第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-22] 装具カンファレンスを受けた脳卒中片麻痺患者の歩行能力向上は年齢と認知機能に影響される

山本 禎1,2, 滝澤 宏和1,3, 濱口 豊太1 (1.埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科, 2.医療法人社団東光会 戸田中央リハビリテーション病院 リハビリテーション科, 3.医療法人社団武蔵野会 新座病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
歩行獲得に向けたリハビリテーション治療には下肢装具や上肢装具を使用した運動療法が有効であることが知られている(Otaら, 2018). 患者に適した装具を選択するためには定期的な多職種での装具カンファレンスが望ましいとされている(Bashirら, 2022). 一方, 歩行能力を向上させるには年齢と認知機能が関与していると報告されている(Prestonら, 2021). 装具カンファレンスを受けた患者における歩行改善量にも,年齢と認知機能が要因になっていることがわかれば, 装具療法を行うべき患者の選定に寄与できる. 本研究では, 装具カンファレンスを行った脳卒中患者のうち, 歩行改善量を年齢と認知機能を層別して調査した.
【方法】
研究デザインは後ろ向き観察研究とした. 本研究は研究実施病院の倫理委員会の承認を得た. 研究期間は2022年4月1日から2023年3月31日までに当院に入院した脳出血, 脳梗塞患者とした. 適格基準は, 1)脳卒中(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)を発症した患者, 2)入院時のBrunnstrom Recovery Stage: BRSの下肢がステージ4以下かつ亜脱臼のある患者を対象とした. 除外基準は, 1)外傷性脳損傷, 2)脳卒中以外に運動麻痺が生じる疾患を持っているもの, 3)両側性脳卒中があるもの, 4)適格基準と除外基準を判別するために必要なデータが欠損しているものとした. 取得データは年齢, 性別, 疾患, 亜脱臼の有無, FIM, BRS下肢とした. 入院時と退院時のデータの差からΔ歩行FIMを算出した. Δ歩行FIMを従属変数とし, 層別化した患者の年代 (40代, 50代, 60代, 70代, 80代以上), と入院時の認知FIM (10点未満, 10-19点, 20-29点, 30点以上) を独立変数として2元配置分散分析を実施した. 主効果があった因子においてTukeyのPost-hoc検定を行った.
【結果】
研究実施期間に入院した患者の中から適格基準を満たす者は116名であった. 除外基準により15名が除外され, 最終解析対象は101名であった. 患者の年代と入院時の認知FIMによる交互作用は認められなかった (F[10, 83]=0.43, p=.92). 年齢 (F[4, 83]=5.88, p<.01) , 入院時の認知FIM (F[3, 83]=7.67, p<.01) に有意な主効果があった.
Post-hoc検定では, 年代におけるΔ歩行FIMは40代 (3.0±2.6) に比べて70代 (0.8±1.6)と 80代以上 (0.38±0.92) は有意に低かった (p<.01). 同じく50代 (2.14±2.28) に比べ80代以上は有意に低かった (p=. 03). Δ歩行FIMは入院時の認知FIMが10点未満の群 (0.2±1.1) のほうが20-29点の群 (1.6±2.0) および30点以上の群 (4.3±2.1) よりも低かった (p<.05). 入院時の認知FIMが10-19点の群 (0.9±1.5)と20-29点の群は, 30点以上の群に比べて低かった (p<.01).
【考察】
本研究の結果より, 年齢が60歳以降または入院時の認知FIMが20点未満の脳卒中患者では, 装具療法の効果として歩行FIMの改善が低いことが示唆された. 高齢者に効果のある歩行訓練法には抵抗運動による下肢筋力強化 (Prevettら, 2022) が有効であり, 筋力強化には栄養介入と運動を組み合わせた方法が最も効果的であることが報告されている (Wuら, 2021). また, 認知機能訓練法には有酸素運動と認知訓練を組み合わせた訓練が有効であることが報告されている(Gheysenら, 2018). 脳卒中患者に装具カンファレンスを行う場合, 患者が60歳以上または入院時の認知FIMが20点未満の患者には, 装具の適用以外に, 機能訓練の適用, 栄養状態, 認知機能訓練を検討すべきだろう.