[PA-8-15] マーカーレストラッキングを用いた脳卒中後上肢麻痺に対する手指伸展スプリントの三次元動作解析
【序論】我々は脳卒中による痙縮を伴う運動麻痺に対する治療法のひとつである装具治療に着目し,各指のPIP関節に独立した伸展機構を有する手指伸展用スプリントを開発した.これまで,急性期および慢性期脳卒中片麻痺患者を対象に本スプリントを使用した上肢機能訓練の特性について報告した.一方,スプリント装着による手指の動作の動的な変化については検証しておらず,客観的な指標に基づくスプリントの有用性を明らかにすることが課題であった.従来,手指の動作解析には,赤外線センサーを用いた簡易的な装置や,マーカーを使用した三次元解析が行われてきたが,手指の多関節かつ複雑な運動を精度よく分析することは難しく,スプリントの装着下ではさらにその分析が困難であった.そこで我々は,ディープラーニングによる画像解析及び三角測量を用いた三次元動作解析手法を導入し,本スプリントの有用性を動的な評価の視点から分析することとした.なお,本研究に際し当院倫理委員会の承認ならびに,対象者に書面にて説明,同意を得ている.
【スプリントの構造】形状記憶合金(以下,SMA)を特殊加工して作製しており,Ⅰ~Ⅴ指まで個別装着可能で,手指の痙縮の程度に応じて伸展方向に適切な張力をかけることが可能である.Ⅱ~Ⅴ指については基節骨や末節骨部を支点とするように装着しSMAの弾性力によって手指を伸展することができる.さらに今回は,Ⅰ指のCM関節に対応するため,2自由度(2段構造)のジンバル機構を採用し,手背部1段目に撓側外転方向,2段目に掌側外転方向にねじりばねの弾性力が作用する構造のスプリントを考案した.
【方法】対象は慢性期脳卒中右片麻痺患者4名(左被殻出血3名,左放線冠梗塞1名)とし,上田式12段階片麻痺テスト手指gread3~4.この4名に対しスプリントの装着,非装着下での手指屈曲伸展運動を教師データ作成用と解析課題用の2回ずつ実施した.課題中の動作を前方及び左右各1台,斜め前上方2台の計5箇所にカメラを設置し撮影した.マーカーレストラッキングの解析には,DeepLabCutとAniposeを使用し,対象部位は,掌の基部に加え,各指のMP,PIP,DIP関節部,手指先端部とした.それぞれの1回目の撮影動画からアングル毎に50枚の静止画像を抽出し,それらの画像を基に教師データを作成し50万回の反復学習を行った.学習したモデルを用い,2回目の撮影動画から対象部位を同定した.その後,各カメラの位置関係を計測し,手指の部位を三次元的に解析した.MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度に加え,Total Active Motion(以下,TAM)を算出し,課題中の手指の関節角度の変化を分析した.
【結果】三次元解析の結果,スプリント装着,非装着下での各手指関節の屈曲伸展可動域の変化を経時的に抽出することができた.20指中15指においてスプリント装着下でのTAMが減少し,伸展側に可動域が拡大していることが確認できた.また,同様の割合でTAMの最大値が減少しており,スプリントの抵抗に伴う屈曲可動域の縮小が認められた.
【考察】マーカーレストラッキングを用いることで手指の運動,ならびにスプリント装着による変化を定量的に分析することが可能となった.本スプリントは屈曲痙縮を伴う麻痺手の運動範囲を拡大させることを目的としており,本研究結果から伸展作用に寄与していることが改めて確認された.しかし,症例間や手指毎にスプリント装着による変化の傾向は異なっており,症例毎に詳細な手指の機能評価を行い,適切な張力などの条件検討を行う必要性が再認識された.また,手指の同定精度にも改善の余地があり,精度向上が今後の課題として残っている.
【スプリントの構造】形状記憶合金(以下,SMA)を特殊加工して作製しており,Ⅰ~Ⅴ指まで個別装着可能で,手指の痙縮の程度に応じて伸展方向に適切な張力をかけることが可能である.Ⅱ~Ⅴ指については基節骨や末節骨部を支点とするように装着しSMAの弾性力によって手指を伸展することができる.さらに今回は,Ⅰ指のCM関節に対応するため,2自由度(2段構造)のジンバル機構を採用し,手背部1段目に撓側外転方向,2段目に掌側外転方向にねじりばねの弾性力が作用する構造のスプリントを考案した.
【方法】対象は慢性期脳卒中右片麻痺患者4名(左被殻出血3名,左放線冠梗塞1名)とし,上田式12段階片麻痺テスト手指gread3~4.この4名に対しスプリントの装着,非装着下での手指屈曲伸展運動を教師データ作成用と解析課題用の2回ずつ実施した.課題中の動作を前方及び左右各1台,斜め前上方2台の計5箇所にカメラを設置し撮影した.マーカーレストラッキングの解析には,DeepLabCutとAniposeを使用し,対象部位は,掌の基部に加え,各指のMP,PIP,DIP関節部,手指先端部とした.それぞれの1回目の撮影動画からアングル毎に50枚の静止画像を抽出し,それらの画像を基に教師データを作成し50万回の反復学習を行った.学習したモデルを用い,2回目の撮影動画から対象部位を同定した.その後,各カメラの位置関係を計測し,手指の部位を三次元的に解析した.MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度に加え,Total Active Motion(以下,TAM)を算出し,課題中の手指の関節角度の変化を分析した.
【結果】三次元解析の結果,スプリント装着,非装着下での各手指関節の屈曲伸展可動域の変化を経時的に抽出することができた.20指中15指においてスプリント装着下でのTAMが減少し,伸展側に可動域が拡大していることが確認できた.また,同様の割合でTAMの最大値が減少しており,スプリントの抵抗に伴う屈曲可動域の縮小が認められた.
【考察】マーカーレストラッキングを用いることで手指の運動,ならびにスプリント装着による変化を定量的に分析することが可能となった.本スプリントは屈曲痙縮を伴う麻痺手の運動範囲を拡大させることを目的としており,本研究結果から伸展作用に寄与していることが改めて確認された.しかし,症例間や手指毎にスプリント装着による変化の傾向は異なっており,症例毎に詳細な手指の機能評価を行い,適切な張力などの条件検討を行う必要性が再認識された.また,手指の同定精度にも改善の余地があり,精度向上が今後の課題として残っている.