるつまみ動作練習と代償手段を用いた生活行為練習に変更することを提案.取り組んだところ生活行為の課題が解決.この事を契機に,自ら生活行為での課題について表出することが増え,その課題を作業療法士とともに解決していった結果,手の機能に固執した要望ではなく,具体的な生活行為上の短期目標(例,「電子レンジを使用して簡単な料理ができる」「真空パック袋の開封ができる」)に向かって取り組めるようになっていった.あきらめていた調理にも向き合うようになった.再評価結果はCOPM(調理)遂行度5,満足度5.
【考察】A氏は, 「手がダメだから」と自身が思い描く”調理”が困難であると認識し,調理をはじめとした生活行為へと取り組む意欲が低下していた.具体的な生活行為でA氏自ら目標を立てられるようになったのは,①A氏が諦めたといいながらも気にしていた調理に関する問題を作業療法士が聞き逃さず,達成可能な調理に関わる課題を選び取り組み短期間で自立できた経験を積む介入ができたこと,②調理に関わる課題を取り組む際に,課題に取り組むことが手の機能回復につながることを理解できるように介入し,手の機能回復を願うA氏の意志と一致し受け入れやすかったこと,③A氏と協働して課題解決に取り組むことでA氏の調理に関わる課題解決に対する自信を高めていったこと,が主に関係していると考えられた.本事例は,手の機能に固執し作業に基づいた目標共有が困難となった事例の解決に有用な知見であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表にあたり,対象者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,本人へ説明し同意を得た.
【事例紹介】A氏,60代女性,一人暮らし.交通事故にて頚髄損傷を受傷し,頚椎後方除圧固定術(C4-6)施行.既往に統合失調症.要介護1.回復期病棟に5か月間入院.Zancoliの分類:C8BⅡ.右手優位に屈曲痙性が見られる.ADLは修正自立.食事の用意などIADLは近隣に住む兄夫婦が介助.面接では「以前のように包丁を使用し,厚焼き玉子などの料理を作りたいが,手がダメだからできない.諦めているから家事の練習よりも手をリハビリして欲しい」という語りが聞かれた.COPM(調理)遂行度2,満足度2.手の機能不全を理由に,他の作業については具体的な話ができなかった.
【経過・結果】手の機能練習と併行し,生活行為における課題を毎回聴取.「ハムの包装が開封できず,パンにチーズだけを挟んで食べた」という語りがあり,生活行為を用いない手の機能練習から,生活行為に繋がるつまみ動作練習と代償手段を用いた生活行為練習に変更することを提案.取り組んだところ生活行為の課題が解決.この事を契機に,自ら生活行為での課題について表出することが増え,その課題を作業療法士とともに解決していった結果,手の機能に固執した要望ではなく,具体的な生活行為上の短期目標(例,「電子レンジを使用して簡単な料理ができる」「真空パック袋の開封ができる」)に向かって取り組めるようになっていった.あきらめていた調理にも向き合うようになった.再評価結果はCOPM(調理)遂行度5,満足度5.
【考察】A氏は, 「手がダメだから」と自身が思い描く”調理”が困難であると認識し,調理をはじめとした生活行為へと取り組む意欲が低下していた.具体的な生活行為でA氏自ら目標を立てられるようになったのは,①A氏が諦めたといいながらも気にしていた調理に関する問題を作業療法士が聞き逃さず,達成可能な調理に関わる課題を選び取り組み短期間で自立できた経験を積む介入ができたこと,②調理に関わる課題を取り組む際に,課題に取り組むことが手の機能回復につながることを理解できるように介入し,手の機能回復を願うA氏の意志と一致し受け入れやすかったこと,③A氏と協働して課題解決に取り組むことでA氏の調理に関わる課題解決に対する自信を高めていったこと,が主に関係していると考えられた.本事例は,手の機能に固執し作業に基づいた目標共有が困難となった事例の解決に有用な知見であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表にあたり,対象者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,本人へ説明し同意を得た.