第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-7-8] ミラーセラピーとTENSにより,異常感覚が軽減した一例

吉岡 健一 (徳山リハビリテーション病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
脳梗塞後の後遺症として,異常感覚を呈することが多くある.運動麻痺は軽度でも,異常感覚により,QOLの低下やADLでの阻害因子となってしまう.今回,脳梗塞発症後より異常感覚を呈した症例を担当した.運動麻痺は1カ月程で左右差がないまでに改善したが,異常感覚が残存していた.ミラーセラピーと同調経皮的電気刺激(TENS)を行う事で,異常感覚を軽減させることができた.症例報告であるが,改善した機序に関して考察を含め報告をする.なお,今回の報告に関し,書面のもと同意は得ている.
【事例紹介】
60歳代男性.X年Y月Z日に,左上下肢に脱力ありA病院へ緊急要請.頭部CTにて右中大脳動脈閉塞の診断を受ける.妻と2人暮らし.病前のADLは自立していた.入院時の身体機能として,握力は右32,8㎏.左は28,2㎏.Fugl meyer assessment of the upper extremity(以下FMA-UE)は55点,運動麻痺は軽度であり協調的な動作に拙劣さがあった.痛覚,触覚,は左右差なし.深部感覚は軽度鈍麻,温冷覚中等度鈍麻であった.しびれは「ビリビリ」という感覚で,しびれの評価はVerbal Rating Scale(以下VRS)で行った.(0:しびれなし∼4:耐え難いしびれ)の中で3(かなりしびれる)であった.前医の入院当初より,左肩~手指指先まで安静時にも異常感覚があった.MMSEは29点であり,全般的認知機能は保たれていた.高次脳評価として.TMT-Aは30秒.TMT-Bは80秒であった.Kohs立方体テストはIQ108点.BADSの全般的区分は優秀であり,高次脳検査で異常所見は見られなかった.
【介入方法】
X+30日後より上肢の運動麻痺に対し課題指向的介入を行った.上肢機能はFMA-UEで65点まで改善した.随意性の改善と共に安静時のしびれは消失していたが,リーチ時など動作時には異常感覚は残存していた.異常感覚は「ビリビリ」とした,しびれた感覚で,動作時には肘周囲と指先にVRSで3(かなりしびれる)程度であった.しびれは動作時に増強するため,運動時の体性感覚野の修正が必要と考え,ミラーセラピーを併用した.また,TENSを行い電気刺激の強さを自身で調整してもらう事で,主観的なしびれの改善を評価した.刺激部位は,示指と中指,環指と小指の指先に各10分ずつ刺激した,並行しミラーセラピーでのタッピング動作,グーチョキパーの動作を刺激時間と同じになるよう,各2セットずつ行った.X+60日後よりミラーセラピーと電気刺激療法による介入を開始した.しびれに関して自身でモニタリングできるよう,介入前後には,上肢の記載してあるイラストにしびれの種類,強さ,場所を紙面に記載してもらった.介入開始時には,TENSの強さは4㎃と3㎃の間であった.介入開始し1週間ほど経つと異常感覚は,手掌のみに減少し,動作時にはVRSで2(少し強くしびれる)まで改善した.さらに,1週間後には,動作時の異常感覚はVRSで1(少ししびれる)まで改善した.電気刺激の強度は,2㎃まで軽減した.
【結果】
FMA-UEは65点まで改善し協調動作は改善していた.深部感覚と温冷覚は左右差なしまで改善した.異常感覚は安静時には消失し,動作時には指先のみVRSで1(少ししびれる)まで改善した.
【考察】
本症例のしびれは,感覚障害由来の自発性異常感覚であったと考える.しびれが軽減した機序として,TENSによる下降性疼痛抑制系を賦活できたことや,ミラーセラピーによる遠心性コピーの修正により,感覚経路の内部モデルを改善できたことが,しびれの軽減の一助になったと考える.単一の症例であったことから,より根拠を深めるために,今後は症例数を増やし,ケースシリーズや比較研究により,効果検証する必要があると考える.