[PA-7-18] HAL-SJを使用した介入により歯磨きと洗髪動作が改善し,麻痺手を積極的に使用することへの葛藤が改善した症例
【はじめに】脳卒中後の上肢麻痺では積極的な麻痺手の使用が推奨される. しかし,麻痺手を意識的に使用することの心的な負担を指摘する報告は多く,担当した症例(A氏)も麻痺手の使用に葛藤していた.そこで A氏が特に葛藤する歯磨きと洗髪へ上肢用の単関節型HAL®(HAL-SJ)を用いた結果,歯磨きと洗髪が円滑になり,葛藤が改善したため報告する.本発表については,本人に口頭および書面で同意を得た.
【事例紹介】40歳代.男性.右利き.廃品回収業勤務.橋梗塞と診断され,保存的加療.右片麻痺を呈し,17病日に回復期リハビリテーション病棟入院.
【初期評価】Br.s:4-3-5,FMA:A21,B2,C3,D0,運動FIM:48, MAL平均:AOU0.2,QOM0.2. 希望は麻痺の回復と復職であった.麻痺や麻痺手の使用頻度の改善,復職を目的に促通反復療法や課題指向型練習,ADL・IADL練習を行った.
【経過】徐々に麻痺や麻痺手の使用頻度が改善し,77病日にBr.s:5-5-5,FMA:A33,B9,C13,D4,STEF:右87点,MAL平均:AOU4.2,QOM3.4,運動FIM:84となり,病棟生活が自立した.A氏から「仕事は配置転換で大丈夫だが,右手を意識して使うのは気が重く,特に歯磨きと洗髪は大変」と話があった.そこで COPMと運動制御を評価する目的で熊本らの二関節筋の協調制御理論における徒手4点計測法を徒手筋力計で評価し,歯磨きと洗髪へ介入した.77病日のCOPM(実行度/満足度)は歯磨き2/2,洗髪2/2,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は62:30,観察評価では歯や頭に沿う動作が拙劣だった.課題指向型練習を行い,84病日のCOPMは歯磨き4/2,洗髪2/2,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は58:34, 観察評価では歯や頭に沿う動作が可能になった.A氏から「リハビリ中はいいが実際にやる時は変わらない」と話があった. 85病日からHAL-SJを課題志向型練習と併用し,HAL-SJはスマートフォンで生体電位信号を確認しながら吊り下げキットで肘の屈伸を200回行った.91病日のCOPMは歯磨き6/6,洗髪5/5,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は48:40,観察評価では歯や頭に沿う動作が容易になった.A氏から「実際にやる時も腕が軽くなった」と話があった.
【最終評価】HAL-SJは105病日まで行い,Br.s:6-6-6,FMA:A36,B9,C14,D6, STEF:右90点,MAL平均:AOU4.9,QOM4.4,COPM:歯磨き8/8,洗髪8/8, 上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は44:40,観察評価では動作が早く円滑になった.A氏から「今は歯磨きや洗髪もできるし,意識せずに右手を使う」と話があった.
【考察】A氏は麻痺手の使用頻度は高いものの葛藤があり,今回は特に葛藤していた歯磨きと洗髪へ介入した. COPMは84病日で歯磨き4/2,洗髪2/2と改善したが,A氏の話から実際場面での麻痺手の使用感は変化がなかった.HAL-SJを併用して一週間後の91病日のCOPMは歯磨き6/6,洗髪5/5とMCID以上の改善があり,A氏の話から実際場面での麻痺手の使用感も改善した.最終的にCOPMは歯磨き8/8,洗髪8/8に改善し,意識せずに麻痺手を使うようになった.また,観察評価から歯や頭に沿う動作が拙劣であり, それらの運動制御には二関節筋の協調制御理論から上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率が重要と考えた. 課題指向型練習のみでも62:30から58:34と改善し,動作が改善したが,COPMの改善は乏しかった.HAL-SJの併用では91病日に出力比率48:40と改善し,COPMも改善が得られた.HAL-SJは生体電位信号をフィードバックしつつ肘の屈伸を行っており,拮抗筋の同時収縮を意識的に抑制できた.またDalyらはHAL-SJは随意的に集中し動作を繰り返すことで運動学習が得られやすいと述べている.したがって今回はHAL-SJを併用することで上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率の改善と運動学習が得られやすく,歯磨きと洗髪が改善したと考える.
【事例紹介】40歳代.男性.右利き.廃品回収業勤務.橋梗塞と診断され,保存的加療.右片麻痺を呈し,17病日に回復期リハビリテーション病棟入院.
【初期評価】Br.s:4-3-5,FMA:A21,B2,C3,D0,運動FIM:48, MAL平均:AOU0.2,QOM0.2. 希望は麻痺の回復と復職であった.麻痺や麻痺手の使用頻度の改善,復職を目的に促通反復療法や課題指向型練習,ADL・IADL練習を行った.
【経過】徐々に麻痺や麻痺手の使用頻度が改善し,77病日にBr.s:5-5-5,FMA:A33,B9,C13,D4,STEF:右87点,MAL平均:AOU4.2,QOM3.4,運動FIM:84となり,病棟生活が自立した.A氏から「仕事は配置転換で大丈夫だが,右手を意識して使うのは気が重く,特に歯磨きと洗髪は大変」と話があった.そこで COPMと運動制御を評価する目的で熊本らの二関節筋の協調制御理論における徒手4点計測法を徒手筋力計で評価し,歯磨きと洗髪へ介入した.77病日のCOPM(実行度/満足度)は歯磨き2/2,洗髪2/2,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は62:30,観察評価では歯や頭に沿う動作が拙劣だった.課題指向型練習を行い,84病日のCOPMは歯磨き4/2,洗髪2/2,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は58:34, 観察評価では歯や頭に沿う動作が可能になった.A氏から「リハビリ中はいいが実際にやる時は変わらない」と話があった. 85病日からHAL-SJを課題志向型練習と併用し,HAL-SJはスマートフォンで生体電位信号を確認しながら吊り下げキットで肘の屈伸を200回行った.91病日のCOPMは歯磨き6/6,洗髪5/5,上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は48:40,観察評価では歯や頭に沿う動作が容易になった.A氏から「実際にやる時も腕が軽くなった」と話があった.
【最終評価】HAL-SJは105病日まで行い,Br.s:6-6-6,FMA:A36,B9,C14,D6, STEF:右90点,MAL平均:AOU4.9,QOM4.4,COPM:歯磨き8/8,洗髪8/8, 上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率は44:40,観察評価では動作が早く円滑になった.A氏から「今は歯磨きや洗髪もできるし,意識せずに右手を使う」と話があった.
【考察】A氏は麻痺手の使用頻度は高いものの葛藤があり,今回は特に葛藤していた歯磨きと洗髪へ介入した. COPMは84病日で歯磨き4/2,洗髪2/2と改善したが,A氏の話から実際場面での麻痺手の使用感は変化がなかった.HAL-SJを併用して一週間後の91病日のCOPMは歯磨き6/6,洗髪5/5とMCID以上の改善があり,A氏の話から実際場面での麻痺手の使用感も改善した.最終的にCOPMは歯磨き8/8,洗髪8/8に改善し,意識せずに麻痺手を使うようになった.また,観察評価から歯や頭に沿う動作が拙劣であり, それらの運動制御には二関節筋の協調制御理論から上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率が重要と考えた. 課題指向型練習のみでも62:30から58:34と改善し,動作が改善したが,COPMの改善は乏しかった.HAL-SJの併用では91病日に出力比率48:40と改善し,COPMも改善が得られた.HAL-SJは生体電位信号をフィードバックしつつ肘の屈伸を行っており,拮抗筋の同時収縮を意識的に抑制できた.またDalyらはHAL-SJは随意的に集中し動作を繰り返すことで運動学習が得られやすいと述べている.したがって今回はHAL-SJを併用することで上腕筋-上腕三頭筋外側頭の出力比率の改善と運動学習が得られやすく,歯磨きと洗髪が改善したと考える.