[PA-8-12] 生活期脳卒中片麻痺上肢に対する背面式対立装具を用いた介入効果
麻痺手の生活内使用が可能となった一事例
【目的】
近年,脳卒中片麻痺患者に対するニューロリハビリテーションの発展に伴い,脳の可塑的変化が確認されており,生活期での機能改善効果の報告も存在する.残存機能を活かした代償手段の獲得という目標のみならず,機能回復を目指したリハビリテーションが発展的に実施されている.その中の一手段として装具療法があり,機能改善目的として導入し,課題指向型アプローチと併用することで様々な学習を促すことが重要であるとされている.今回,生活期において右片麻痺を呈する脳卒中患者に対し,背面式対立装具を用いた課題指向型練習,使用場面への指導を行い,日常生活での麻痺手使用が可能となった一事例を報告する.
【方法】
事例は脳出血により右片麻痺を呈した60歳代女性.発症から約5年が経過しており,非麻痺側を用いた日常生活動作は全て自立.介入時の初期評価(罹病期間64ヶ月)はBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS)上肢Ⅳ,手指Ⅳであり,手指伸展運動の不十分さを認め,屈筋共同運動の亢進により母指内転が過剰に見られていた.Fugl-Meyer Assessment上肢項目(以下FMA)は35点,Modified Ashworth Scale(以下MAS)は1+.日本語版Motor Activity Log(以下MAL)にて日常生活内での使用頻度(Amount Of Use:MAL-A)や動作の質(Quality Of Movement:以下MAL-Q)を評価し,MAL-Aは0.79点,MAL-Qは0.57点と麻痺手は日常生活にほとんど参加しておらず,家事,炊事は家族に任せていた.元々料理を振る舞うことが好きとのことで,もう一度自分の手で,家族へ料理を作りたいという強い思いを感じた.
介入方法としては週2回,外来来院時に40分の課題指向型練習と麻痺手使用場面の指導を約2ヵ月実施した.課題指向型練習の実施にあたり,過剰な母指内転により物品の把持が困難であったことから背面式の対立装具を導入し,課題を実施可能な状況にて段階的に難易度を調整した課題を提供した.経過に合わせ,生活場面を想定した模擬的な活動を取り入れ,その中での実践指導を行った.上肢機能評価はBRS,FMA,MAS,MALを用い,各評価を初回,1ヶ月後,2ヶ月後に実施した.
本介入はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者へ説明を行い,同意を得られたのちに介入を行った.
【結果】
上肢機能評価を初回評価→1ヵ月後→2ヶ月後の順にBRS:上肢Ⅳ→Ⅳ→Ⅳ,手指Ⅳ→Ⅳ→Ⅳ,FMA上肢項目:35点 → 39点 → 43点,MAS:1+ → 1→1 ,MAL-A:0.79→1.42→2.21,MAL-Q:0.57→1.14→1.92.調理や洗濯といった家事活動においても麻痺手の参加が見られるようになり,装具未装着での物品把持も可能となった.特に「料理の盛り付けを右手で行い,家族の食卓へ運ぶことができたことが嬉しかった.家族にも喜んでもらえた」との内省報告が聞かれた.
【考察】
本事例は手指の随意的な運動は可能であるが,分離性に欠けており,屈筋共同運動による手指屈曲,母指内転が物品の把持を困難にし,麻痺手の使用が難しい状況であった.装具を導入することで把握,つまみ動作に対する阻害因子を取り除き,反復的な課題遂行を行うことが可能となった.これらが運動学習の強化に繋がり,生活期症例の麻痺手機能改善に寄与したのではないかと考えられる.また,背面式の対立装具としたことで日常的生活内においても継続した装着が可能となり,使用場面への指導を行うことで,麻痺手の参加を促すことができ,生活内での使用頻度も増加した.Needに少しでも近づけるよう実生活場面へ介入し,実践できたことが事例の自信となり,活動の変化に繋がったと考察する.
近年,脳卒中片麻痺患者に対するニューロリハビリテーションの発展に伴い,脳の可塑的変化が確認されており,生活期での機能改善効果の報告も存在する.残存機能を活かした代償手段の獲得という目標のみならず,機能回復を目指したリハビリテーションが発展的に実施されている.その中の一手段として装具療法があり,機能改善目的として導入し,課題指向型アプローチと併用することで様々な学習を促すことが重要であるとされている.今回,生活期において右片麻痺を呈する脳卒中患者に対し,背面式対立装具を用いた課題指向型練習,使用場面への指導を行い,日常生活での麻痺手使用が可能となった一事例を報告する.
【方法】
事例は脳出血により右片麻痺を呈した60歳代女性.発症から約5年が経過しており,非麻痺側を用いた日常生活動作は全て自立.介入時の初期評価(罹病期間64ヶ月)はBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS)上肢Ⅳ,手指Ⅳであり,手指伸展運動の不十分さを認め,屈筋共同運動の亢進により母指内転が過剰に見られていた.Fugl-Meyer Assessment上肢項目(以下FMA)は35点,Modified Ashworth Scale(以下MAS)は1+.日本語版Motor Activity Log(以下MAL)にて日常生活内での使用頻度(Amount Of Use:MAL-A)や動作の質(Quality Of Movement:以下MAL-Q)を評価し,MAL-Aは0.79点,MAL-Qは0.57点と麻痺手は日常生活にほとんど参加しておらず,家事,炊事は家族に任せていた.元々料理を振る舞うことが好きとのことで,もう一度自分の手で,家族へ料理を作りたいという強い思いを感じた.
介入方法としては週2回,外来来院時に40分の課題指向型練習と麻痺手使用場面の指導を約2ヵ月実施した.課題指向型練習の実施にあたり,過剰な母指内転により物品の把持が困難であったことから背面式の対立装具を導入し,課題を実施可能な状況にて段階的に難易度を調整した課題を提供した.経過に合わせ,生活場面を想定した模擬的な活動を取り入れ,その中での実践指導を行った.上肢機能評価はBRS,FMA,MAS,MALを用い,各評価を初回,1ヶ月後,2ヶ月後に実施した.
本介入はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者へ説明を行い,同意を得られたのちに介入を行った.
【結果】
上肢機能評価を初回評価→1ヵ月後→2ヶ月後の順にBRS:上肢Ⅳ→Ⅳ→Ⅳ,手指Ⅳ→Ⅳ→Ⅳ,FMA上肢項目:35点 → 39点 → 43点,MAS:1+ → 1→1 ,MAL-A:0.79→1.42→2.21,MAL-Q:0.57→1.14→1.92.調理や洗濯といった家事活動においても麻痺手の参加が見られるようになり,装具未装着での物品把持も可能となった.特に「料理の盛り付けを右手で行い,家族の食卓へ運ぶことができたことが嬉しかった.家族にも喜んでもらえた」との内省報告が聞かれた.
【考察】
本事例は手指の随意的な運動は可能であるが,分離性に欠けており,屈筋共同運動による手指屈曲,母指内転が物品の把持を困難にし,麻痺手の使用が難しい状況であった.装具を導入することで把握,つまみ動作に対する阻害因子を取り除き,反復的な課題遂行を行うことが可能となった.これらが運動学習の強化に繋がり,生活期症例の麻痺手機能改善に寄与したのではないかと考えられる.また,背面式の対立装具としたことで日常的生活内においても継続した装着が可能となり,使用場面への指導を行うことで,麻痺手の参加を促すことができ,生活内での使用頻度も増加した.Needに少しでも近づけるよう実生活場面へ介入し,実践できたことが事例の自信となり,活動の変化に繋がったと考察する.