[PA-7-3] 被殻出血による重度左半側空間無視を呈した脳卒中患者に対して右視野遮断装具を用いた介入により左側への注意改善を示した一例
【はじめに】
今回, 常時右側方注視,頸部右回旋する程の重度左半側空間無視を呈した脳卒中患者を対象に,外的に右視野を遮断した装具を用いて,装具の装着前後で正中,右空間,左空間それぞれへの反応速度を比較し検証した.その結果と考察を踏まえて報告する.今回の発表に際して本人へ説明し,文書により同意を得た.
【事例紹介】
70歳代右利きの女性.娘と二人暮らしで,ADL/IADL自立.左上下肢の脱力を主訴に当院へ救急搬送されて,頭部CT検査にて右被殻出血と診断され,血圧コントロールを中心とした保存的加療が開始された.翌日よりリハビリテーションが開始された.
【作業療法評価(第2~3病日)】
意識障害はJCSⅠ-1で表出・理解共に可能であった.運動麻痺は右上下肢でBrunnstrom stageⅡ-Ⅱ-Ⅱと連合反応あり.さらにPusher現象も認められ,それらより基本動作は全般重度介助を要した.高次脳機能は全般性注意機能低下,右半側空間無視が認められた.机上検査は,利き手の運動麻痺,右側方注視,注意散漫にて実施困難であり,口頭説明で行えるHDS-Rのみ実施し,23/30点であった.また観察評価にて臥位,座位,立位全ての姿勢において常時右側方注視,頸部右回旋が観察され,正中や左側からの声掛けでは指示が入らず,正中より左側にある物品の探索は困難だった.
【介入方法と経過】
初期評価より左半側空間無視と全般性注意機能低下により,指示入りが曖昧であったり,動作練習や机上課題にて注意散漫のため,円滑な介入が行えず,練習に難渋した.そこで理学療法の介入時間も含めて動作練習や机上課題の際に,積極的に右視野遮断装具を用いて介入を行った.また正中,左右への反応速度を図るため,車椅子座位にて正面の壁に目線の高さと合わせた正中位,そこからそれぞれ左右に50cm離れた箇所,計3か所にレーザーポインターで印を順に提示した.閉眼から開眼したタイミングを開始時間とし,印を確認できたらテーブルを叩くように教示して,それを反応時間として計測した.介入は2日間に分けて, 装具ありと装具なしで連続して正中,左右それぞれ4回ずつ反応時間を計測し,日をまたいで計測する際の順序を変えて実施した.
【結果】
動作練習や机上課題では装具を装着している間は,指示入りの頻度や眼球移動,頸部回旋共に正中位また左側へ向くことができる頻度が増加した.しかし,取り外した後の効果は持続しなかった.レーザーポインターを用いた正中,左右空間への反応速度では,左空間の反応のみ,装具なしは合計81.96秒,平均10.24秒,装具ありは合計43.04秒,平均5.38秒と装具ありの方が装具なしの反応時間と比較して2倍の速度で反応できた.また,正中や右側での反応速度は装着前後で大きな変化は見られなかった.
【考察】
反応速度を計測した介入で,後半に行った計測の方が反応時間が速くなる傾向があり,一部動作学習の効果も考えられたが,それを省みても装具ありの方が合計と平均時間にて時間の短縮が認められ,装具装着による右空間への注意抑制,左空間への注意促通に効果があることが示唆された.しかし,その効果は装着時のみの即時的改善で留まってしまい,従来から行われる机上での抹消課題や視覚探索など左空間への能動的注意改善に向けたアプローチに加えて,この装具を併用することで,さらに能動的注意促通の一助となると考える.また重度の半側空間無視は,リハビリテーションを円滑的に行う上で大きな阻害因子となっており,装具を利用することでより正確な質の高い練習を可能にする手助けとなると考えられる.今回は症例発表であり,さらに症例数を増やしてこのツールの効果を検討していきたい.
今回, 常時右側方注視,頸部右回旋する程の重度左半側空間無視を呈した脳卒中患者を対象に,外的に右視野を遮断した装具を用いて,装具の装着前後で正中,右空間,左空間それぞれへの反応速度を比較し検証した.その結果と考察を踏まえて報告する.今回の発表に際して本人へ説明し,文書により同意を得た.
【事例紹介】
70歳代右利きの女性.娘と二人暮らしで,ADL/IADL自立.左上下肢の脱力を主訴に当院へ救急搬送されて,頭部CT検査にて右被殻出血と診断され,血圧コントロールを中心とした保存的加療が開始された.翌日よりリハビリテーションが開始された.
【作業療法評価(第2~3病日)】
意識障害はJCSⅠ-1で表出・理解共に可能であった.運動麻痺は右上下肢でBrunnstrom stageⅡ-Ⅱ-Ⅱと連合反応あり.さらにPusher現象も認められ,それらより基本動作は全般重度介助を要した.高次脳機能は全般性注意機能低下,右半側空間無視が認められた.机上検査は,利き手の運動麻痺,右側方注視,注意散漫にて実施困難であり,口頭説明で行えるHDS-Rのみ実施し,23/30点であった.また観察評価にて臥位,座位,立位全ての姿勢において常時右側方注視,頸部右回旋が観察され,正中や左側からの声掛けでは指示が入らず,正中より左側にある物品の探索は困難だった.
【介入方法と経過】
初期評価より左半側空間無視と全般性注意機能低下により,指示入りが曖昧であったり,動作練習や机上課題にて注意散漫のため,円滑な介入が行えず,練習に難渋した.そこで理学療法の介入時間も含めて動作練習や机上課題の際に,積極的に右視野遮断装具を用いて介入を行った.また正中,左右への反応速度を図るため,車椅子座位にて正面の壁に目線の高さと合わせた正中位,そこからそれぞれ左右に50cm離れた箇所,計3か所にレーザーポインターで印を順に提示した.閉眼から開眼したタイミングを開始時間とし,印を確認できたらテーブルを叩くように教示して,それを反応時間として計測した.介入は2日間に分けて, 装具ありと装具なしで連続して正中,左右それぞれ4回ずつ反応時間を計測し,日をまたいで計測する際の順序を変えて実施した.
【結果】
動作練習や机上課題では装具を装着している間は,指示入りの頻度や眼球移動,頸部回旋共に正中位また左側へ向くことができる頻度が増加した.しかし,取り外した後の効果は持続しなかった.レーザーポインターを用いた正中,左右空間への反応速度では,左空間の反応のみ,装具なしは合計81.96秒,平均10.24秒,装具ありは合計43.04秒,平均5.38秒と装具ありの方が装具なしの反応時間と比較して2倍の速度で反応できた.また,正中や右側での反応速度は装着前後で大きな変化は見られなかった.
【考察】
反応速度を計測した介入で,後半に行った計測の方が反応時間が速くなる傾向があり,一部動作学習の効果も考えられたが,それを省みても装具ありの方が合計と平均時間にて時間の短縮が認められ,装具装着による右空間への注意抑制,左空間への注意促通に効果があることが示唆された.しかし,その効果は装着時のみの即時的改善で留まってしまい,従来から行われる机上での抹消課題や視覚探索など左空間への能動的注意改善に向けたアプローチに加えて,この装具を併用することで,さらに能動的注意促通の一助となると考える.また重度の半側空間無視は,リハビリテーションを円滑的に行う上で大きな阻害因子となっており,装具を利用することでより正確な質の高い練習を可能にする手助けとなると考えられる.今回は症例発表であり,さらに症例数を増やしてこのツールの効果を検討していきたい.