[PA-7-21] 急性期脳卒中患者の自動車運転能力に対する自己認識の変化について
高次脳機能検査前後の検討
【はじめに】自動車運転(以下,運転)には運動機能や高次脳機能に加え,運転能力に対する自己認識(以下,自己認識)が重要であると報告されている(加藤2018).急性期病院である当院は,運転再開希望者に対して高次脳機能検査を実施しているが,運転不可の結果を伝えても受け入れが不良な患者が散見される.その原因として,病識の低下や,高次脳機能検査の結果が運転と直接的に関連づけられないために,自己認識が乏しくなっていることが考えられる.よって,運転評価を目的とした高次脳機能検査を行う場合,検査前後の自己認識の変化も考慮しながら実施する必要があると考えるが,自己認識の変化については明らかではない.
【目的】急性期脳卒中患者の自己認識について,高次脳機能検査前後の変化を調査すること.
【対象と方法】対象は,令和6年1月1日から31日の間に当院で脳梗塞,脳出血と診断され作業療法が処方された患者のうち,運転再開の希望があり,意識障害や失語症がない男性8名である.方法は,診療録より一般情報(年齢,性別,診断名)を収集し,初期評価時に運動麻痺(以下,麻痺)の有無,高次脳機能障害の有無を評価した.自己認識については,「病前同様に運転ができるか?」についてVisual Analogue Scale(以下,VAS)を用いて,高次脳機能検査の前後に評価を行なった(0:できない,10:できる).評価結果をもとに,麻痺と高次脳機能障害の有無により4群に分け,自己認識の変化を分析した.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】対象者の年齢は67.6±12.4(平均±SD)歳で,疾患の内訳は脳梗塞8名であった.自己認識については,「麻痺なし・高次脳機能障害なし(3名)」の平均VAS(検査前/検査後)は9.6±0.8/9.1±1.6で,検査前後で大きな変化は認めなかった.「麻痺あり・高次脳機能障害なし(1名)」のVASは9.3/9.3で,検査前後で変化は認めなかった.麻痺は上下肢ともに軽度であった.「麻痺なし・高次脳機能障害あり(2名)」の平均VASは6.6±2.5/4.0±0.4で,検査前後で変化を認めた.「麻痺あり・高次脳機能障害あり(2名)」の平均VASは7.7±2.1/6.6±3.4で,検査前後で変化を認めた.両者ともに麻痺は上下肢ともに軽度であった.高次脳機能障害の有無でさらに分析した結果,「高次脳機能障害なし(4名)」の平均VASは9.5±0.6/9.2±1.3,「高次脳機能障害あり(4名)」の平均VASは7.1±2.0/5.3±2.5で,「高次脳機能障害あり」の方がより変化を認めた.
【考察】少数例の結果であるが,高次脳機能障害がある症例は,検査前後で自己認識の変化を認めた.今回,高次脳機能検査前に自己認識の評価を行なったが,それにより自己の運転能力へ注意が向き,その状態で検査を実施することで検査結果と運転を結びつけて考えることが可能となり,高次脳機能検査後の自己認識がより妥当なものに変化したと考える.一方で,著明な高次脳機能障害があるにも関わらず,運転能力を過大評価し自己認識を変化させないケースも存在した.このケースはHDS-Rが12点であり,認知機能の著しい低下により自己の障害を認識することが困難だった可能性が考えられる.自己認識を高める手段として,ドライビングシミュレーター(以下DS)が有効であるとの報告もあり(舘野2018),このようなケースに対しては,高次脳機能検査に加え,DSでの評価が必要であると考える.今回は,症例数が少なく,疾患や性別に偏りもあったため,今後は症例数を増やしさらに検討を進めていきたいと考える.
【目的】急性期脳卒中患者の自己認識について,高次脳機能検査前後の変化を調査すること.
【対象と方法】対象は,令和6年1月1日から31日の間に当院で脳梗塞,脳出血と診断され作業療法が処方された患者のうち,運転再開の希望があり,意識障害や失語症がない男性8名である.方法は,診療録より一般情報(年齢,性別,診断名)を収集し,初期評価時に運動麻痺(以下,麻痺)の有無,高次脳機能障害の有無を評価した.自己認識については,「病前同様に運転ができるか?」についてVisual Analogue Scale(以下,VAS)を用いて,高次脳機能検査の前後に評価を行なった(0:できない,10:できる).評価結果をもとに,麻痺と高次脳機能障害の有無により4群に分け,自己認識の変化を分析した.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】対象者の年齢は67.6±12.4(平均±SD)歳で,疾患の内訳は脳梗塞8名であった.自己認識については,「麻痺なし・高次脳機能障害なし(3名)」の平均VAS(検査前/検査後)は9.6±0.8/9.1±1.6で,検査前後で大きな変化は認めなかった.「麻痺あり・高次脳機能障害なし(1名)」のVASは9.3/9.3で,検査前後で変化は認めなかった.麻痺は上下肢ともに軽度であった.「麻痺なし・高次脳機能障害あり(2名)」の平均VASは6.6±2.5/4.0±0.4で,検査前後で変化を認めた.「麻痺あり・高次脳機能障害あり(2名)」の平均VASは7.7±2.1/6.6±3.4で,検査前後で変化を認めた.両者ともに麻痺は上下肢ともに軽度であった.高次脳機能障害の有無でさらに分析した結果,「高次脳機能障害なし(4名)」の平均VASは9.5±0.6/9.2±1.3,「高次脳機能障害あり(4名)」の平均VASは7.1±2.0/5.3±2.5で,「高次脳機能障害あり」の方がより変化を認めた.
【考察】少数例の結果であるが,高次脳機能障害がある症例は,検査前後で自己認識の変化を認めた.今回,高次脳機能検査前に自己認識の評価を行なったが,それにより自己の運転能力へ注意が向き,その状態で検査を実施することで検査結果と運転を結びつけて考えることが可能となり,高次脳機能検査後の自己認識がより妥当なものに変化したと考える.一方で,著明な高次脳機能障害があるにも関わらず,運転能力を過大評価し自己認識を変化させないケースも存在した.このケースはHDS-Rが12点であり,認知機能の著しい低下により自己の障害を認識することが困難だった可能性が考えられる.自己認識を高める手段として,ドライビングシミュレーター(以下DS)が有効であるとの報告もあり(舘野2018),このようなケースに対しては,高次脳機能検査に加え,DSでの評価が必要であると考える.今回は,症例数が少なく,疾患や性別に偏りもあったため,今後は症例数を増やしさらに検討を進めていきたいと考える.