[PA-7-5] 中脳・橋梗塞に伴う上小脳脚の損傷は予後不良である
【はじめに】中脳・橋梗塞による運動失調を呈した症例を担当し,入院時評価では身体機能は改善すると判断されたが,運動失調が重度で運動学習が困難であった.約5カ月間リハビリを継続したがADLの改善には至らなかった.様々な介入を行ったが,なぜ学習が難しかったのかを再考する.
【症例紹介】80代,男性.X年6月に屋外で作業中に突然左目が見えにくくなり,歩くと左に傾いた.MRI検査で右橋背側から両側中脳に梗塞が認められた.四肢の運動失調,構音障害が強くADLは全介助レベルとなった.58病日目に当院回復期リハビリテーション病棟に入院となった.既往歴は糖尿病,高血圧.主訴:綺麗に歩きたい.なお,対象者家族には本学会で報告する事を書面にて同意を得た.
【Dr評価】病巣が広く左右の橋動脈が閉塞し上小脳脚交叉が損傷された可能性がある.
【OT評価】 運動麻痺や感覚障害は認められなかった.失調性構音障害があり認知機能検査は困難であった.従命動作は可能であった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)は28点,Functional Assessment for Control of Trunk (以下,FACT)は5点,Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF)は右9点,左19点,Berg Balance Scale(以下,BBS)は5点であった.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動項目16点,認知項目12点であった.基本動作では起居動作は全介助レベル.端坐位保持は見守り,立位保持や歩行は困難であった.食事はペースが速く抑制が必要であった.
【介入の基本方針】運動失調を軽減し,安全な移乗や歩行,トイレ動作などの再獲得を目指した.
【経過】
第1期(0~5週)運動失調の改善へ介入した時期
平行棒内での立ち上がりでは体幹前傾となり動作が性急であった.座位バランスは不良,バランスボールで体幹や下肢機能訓練,立位保持訓練30秒程度を繰り返し練習した.3.0 kg 重錘を負荷として,両手のサンディングブロック等を実施した.
第2期(6~10週)ピックアップ歩行器訓練を開始した時期
歩行器に3.0㎏の重錘を装着して,体幹の動揺を抑制しながら実施した.歩行距離は2~3mが限界であった.四つ這い訓練や膝立ち訓練を開始した.トイレでの排泄が可能になったが,便座から急に立ち上がる事が多く見守りが必要であった.誤嚥を繰り返し左完全側臥位で全介助による食事になった.
第3期(11~20週)体幹機能訓練にReoGo-J訓練を行った時期
FACTは5点と変化がなかった.ReoGo-Jによる体幹機能訓練を18日間実施し,訓練後は即時的に座位や立位保持が数秒可能になったが,運動学習は進むことはなかった.介入19~20週目に体力が徐々に低下し,「歩きはこんなもんだ.これで十分だ」と離床拒否する場面が多くなった.
【結果】SARAは28点から26点.FACTは5点から7点であった.STEFは右9点から16点,左19点と変化なかった.BBSは5点から6点であった.FIMは運動項目16点から22点,認知項目は12点から14点であった.ADLは全介助が必要であった.療養病院へ退院となった.
【考察】上小脳脚交叉の損傷は運動失調が永続的に残存し,小脳からの遠心路につながる歯状核と上小脳脚の障害があると予後が不良と言われている.小脳からの出力経路である上小脳脚ルートは補足運動野へ出力されている.また,大脳皮質各所から小脳への入力経路である中小脳脚ルートも本症例では同時に損傷したと考えられるため,運動学習は難しく,難渋した症例であったと考えられた.
【症例紹介】80代,男性.X年6月に屋外で作業中に突然左目が見えにくくなり,歩くと左に傾いた.MRI検査で右橋背側から両側中脳に梗塞が認められた.四肢の運動失調,構音障害が強くADLは全介助レベルとなった.58病日目に当院回復期リハビリテーション病棟に入院となった.既往歴は糖尿病,高血圧.主訴:綺麗に歩きたい.なお,対象者家族には本学会で報告する事を書面にて同意を得た.
【Dr評価】病巣が広く左右の橋動脈が閉塞し上小脳脚交叉が損傷された可能性がある.
【OT評価】 運動麻痺や感覚障害は認められなかった.失調性構音障害があり認知機能検査は困難であった.従命動作は可能であった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)は28点,Functional Assessment for Control of Trunk (以下,FACT)は5点,Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF)は右9点,左19点,Berg Balance Scale(以下,BBS)は5点であった.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動項目16点,認知項目12点であった.基本動作では起居動作は全介助レベル.端坐位保持は見守り,立位保持や歩行は困難であった.食事はペースが速く抑制が必要であった.
【介入の基本方針】運動失調を軽減し,安全な移乗や歩行,トイレ動作などの再獲得を目指した.
【経過】
第1期(0~5週)運動失調の改善へ介入した時期
平行棒内での立ち上がりでは体幹前傾となり動作が性急であった.座位バランスは不良,バランスボールで体幹や下肢機能訓練,立位保持訓練30秒程度を繰り返し練習した.3.0 kg 重錘を負荷として,両手のサンディングブロック等を実施した.
第2期(6~10週)ピックアップ歩行器訓練を開始した時期
歩行器に3.0㎏の重錘を装着して,体幹の動揺を抑制しながら実施した.歩行距離は2~3mが限界であった.四つ這い訓練や膝立ち訓練を開始した.トイレでの排泄が可能になったが,便座から急に立ち上がる事が多く見守りが必要であった.誤嚥を繰り返し左完全側臥位で全介助による食事になった.
第3期(11~20週)体幹機能訓練にReoGo-J訓練を行った時期
FACTは5点と変化がなかった.ReoGo-Jによる体幹機能訓練を18日間実施し,訓練後は即時的に座位や立位保持が数秒可能になったが,運動学習は進むことはなかった.介入19~20週目に体力が徐々に低下し,「歩きはこんなもんだ.これで十分だ」と離床拒否する場面が多くなった.
【結果】SARAは28点から26点.FACTは5点から7点であった.STEFは右9点から16点,左19点と変化なかった.BBSは5点から6点であった.FIMは運動項目16点から22点,認知項目は12点から14点であった.ADLは全介助が必要であった.療養病院へ退院となった.
【考察】上小脳脚交叉の損傷は運動失調が永続的に残存し,小脳からの遠心路につながる歯状核と上小脳脚の障害があると予後が不良と言われている.小脳からの出力経路である上小脳脚ルートは補足運動野へ出力されている.また,大脳皮質各所から小脳への入力経路である中小脳脚ルートも本症例では同時に損傷したと考えられるため,運動学習は難しく,難渋した症例であったと考えられた.