第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-8] 繰り返す慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー患者に対する作業療法の経過

高柳 鼓雪1, 小泉 亜耶1, 前田 恭子1, 篠田 裕介1, 山元 敏正2 (1.埼玉医科大学病院 リハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学病院 脳神経内科)

【はじめに】
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)とは,緩徐に進行する対称性の四肢筋力低下と感覚障害を主徴とする病因不明の後天性脱髄性末梢神経障害である.CIDPに対しての作業療法(OT)や日常生活活動(ADL)の臨床報告は少ない.今回,CIDPを発症しADL低下を呈した症例に対してIVIg療法とOTを施行した結果,ADL向上・維持ができた症例を経験したため経過を含めて報告する.なお,本報告は症例の同意を得た.
【症例】
70歳代女性.右利き.発症前のADLは自立.職業は接客・販売業.−第6病日,左優位の手指筋力低下を認めた.第1病日,急性脊髄炎疑いで当院脳神経内科に入院した.第3病日,OT開始.第10病日からIVIg投与が開始された.
【初回評価と作業療法経過】
第3病日に初回評価を施行.FIM運動項目(m-FIM)は51/91点.セルフケア項目は16/42点.食事は肘関節を机上に乗せスプーンを把持し,顔を近づけることにより時間をかけて自立.徒手筋力検査(MMT)は上肢2-3.握力0/0㎏.ピンチ力測定困難.腱反射消失.血液検査ではC-反応性蛋白(CRP)1.1㎎/dL,髄液蛋白44㎎/dL.神経伝導速度検査では上肢優位の脱髄所見を認めた.第3病日から関節可動域練習,自動介助運動を開始.第6病日に筋力低下の進行を認め,MMT2,セルフケア項目は8/42点まで低下した.食事動作困難となったが本人の希望が食事の自己摂取であり,ポータブルスプリングバランサー,スプーンホルダーを使用した食事動作練習を開始した.第10~14病日にIVIg1クール目が施行され,第16病日にはセルフケア項目は37/42点に改善した.食事動作は箸を使用して自立し,MMT3-4,握力8.7㎏/0㎏と向上したが,ピンチ力は依然として測定困難であった.そのためOTでは巧緻動作練習,家事動作練習,自主トレーニング指導を開始した.筋力強化練習では疲労感に応じて適宜回数を調整,自主トレーニングでは10回ずつから行うように指導した.第29~33病日にIVIg2クール目が施行され,m-FIMは89/91点,セルフケア項目は42/42点に向上し,ADLは自立した.MMT4-5,握力17.8㎏/12.9㎏,側腹つまみ3.7㎏/3.3㎏,指腹つまみ(Ⅰ-Ⅱ指間)2.9㎏/2.0㎏まで改善し,第37病日に自宅退院となった.外来でOT継続し,引き続き疲労感に応じて負荷量を調整しつつ筋力強化練習,巧緻動作練習,自主トレーニング指導を行った.自身で変化を把握できるよう自宅にて握力測定や疲労度チェックも行った.第70病日にCIDPが再発し,再入院でIVIg3クール目を施行.その後は3週間ずつの定期的なIVIg投与とともにOT介入を継続した.カナダ作業遂行測定(COPM)では蓋の開閉動作に関して重要度10/10,遂行度と満足度7/10であり,引き続き筋力強化練習,巧緻動作練習を施行した.第175病日からIVIg投与前の筋力低下がみられなくなり,負荷量を上げて介入.MMT5,握力23.7㎏/21.8㎏に向上,STEF100/100点と維持して経過.COPMも遂行度と満足度ともに10/10に向上し,第246病日,外来OT終了.
【考察】
本症例は初回入院時,上肢の筋力低下の進行が著明であったが,IVIg療法が奏効したことと,リハビリによる残存機能で行える最大限のADL練習を継続したことにより機能維持に繋がったと考える.先行文献では,疲労を避け障害筋の過用に注意し,低負荷・短時間のリハビリテーションを心がけること,活動誘発性脱力に関して健常者の約6倍のリスクを有することが指摘されており,疲労感に応じて介入したことも機能や能力の維持に繋がったと考える.