第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-16] 入院中の脳卒中患者の転倒を予測するカットオフ値:スコーピングレビュー

松本 大典, 藤田 貴昭, 五百川 和明 (福島県立医科大学保健科学部作業療法学科)

序論
 脳卒中患者では約半数が発症後1年以内に少なくとも1回の転倒を経験し,健康な人に比べて転倒が7倍多いことが報告されている(Abdollahi et al, 2022).転倒は日常生活活動の制限につながる可能性があり(Schmid and Rittma, 2009),脳卒中患者の転倒を予防することは極めて重要である.効果的な転倒予防の介入を行うためには予後予測を行い,ハイリスク対象者を特定することが必要となる.また臨床での実行可能性の観点から予測モデルは単一変数のカットオフ値など簡便であることが望ましい.その一方で,これまでに脳卒中患者の転倒を予測するカットオフ値についてまとめたレビューは見当たらない.
目的 
 入院中の脳卒中患者の転倒を予測するカットオフ値について,現在までに報告されている転倒予防に使用可能な変数やカットオフ値およびその精度について要約し,共通性や限界を明らかにすることで臨床的な示唆を得る.
方法
 本レビューはスコーピングレビューのガイドラインであるPreferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses extension for Scoping Reviewsに準じ,検索式の作成,データベース検索,一次スクリーニング,二次スクリーニングを行い,採択文献を決定した.検索式は演者2名(作業療法士)が合議のもとで作成し,一次および二次スクリーニングは同2名が独立して実施した.スコーピングレビューの選択基準として,(1)対象者が脳卒中患者であること,(2)入院期間の転倒を予測するカットオフ値を算出していること,(3)カットオフ値の精度を示すAUC,感度と特異度が算出されていること,(4)2023年12月31日までに公開されていることとした.除外基準は,(1)レビュー論文,(2)会議録,(3)英語以外の言語で書かれた論文とした.文献検索は2024年1月3日にPubmed,CINAHL,Scopusの電子データベースを使用して行われた.
結果
 データベース検索では合計199件の文献が抽出され,重複を除外後,110件となった.タイトルとアブストラクトの確認による一次スクリーニングの結果,75件の文献が除外された.一次スクリーニングを通過した35件について二次スクリーニングとして全文調査を行い,適格基準を満たした6件の文献が抽出された.
 6文献のサンプルサイズは33-227,転倒発生の割合は9.6-48.7%であった.Morse Fall Scale(MFS)とBerg balance scale(BBS)が複数の文献(それぞれ2文献)で使用されたが,研究間で結果の差が大きかった(MFS: AUC 0.61と0.85,BBS: AUC 0.65と0.81).全体としてAUCが0.5-0.7の変数が多く,AUCが0.8以上であったものはMFS(0.85),BBS(0.81),歩行ストライド時間の変動(0.84)であり,最もAUCが高かったMFSのカットオフ値は66.2点(感度92%,特異度73%)であった.
考察
 本レビューから,入院中の脳卒中患者の転倒を予防する単一変数のカットオフ値について,ゴールドスタンダードとなる指標は存在せず,全体として予測精度に限界のあるケースが多いことが明らかとなった.また同じ変数を使用した先行研究間でもカットオフ値と精度に一貫性がなく,これには研究間の対象者選定基準や追跡期間の不一致が影響している可能性が考えられた.これらのカットオフ値を臨床で使用する際は,精度の限界や適応基準について理解して使用する必要があることが示唆された.