[PA-8-4] 重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対する段階的なTask practiceとTransfer packageの導入
【目的】
CI療法やTransfer package(TP)の重度片麻痺や感覚障害,高次脳機能障害をもつ症例への適用は,現在その知見が集積されている段階である.今回,重度左片麻痺と感覚障害を呈した事例に対し,早期から段階的にTask practiceとTPを導入した結果,入院期間中に麻痺手の機能向上および生活での使用頻度が向上し,自宅退院後6ヶ月にはさらなる麻痺手の使用頻度の向上が認められたため,以下に報告する.
【事例紹介】
60歳代女性.右視床出血.脳室穿破あり.15病日に当院回リハ病棟へ転棟.左利き.息子と2人暮らしで病前ADL自立.家事全般,就労(スーパーのレジ打ち),猫の世話が役割であった.
初期評価(17病日)において,FMA6点.麻痺側肩関節に亜脱臼あり.感覚は表在,深部共に重度鈍麻〜脱失.握力とSTEFは麻痺側での測定困難.認知機能はMMSEが23点.動作場面で分配性,転換性の注意機能低下,左半側空間無視,構成障害あり.Hopeは猫の缶詰が開けられるようになりたいであった.本報告は,患者の情報とプライバシー保護に配慮し,本人から書面にて同意を得た.
【経過】
18病日〜32病日:電気刺激を併用した促通反復療法にて機能向上を図った.また,電気刺激を併用した自主練習も実施した.32病日にはFMA27点となり,手指集団屈伸が十分に可能となった.
33病日〜115病日:課題指向型練習(TOT)を開始した.ペグ等やお手玉でのShapingを実施するも努力性が強く,非効率な機能練習となっていた.一方,手洗い動作や薬包ちぎり等のTask Practiceでは努力性が少なく効率的に練習が行える様子があったので,難易度調整を慎重に行った上でTask Practice中心の機能練習を行った.身体機能の向上が見られ,生活での麻痺手使用の希望が聞かれた.40病日からTPを開始し目標設定を行った.この時点でのMotor Activity Log(MAL)は使用頻度(AOU),動作の質(QOM)ともに0点であった.過剰な努力性が出ないよう,段階的に難易度を上げた.徐々に生活場面での使用も増え,自宅生活を見据えてのTOTを継続した.115病日に自宅退院となり,退院時のFMA 52点,感覚は表在は左右差なし,深部は軽度鈍麻レベルまで改善した.麻痺側の握力7.8kg,STEF1点,MALはAOU1.4点,QOM1.3点に改善した.
自宅退院後:退院後6ヶ月(298病日)時点のMALはAOU1.8点,QOM2.0点.事例自身で考え生活内で麻痺手の使用する場面が増加し,猫の缶詰も開封することが可能となった.
【考察】
先行研究において,TPを実施した群はCI療法後6ヶ月以降も麻痺手の機能向上と使用が継続することが報告されている(Takebayashi et al, 2013).今回,重度の運動麻痺,感覚障害を呈した事例においても,先行研究と同様の結果を得ることができた.TOTにおけるTask Practiceは作業の目的的利用とされ,生活動作に近い課題である.意味のある作業に注意が向くことで効率良く機能練習を行うことができ,また意味のある作業を治療的に活用することで事例自身がどのような場面で麻痺手を使用するかを想像することに繋がったことが,良好な結果が得られた要因として考えられる.また今回,TP導入にあたって,肩,肘の随意性が乏しいことを考慮した段階づけを行い,麻痺手使用の成功体験を積み重ねるように心掛けた.その結果,麻痺手使用の自信や効力感を高め,退院後のさらなる麻痺手の使用頻度の向上につながったと考えられる.
一方,本事例は回復期であり自然回復の影響を排除できず,また一事例の結果であるため結果の一般化は困難である.今後,症例数を増やしその効果を検証する必要がある.
CI療法やTransfer package(TP)の重度片麻痺や感覚障害,高次脳機能障害をもつ症例への適用は,現在その知見が集積されている段階である.今回,重度左片麻痺と感覚障害を呈した事例に対し,早期から段階的にTask practiceとTPを導入した結果,入院期間中に麻痺手の機能向上および生活での使用頻度が向上し,自宅退院後6ヶ月にはさらなる麻痺手の使用頻度の向上が認められたため,以下に報告する.
【事例紹介】
60歳代女性.右視床出血.脳室穿破あり.15病日に当院回リハ病棟へ転棟.左利き.息子と2人暮らしで病前ADL自立.家事全般,就労(スーパーのレジ打ち),猫の世話が役割であった.
初期評価(17病日)において,FMA6点.麻痺側肩関節に亜脱臼あり.感覚は表在,深部共に重度鈍麻〜脱失.握力とSTEFは麻痺側での測定困難.認知機能はMMSEが23点.動作場面で分配性,転換性の注意機能低下,左半側空間無視,構成障害あり.Hopeは猫の缶詰が開けられるようになりたいであった.本報告は,患者の情報とプライバシー保護に配慮し,本人から書面にて同意を得た.
【経過】
18病日〜32病日:電気刺激を併用した促通反復療法にて機能向上を図った.また,電気刺激を併用した自主練習も実施した.32病日にはFMA27点となり,手指集団屈伸が十分に可能となった.
33病日〜115病日:課題指向型練習(TOT)を開始した.ペグ等やお手玉でのShapingを実施するも努力性が強く,非効率な機能練習となっていた.一方,手洗い動作や薬包ちぎり等のTask Practiceでは努力性が少なく効率的に練習が行える様子があったので,難易度調整を慎重に行った上でTask Practice中心の機能練習を行った.身体機能の向上が見られ,生活での麻痺手使用の希望が聞かれた.40病日からTPを開始し目標設定を行った.この時点でのMotor Activity Log(MAL)は使用頻度(AOU),動作の質(QOM)ともに0点であった.過剰な努力性が出ないよう,段階的に難易度を上げた.徐々に生活場面での使用も増え,自宅生活を見据えてのTOTを継続した.115病日に自宅退院となり,退院時のFMA 52点,感覚は表在は左右差なし,深部は軽度鈍麻レベルまで改善した.麻痺側の握力7.8kg,STEF1点,MALはAOU1.4点,QOM1.3点に改善した.
自宅退院後:退院後6ヶ月(298病日)時点のMALはAOU1.8点,QOM2.0点.事例自身で考え生活内で麻痺手の使用する場面が増加し,猫の缶詰も開封することが可能となった.
【考察】
先行研究において,TPを実施した群はCI療法後6ヶ月以降も麻痺手の機能向上と使用が継続することが報告されている(Takebayashi et al, 2013).今回,重度の運動麻痺,感覚障害を呈した事例においても,先行研究と同様の結果を得ることができた.TOTにおけるTask Practiceは作業の目的的利用とされ,生活動作に近い課題である.意味のある作業に注意が向くことで効率良く機能練習を行うことができ,また意味のある作業を治療的に活用することで事例自身がどのような場面で麻痺手を使用するかを想像することに繋がったことが,良好な結果が得られた要因として考えられる.また今回,TP導入にあたって,肩,肘の随意性が乏しいことを考慮した段階づけを行い,麻痺手使用の成功体験を積み重ねるように心掛けた.その結果,麻痺手使用の自信や効力感を高め,退院後のさらなる麻痺手の使用頻度の向上につながったと考えられる.
一方,本事例は回復期であり自然回復の影響を排除できず,また一事例の結果であるため結果の一般化は困難である.今後,症例数を増やしその効果を検証する必要がある.