第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-20] 段階的な介入により右手での食事動作を獲得した脳卒中重度片麻痺患者の一症例

芦澤 理香1, 荒 洋輔1, 阿部 正之1, 白坂 智英2 (1.社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンター リハビリテーション部 作業療法科, 2.社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンター 診療部 リハビリテーション科)

【はじめに】脳卒中患者の上肢機能障害へのアプローチとして,中等度~重度麻痺に対しては神経筋電気刺激や,ロボット療法,また軽度から中等度麻痺に対しては特定の動作反復を伴った訓練を行うことが勧められており,麻痺の回復段階に応じてエビデンスが示されている.今回,重度右片麻痺患者に対し,電気刺激療法やロボット療法,物品操作訓練などを回復に合わせて段階的に実施した結果,本人のデマンドである右手での食事動作獲得に至ったため報告する.報告に際し,本人の同意を得ている.
【症例紹介】左放線冠ラクナ梗塞により右片麻痺を呈した70 歳代男性.12 病日に回復期リハビリテーション病棟へ入院となった.病前は独居でADL 自立,週 5 日就労もしていた.デマンドは利き手である右手で食事ができるようになりたいであった.
【作業療法評価】 FMA 上肢運動項目は 22 点(A21/B0/C1/D0),ARAT は左 57 点,右 3 点,感覚は表在・深部ともに軽度鈍麻であった.MAL は AOU・QOM ともに 0.11,食事場面で右手は不参加であり,遂行度,満足度はともに 0 点であった.MMSE-J は 27 点,ADL は支持無し歩行で軽介助レベル,運動 FIM は 58 点であった.OT 介入方針としてデマンドである右手で介助箸を用いた食事動作獲得に向けて上肢・手指機能訓練を中心に行うことを本人と共有した.
【介入経過】第 1 期:OT 訓練で他動的電気刺激(NM-F1)と徒手療法にて手指・手関節伸展の反復練習を実施した.また自主訓練として,手指用ロボット(AMADEO)と上肢用ロボット(ReoGo-J)訓練を各 30 分/回,週 4 回で実施,これらは難易度を調整し退院時まで継続した.第 2 期:筋電駆動型電気刺激(IVES)を併用し物品操作課題を開始した.また,院内生活で右手の使用を促すとともに,自主訓練としてOT 訓練で獲得した物品操作課題の復習,および屈筋群のコンディショニングとして他動的電気刺激(H200)を追加した.後半には介助箸の操作練習を OT 訓練,自主訓練へ追加した.
【結果】初回(14 病日)→中間(57 病日)→最終(80病日)で記載.FMA は 22(A21/B0/ C1/D0)→42(A30/B7/C5/D0)→54 点(A33/B7/C9/D5),ARAT は 3→26→30 点,MAL(AOU/QOM)は 0.11/0.11→0.78/0.33→1.78/1.57 となった.食事は介助箸を使用し全量摂取が可能となり,遂行度は 0→0→10,満足度は 0→0→7 となった.屋内外移動は支持なし歩行で自立し,運動 FIMは90点となった.
【考察】今回,重度片麻痺患者に対して段階的アプローチを提供し,その結果,上肢機能改善が認められデマンドである右手での食事が可能となった.ガイドラインにて訓練量や頻度を増やすことは強く勧められており,ロボット療法はそれを可能にする訓練として有用性が示されている.今回,通常の OT 訓練に併せて,介入早期から自主訓練として回復段階に合わせた難易度でのロボット療法を導入したこと,また,機能改善に合わせたタイミングで都度,物品操作課題や介助箸練習を導入したこと,さらに,患者自身が訓練の意図を理解した上で高いモチベーションを維持し,それらを継続して実施できたことが機能改善および目標達成に至った要因と考える.