[PA-7-7] 専門的技術を要する職業への復職支援について
大工への復職
【はじめに】回復期で復職希望のケースには数多く遭遇する.しかし,就労支援における作業療法士の役割について統一した見解は確立されていない(平賀,2016).また,ある調べでは,就労支援の「職場との調整」について,関わる頻度は低いという結果が出ている(齋藤,2020).さらに,専門的技術を要する職種への復職の場合,同じ技術を持つ第三者からの視点がなければ,復職の評価はしにくいと考えられる.今回,脳梗塞・左片麻痺を呈した事例を担当した.復職に向けた実践的な練習や,同業者からの視点を取り入れた練習を実施できたため,ここに報告する.
【作業療法評価】事例は60歳代の男性で,X年Y月Z日に脳梗塞を発症し,急性期病院での治療後,Z+28日に当院へ転入院となった.病前生活はひとり暮らしでADL・家事は自立し,大工として週6日程度働いていた.入院時の上肢機能は,FMAが64/66点,STEFが右95点・左93点で,運動麻痺は軽度であった.感覚機能は左指先に軽度の痺れが残存していた.バランス機能はBBSが53/56点で左下肢の支持性がやや低下していた.認知機能・高次脳機能はMMSEが27/30点,TMT-Aが119秒・Bが162秒,FABが12/18点,BITが137/146点で,全般性の注意機能や情報処理速度の低下が疑われた.ADLは入浴以外が自立であった.大工の仕事内容は電動工具を使用した内装作業が主であった.同業者から依頼を受けて働いていた.経済的理由から仕事の継続希望が強かった.
【介入経過】介入前期は立位バランスの強化を図り,入浴の自立へ繋げた.並行して家事動作の安全性を確認した.また,手指巧緻性・情報処理速度の強化も行った.Z+69日に妹の作業療法見学があった.自宅でのひとり暮らしには問題ないとの判断があるも,事例から「仕事に戻りたいからもう少し指の練習をしたい.」と希望があり,さらに1ヶ月の入院期間で経過を見ることとなった.介入後期は,実践に近い練習として電動工具を用いた木工作も行った.Z+96日,2回目の作業療法見学で妹に木工作の様子を見てもらうこととなった.また,動画を撮影し,仕事の依頼主であり同業者でもある知人に見てもらい,作業療法士からは復職における注意点等を説明した.それに対し,知人からは安全に配慮した働き方の提案があった.また重点的に練習が必要なことを知人からアドバイスしてもらった.
【結果】FMAが66/66点,STEFが右98点・左96点,BBSが56/56点と身体機能の向上が見られた.認知機能・高次脳機能もMMSEが29/30点,TMT-Aが41秒・Bが84秒,FABが18/18点,BITが143/146点で,注意機能や情報処理速度の向上が見られた.知人からのアドバイスの後,事例からは,「自信になった.仕事で返していきたい.」と発言があった.アドバイスを考慮した練習を実施後,Z+109日に自宅退院となった.
【考察】平賀は,「作業療法士は,他機関との連携の中では,医学的評価や情報を職業データに翻訳し提供する役割がある.」と述べている.今回,木工作の様子を知人に見てもらう際に,医学的評価から考えられる影響をプラス面・マイナス面ともに伝えた.これにより,受け入れ体制の提案に繋がったと考える.また,作業療法士では評価しきれない専門的技術について,より的確な評価とアドバイスを聴取することができた.そして,効率的な練習に汎化することができたと考える.診療報酬の影響や施設の方針等,就労支援に関わりにくい場合もある.しかし,齋藤は,「支援が必要と判断されるケースに対しては,現状の体制の中でどう進めていくことができるか,工夫や検討が求められる.」と述べており,作業療法士としてできることを模索し,働きかけていくことが重要であると考える.
【作業療法評価】事例は60歳代の男性で,X年Y月Z日に脳梗塞を発症し,急性期病院での治療後,Z+28日に当院へ転入院となった.病前生活はひとり暮らしでADL・家事は自立し,大工として週6日程度働いていた.入院時の上肢機能は,FMAが64/66点,STEFが右95点・左93点で,運動麻痺は軽度であった.感覚機能は左指先に軽度の痺れが残存していた.バランス機能はBBSが53/56点で左下肢の支持性がやや低下していた.認知機能・高次脳機能はMMSEが27/30点,TMT-Aが119秒・Bが162秒,FABが12/18点,BITが137/146点で,全般性の注意機能や情報処理速度の低下が疑われた.ADLは入浴以外が自立であった.大工の仕事内容は電動工具を使用した内装作業が主であった.同業者から依頼を受けて働いていた.経済的理由から仕事の継続希望が強かった.
【介入経過】介入前期は立位バランスの強化を図り,入浴の自立へ繋げた.並行して家事動作の安全性を確認した.また,手指巧緻性・情報処理速度の強化も行った.Z+69日に妹の作業療法見学があった.自宅でのひとり暮らしには問題ないとの判断があるも,事例から「仕事に戻りたいからもう少し指の練習をしたい.」と希望があり,さらに1ヶ月の入院期間で経過を見ることとなった.介入後期は,実践に近い練習として電動工具を用いた木工作も行った.Z+96日,2回目の作業療法見学で妹に木工作の様子を見てもらうこととなった.また,動画を撮影し,仕事の依頼主であり同業者でもある知人に見てもらい,作業療法士からは復職における注意点等を説明した.それに対し,知人からは安全に配慮した働き方の提案があった.また重点的に練習が必要なことを知人からアドバイスしてもらった.
【結果】FMAが66/66点,STEFが右98点・左96点,BBSが56/56点と身体機能の向上が見られた.認知機能・高次脳機能もMMSEが29/30点,TMT-Aが41秒・Bが84秒,FABが18/18点,BITが143/146点で,注意機能や情報処理速度の向上が見られた.知人からのアドバイスの後,事例からは,「自信になった.仕事で返していきたい.」と発言があった.アドバイスを考慮した練習を実施後,Z+109日に自宅退院となった.
【考察】平賀は,「作業療法士は,他機関との連携の中では,医学的評価や情報を職業データに翻訳し提供する役割がある.」と述べている.今回,木工作の様子を知人に見てもらう際に,医学的評価から考えられる影響をプラス面・マイナス面ともに伝えた.これにより,受け入れ体制の提案に繋がったと考える.また,作業療法士では評価しきれない専門的技術について,より的確な評価とアドバイスを聴取することができた.そして,効率的な練習に汎化することができたと考える.診療報酬の影響や施設の方針等,就労支援に関わりにくい場合もある.しかし,齋藤は,「支援が必要と判断されるケースに対しては,現状の体制の中でどう進めていくことができるか,工夫や検討が求められる.」と述べており,作業療法士としてできることを模索し,働きかけていくことが重要であると考える.