[PA-6-6] 麻痺手に対する課題指向型訓練の導入が,前頭葉症状の改善につながった一例
【はじめに】
前頭葉症状に対する介入は,目標設定を行うことが有用とされている.今回,中等度の運動麻痺と注意機能,発動性・意欲の低下を認めた症例に対して,麻痺手の改善や前頭葉症状の軽減を念頭におき,課題指向型訓練を導入した.麻痺手の改善に加えて発動性・意欲向上により主体的な生活が送れるようになったため,以下に報告する.症例には報告の趣旨について書面で説明し同意を得ている.
【症例紹介】
60歳代男性,右利き.左上下肢の運動麻痺や感覚障害を認め,救急搬送.右中大脳動脈領域の右脳梗塞と診断され,保存加療後,第23病日に当院回復期リハビリテーション病棟に転院された.病前は独居でスーパーの生鮮売り場に勤務され,野菜のカット・袋詰め・品出し等を行っていた.
【入院時評価(第23~40病日)】
Brs-tは上肢Ⅲ,手指Ⅱ,下肢Ⅴ,FMA 79/126点,MAL AOU 0.87,QOM 0.75と左上肢の運動麻痺,表在感覚の低下を認めた.FIM 92/126点と片手動作で食事・整容・排泄は自立していたものの,更衣や入浴に介助を要する状態であった.MMSE 29/30点,TMT-JはPartA 57秒(異常),PartB 81秒(境界),BADS 100点,CBA 24/30点,VI 9/10と注意機能,発動性・意欲の低下を認めた.復職について「難しければ同僚に手伝ってもらう」と楽観的で計画性に乏しく,自身の障害理解が不十分であった.
【経過(第41~100病日)】
ADL動作の獲得に向け,運動麻痺に対して徒手的な神経筋促通訓練や物品を使用した訓練を実施したものの,集中力・持続性に欠け,主体的な訓練は難しかった.そこで,日常生活での麻痺手の使用状況に着目し,退院後の生活も併せて,ADL動作や家事動作,職場で必要な動作など現状の遂行状況に応じた目標を設定・共有し,上肢機能の回復段階に合わせて課題指向型訓練を実施していった.具体的な動作目標に応じて料理や洗濯などの家事動作,復職に必要な箱の運搬や棚の陳列などについてご自身ができる範囲や方法の理解を促すことができた.
【結果(第100~111病日)】
Brs-tは上肢・手指ともにⅣ,下肢Ⅵ,FMA 109/126点,MAL AOU・QOM 3.75となり,麻痺手の使用頻度も改善された.MMSE 30/30点,TMT-JはPartA 56秒(異常),PartB 72秒(正常),CBA 26/30点,VI 10/10と注意機能や発動性・意欲は向上を認めた.FIM 109/126点とADLは自立され,麻痺手で荷物を持つ,本のページをめくるなど病棟生活で積極的に使用する様子がみられた.加えて職場へ復職の相談をするなど先を見据えた行動が見られるようになった.退院後は身体障害者手帳を活用し就労を検討することとなった.
【考察】
本症例は運動麻痺に加えて注意機能や発動性・意欲の低下により現実的に目標を考え,行動計画を立てることが困難であったと考える.柴崎らは前頭葉症状である遂行機能の目標管理について,「目的指向的行動を効果的に遂行するためには,自身が達成すべき目標やそれに向けての下位目標を適切に設定したり,維持したりすることが不可欠となる.」と述べている.今回,現状の麻痺手の遂行状況を確認した上で,課題指向型訓練を通して具体的な目標を提示した.目標に向けて生活動作の経験を積み重ねていくことで目標に対する課題を理解し,積極的に訓練を行うことができた.そのことが前頭葉症状の改善に繋がり,症例自ら目標に向けて方法を模索する等,行動の変化を認め,主体的な生活が送れるようになったと考える.
前頭葉症状に対する介入は,目標設定を行うことが有用とされている.今回,中等度の運動麻痺と注意機能,発動性・意欲の低下を認めた症例に対して,麻痺手の改善や前頭葉症状の軽減を念頭におき,課題指向型訓練を導入した.麻痺手の改善に加えて発動性・意欲向上により主体的な生活が送れるようになったため,以下に報告する.症例には報告の趣旨について書面で説明し同意を得ている.
【症例紹介】
60歳代男性,右利き.左上下肢の運動麻痺や感覚障害を認め,救急搬送.右中大脳動脈領域の右脳梗塞と診断され,保存加療後,第23病日に当院回復期リハビリテーション病棟に転院された.病前は独居でスーパーの生鮮売り場に勤務され,野菜のカット・袋詰め・品出し等を行っていた.
【入院時評価(第23~40病日)】
Brs-tは上肢Ⅲ,手指Ⅱ,下肢Ⅴ,FMA 79/126点,MAL AOU 0.87,QOM 0.75と左上肢の運動麻痺,表在感覚の低下を認めた.FIM 92/126点と片手動作で食事・整容・排泄は自立していたものの,更衣や入浴に介助を要する状態であった.MMSE 29/30点,TMT-JはPartA 57秒(異常),PartB 81秒(境界),BADS 100点,CBA 24/30点,VI 9/10と注意機能,発動性・意欲の低下を認めた.復職について「難しければ同僚に手伝ってもらう」と楽観的で計画性に乏しく,自身の障害理解が不十分であった.
【経過(第41~100病日)】
ADL動作の獲得に向け,運動麻痺に対して徒手的な神経筋促通訓練や物品を使用した訓練を実施したものの,集中力・持続性に欠け,主体的な訓練は難しかった.そこで,日常生活での麻痺手の使用状況に着目し,退院後の生活も併せて,ADL動作や家事動作,職場で必要な動作など現状の遂行状況に応じた目標を設定・共有し,上肢機能の回復段階に合わせて課題指向型訓練を実施していった.具体的な動作目標に応じて料理や洗濯などの家事動作,復職に必要な箱の運搬や棚の陳列などについてご自身ができる範囲や方法の理解を促すことができた.
【結果(第100~111病日)】
Brs-tは上肢・手指ともにⅣ,下肢Ⅵ,FMA 109/126点,MAL AOU・QOM 3.75となり,麻痺手の使用頻度も改善された.MMSE 30/30点,TMT-JはPartA 56秒(異常),PartB 72秒(正常),CBA 26/30点,VI 10/10と注意機能や発動性・意欲は向上を認めた.FIM 109/126点とADLは自立され,麻痺手で荷物を持つ,本のページをめくるなど病棟生活で積極的に使用する様子がみられた.加えて職場へ復職の相談をするなど先を見据えた行動が見られるようになった.退院後は身体障害者手帳を活用し就労を検討することとなった.
【考察】
本症例は運動麻痺に加えて注意機能や発動性・意欲の低下により現実的に目標を考え,行動計画を立てることが困難であったと考える.柴崎らは前頭葉症状である遂行機能の目標管理について,「目的指向的行動を効果的に遂行するためには,自身が達成すべき目標やそれに向けての下位目標を適切に設定したり,維持したりすることが不可欠となる.」と述べている.今回,現状の麻痺手の遂行状況を確認した上で,課題指向型訓練を通して具体的な目標を提示した.目標に向けて生活動作の経験を積み重ねていくことで目標に対する課題を理解し,積極的に訓練を行うことができた.そのことが前頭葉症状の改善に繋がり,症例自ら目標に向けて方法を模索する等,行動の変化を認め,主体的な生活が送れるようになったと考える.