第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-14] 経時的に不安の訴えがあった事例に対して,複合的な上肢機能訓練を行った介入について

佐藤 光1, 竹林 崇2 (1.済生会東神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーションセラピスト部, 2.大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科)

【はじめに】運動学習を促す為にはある程度の失敗体験が必要とされている.しかし,精神疾患を有する脳卒中患者の場合,失敗体験など負の感情が蓄積される事により精神状況を悪化させ,リハビリテーションの履行が困難となる事も予測される.今回,脳卒中後の上肢麻痺だけではなく,既往の全般性不安障害とパニック障害の影響により,上肢麻痺の予後や機能に関して不安を訴え,失敗体験により精神・身体症状の出現を認める事例を担当した.失敗体験に配慮した介入をした結果,上肢機能の改善を認めた為,以下に報告する.
【事例紹介】40歳代女性.既往:全般性不安障害・パニック障害.病前のADL自立.左被殻出血を認め,23病日に当院の回復期病棟へ入院.麻痺手の上肢機能は,Brunnstrom Stage (Brs) 上肢Ⅱ-Ⅲ,手指Ⅱ.Fugl-Myere Assessment(FMA)2点.Action Research Arm Test(ARAT)0点.Bocks and Brock Test(BBT)0個.握力・ピンチ力0㎏.Motor Activity Log(MAL)-Amount of Use(AOU)・Quality of Movement(QOM)0点.精神機能は,Generalized Anxiety Disorder-7(GAD-7)9点.Mini-Mental State Examination30点.事例は「右手が動くようになってほしい」,「不安障害もあって不安です」と訴えた.尚,本報告は事例から書面にて同意を得ている.
【介入経過】1期:不安に配慮しつつ機能指向型訓練を中心に実施(23~50病日)
面接にてADOCを使用したところ,事例から「トイレと着替えをしたいけど右手が動かないと無理だね」等聞かれたが,現状では困難であった為,右上肢の機能改善を図っていく事を共有した.機能訓練では電気刺激療法を併用して促通反復療法を行い,末梢の随意性が出現した時点で短対立装具を使用し,課題指向形訓練(TOT)を実施した.訓練中に,訓練の失敗に対する不安,上肢機能訓練に対する不安,上肢機能の回復に対しての不安が聞かれた.その為,各不安の訴えに対して傾聴・正のフィードバック(FB)・難易度調整をして対応した.
2期:不安に配慮しつつ修正CI療法を実施(51~81病日).機能向上が得られた為,ADOC-Hを使用したところ「飲み物の開閉や袖まくりを行う」等が聞かれた.その際に,上肢機能の回復に対する不安も聞かれた為,対応として抽出された項目から9-10割達成できそうな活動を選択した.また,修正CI療法を導入し,TOTでは,不安を助長させずに成功体験を積み重ねていったが,事例から「腕が重くて震えてしまいます」,「前はできたのにまたできるようになりますか」等の訓練中の失敗に対する不安,上肢機能訓練に対する不安,上肢機能の回復に対する不安の訴えが聞かれた.その為,各不安の訴えに対して傾聴・正のFB・難易度調整を継続したところ事例から「前は動かなかったので進歩しましたよね」,「また頑張るので動きを見て欲しいです」等聞かれ,不安の訴えが減少した.また,更に麻痺手の使用を促す為には手指の握力・ピンチ力の向上が必要だと予測された為,訓練量の担保としてロボット療法による自主訓練を導入した.
【結果】BRS上肢Ⅴ,手指Ⅴ,FMA63点,ARAT54点,BBT右42個,握力9.2㎏,ピンチ力母指・示指2㎏,中指2.5㎏,MAL-AOU3点,QOM3.1点に向上した.精神機能では,GAD-7が6点であり,軽度不安障害の状態を維持した中で上肢機能訓練に取り組む事ができた.
【考察】FMA,ARAT,BBT,MALにおいてMCIDを上回る変化を示した.しかし,発症から第40病日頃の時点で手指の伸展と肩関節の外転を認めていた事から,自然回復の影響も含めて予後が良好であった可能性も考えられる.ただし,麻痺手の回復や失敗体験に対して過度の不安に伴う精神・身体症状を呈しており,今回の介入ができなかった場合,麻痺手の行動抑制が助長された可能性も考えられた.