[PA-8-19] 部屋着と外出着の更衣動作両方が自立した脳卒中片麻痺患者の特徴
【はじめに】部屋着と外出着では形態が異なり,更衣動作の自立度も一致するとは限らない.当院回復期リハビリテーション(リハ)病棟では,在宅復帰後の生活を考慮し,部屋着だけではなく外出着着用の更衣訓練も実施している.先行研究にて我々は,部屋着と外出着の更衣特性の違いから更衣動作の自立度が異なること,外出着の自立には部屋着の自立から約2週間要すことを報告した(回復期リハ病棟協会第30回研究大会2018).しかし,部屋着更衣が自立し,さらに外出着更衣が自立した患者と自立に至らなかった患者の特徴の違いについては検討していない.そこで今回,部屋着更衣が自立した患者において,外出着更衣が自立した患者と自立に至らなかった患者の特徴を調査した.
【対象】2018年6月から2022年3月までに回復期リハ病棟に入院した初発の脳卒中片麻痺患者で,退院時,部屋着の更衣動作が自立していた354名(男性211名,女性143名,年齢66.4歳±14.1歳)を対象とした.疾患内訳は脳梗塞222名,脳出血111名,クモ膜下出血21名であった.なお,死亡や入院中に状態悪化した患者は除外した.研究対象とすることに関する説明と同意は,インフォームドコンセントを省略する代わりに,当法人ホームページにて研究情報を公開し対象者が拒否できる機会を保障し,当法人倫理委員会の承認を受けた(受付番号120-07).
【方法】対象者を外出着更衣の自立群と非自立群の2群に分けた.両群において,性別,年齢,回復期リハ病棟入院日数,身体機能の指標として回復期リハ病棟退院時における上肢手指下肢のBrunnstrom stage(BRS),認知機能の指標としてFunctional Independence Measure(FIM)認知項目の5項目(理解,表出,社会的交流,問題解決能力,記憶)を採用し,群間比較した.統計解析はMann-WhitneyのU検定とカイ二乗検定を用いた.
【結果】自立群は334名,非自立群は20名であった.両群間において,性別,年齢,回復期リハ病棟入院日数,回復期リハ病棟退院時の上肢手指下肢BRSに有意差は認められなかった.FIM認知項目は5項目の内,理解,表出の2項目に関しては有意差を認められなかったが,社会的交流(自立群6.6±0.8点,非自立群6.1±1.3点),問題解決能力(自立群6.0±1.2点,非自立群5.0±1.4点),記憶(自立群6.1±1.2点,非自立群5.3±1.7点)の3項目は,いずれも自立群が非自立群に比べ有意に高かった(p<0.05).
【考察】外出着の更衣動作自立には,FIM認知項目における社会的交流,問題解決能力,記憶が抽出された.社会的交流に関しては,FIMでは対人交流における迷惑行為の頻度を指標としており,対人交流を適切にふるまう意欲の高いことが評価される.従って,適切な対人交流に向けた意欲が外出着の更衣訓練への動機付けとして重要であり,要因として抽出されたと考えられる.問題解決能力と記憶に関しては,外出着は部屋着に比べて衣服形態が複雑であり,着脱方法も単一的ではないため,患者自身で方法を模索する能力とその着脱方法を記憶して定着させる能力が重要であり,要因として抽出されたと考えられる.脳卒中片麻痺患者の更衣動作に関する先行研究では,更衣動作を獲得するためには片麻痺の重症度やバランス能力といった身体機能との関連についての報告は散見される.本研究では部屋着更衣が自立している患者を対象としており,対象者の身体機能は保たれていると想定され,その結果,認知機能のみが抽出されたと考えられる.部屋着更衣が自立した患者に対し退院後の生活を考慮して外出着の着用を促すには,身体機能のみにとらわれず,認知機能の詳細な評価やアプローチを実施することが有用であることが示唆された.
【対象】2018年6月から2022年3月までに回復期リハ病棟に入院した初発の脳卒中片麻痺患者で,退院時,部屋着の更衣動作が自立していた354名(男性211名,女性143名,年齢66.4歳±14.1歳)を対象とした.疾患内訳は脳梗塞222名,脳出血111名,クモ膜下出血21名であった.なお,死亡や入院中に状態悪化した患者は除外した.研究対象とすることに関する説明と同意は,インフォームドコンセントを省略する代わりに,当法人ホームページにて研究情報を公開し対象者が拒否できる機会を保障し,当法人倫理委員会の承認を受けた(受付番号120-07).
【方法】対象者を外出着更衣の自立群と非自立群の2群に分けた.両群において,性別,年齢,回復期リハ病棟入院日数,身体機能の指標として回復期リハ病棟退院時における上肢手指下肢のBrunnstrom stage(BRS),認知機能の指標としてFunctional Independence Measure(FIM)認知項目の5項目(理解,表出,社会的交流,問題解決能力,記憶)を採用し,群間比較した.統計解析はMann-WhitneyのU検定とカイ二乗検定を用いた.
【結果】自立群は334名,非自立群は20名であった.両群間において,性別,年齢,回復期リハ病棟入院日数,回復期リハ病棟退院時の上肢手指下肢BRSに有意差は認められなかった.FIM認知項目は5項目の内,理解,表出の2項目に関しては有意差を認められなかったが,社会的交流(自立群6.6±0.8点,非自立群6.1±1.3点),問題解決能力(自立群6.0±1.2点,非自立群5.0±1.4点),記憶(自立群6.1±1.2点,非自立群5.3±1.7点)の3項目は,いずれも自立群が非自立群に比べ有意に高かった(p<0.05).
【考察】外出着の更衣動作自立には,FIM認知項目における社会的交流,問題解決能力,記憶が抽出された.社会的交流に関しては,FIMでは対人交流における迷惑行為の頻度を指標としており,対人交流を適切にふるまう意欲の高いことが評価される.従って,適切な対人交流に向けた意欲が外出着の更衣訓練への動機付けとして重要であり,要因として抽出されたと考えられる.問題解決能力と記憶に関しては,外出着は部屋着に比べて衣服形態が複雑であり,着脱方法も単一的ではないため,患者自身で方法を模索する能力とその着脱方法を記憶して定着させる能力が重要であり,要因として抽出されたと考えられる.脳卒中片麻痺患者の更衣動作に関する先行研究では,更衣動作を獲得するためには片麻痺の重症度やバランス能力といった身体機能との関連についての報告は散見される.本研究では部屋着更衣が自立している患者を対象としており,対象者の身体機能は保たれていると想定され,その結果,認知機能のみが抽出されたと考えられる.部屋着更衣が自立した患者に対し退院後の生活を考慮して外出着の着用を促すには,身体機能のみにとらわれず,認知機能の詳細な評価やアプローチを実施することが有用であることが示唆された.