第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-7-20] 脳卒中患者の運転再開可否に関連する因子

運転操作能力検査用シミュレータDS-7000Rを用いた検討

森田 康紀1, 植田 寛1, 岡田 有由1, 野上 予人1, 堀川 英世2 (1.医療法人社団親和会 富山西リハビリテーション病院 リハビリテーション科, 2.富山大学付属病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
近年,自動車運転評価において,ドライビングシミュレーター(以下DS)の活用が増えている.当院では大型ディスプレイが特徴的な三菱プレシジョン社製運転操作能力検査用シミュレータDS-7000R(以下,DS7000R)を設置し,脳卒中患者への運転評価で活用している.しかし,他のDSと比較すると病院への導入事例は少なく,DS7000Rにおける視覚反応やハンドル,ペダル等の操作能力検査と運転再開の可否の関連について検討した報告は少ない.
【目的】
本研究では,当院入院中に運転再開支援を行った患者の神経心理学検査およびDS7000Rによる運転操作能力検査と運転再開の可否に関連する因子を後方視的に調査することした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認(承認番号23-10号)を得ている.
【対象・方法】
対象は2020年11月30日~2023年11月30日までに当院回復期リハビリテーション病棟へ入院した脳卒中患者824例の内,入院中に運転支援を実施し,データ欠損,脳卒中の既往を有する患者,抗てんかん薬を内服している患者を除いた48例を対象とした.抽出データは基本情報として年齢,性別,疾患名,障害半球,失語症の有無,視野欠損の有無,検査情報としてMMSE-J,TMT-J(PartA,B),SDSA算出値,DSパラメーターの瞬時視検査,移動視検査それぞれの平均反応時間,間隔判断検査正答数,ハンドル操作の正確さを数値化する積分絶対誤差値Integral Absolute Error,アクセルブレーキ踏み替え平均反応時間,発症からDS評価実施までの日数とした.主治医による運転再開の可否を基に運転再開群(n=27),非再開群(n=21)に群分けした.2群間でMann-WhitneyのU検定と2標本t検定を行った.上記の検定により有意差のあった項目を説明変数,運転再開群と非再開群を目的変数としてAICによるステップワイズ多重ロジスティック回帰分析を行った.データ解析はRversion4.3.0を使用し,有意水準はp=0.05とした.
【結果】
群間比較では全項目に有意差を認めた(p<0.05).ロジスティック回帰分析では,アクセルブレーキ踏み替え平均反応速度(オッズ比:2.592,95%CI:1.454-5.676,p=0.005),瞬時視平均応答時間(オッズ比:1.162,95%CI:1.048-1.338,p=0.015),TMT-J・PartB(オッズ比:1.042,95%CI:1.002-1.094,p=0.057),年齢(オッズ比:1.070,95%CI:0.985-1.176,p=0.127)と4つの因子が運転再開の可否に関連する因子として抽出された.
【考察】
危険対象への認知の遅れは,ブレーキ操作や危険回避等の運転行動の開始の遅れを招く.アクセルブレーキ踏み替え反応検査は視覚情報をもとに,素早く認知・判断し,運動に変換する過程,瞬時視検査では画面上に映る対象物を瞬時に認知する能力や有効視野の評価として用いられる.これらの遅延は患者の運転操作の処理速度や注意機能低下を反映していると考える.中でもアクセルブレーキ踏み変え平均反応検査は運転行動の速度を定量的に評価することが可能であり,運転再開の可否判断への影響が大きかったと推察した.DS7000Rの2つの検査項目は,脳卒中患者の運転再開の可否判断において優先度の高い項目として扱うことが重要と考えられる.