第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-5] HANDS療法とTransfer packageにより日常生活での麻痺手使用頻度向上と望む作業の実現につながった脳卒中片麻痺者の一事例

木村 敬吾1, 大渕 修一2 (1.医療法人社団 巨樹の会 赤羽リハビリテーション病院 リハビリテーション科, 2.地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所)

【はじめに】脳卒中片麻痺者への上肢機能アプローチにHybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation(以下,HANDS療法)がある.(Fujiwaraら,2009)HANDS療法とは随意運動介助型電気刺激装置を1日8時間3週間装着し麻痺手使用を促進するアプローチで, 当院では対象者に合わせて1日3時間から実施している.HANDS療法は脳卒中後上肢麻痺の末梢部の機能改善に効果が示されている.一方で,麻痺手使用行動に対する改善は課題とされている.そこで石垣らはCI療法でのTransfer Package(以下,TP)を簡略化して追加したHANDS療法を回復期の対象者に実施した結果,麻痺手の使用頻度向上を認めたと報告している.(石垣ら,2018)今回ADLでの麻痺手使用の定着が困難な脳卒中片麻痺者に対して,1日3時間3週間のHANDS療法とTPを併用し実施した.その結果麻痺手使用頻度の向上と,介入後も自身で望む作業を目標設定する行動の変化が見られ,実現に至ったためここに報告する.
【事例紹介】事例は50歳代前半の男性である.利き手は右.妻,娘と3人暮らしで病前ADLは自立し,仕事は会社員であった.今回仕事中に左半身麻痺出現し,救急要請.右被殻出血の診断となる.発症34病日目に当院回復期病院に転院し作業療法開始となった.
【倫理に対する配慮】本報告の公表については筆頭演者が説明を行い口頭と書面にて同意を得た.また「人を対象とする医学的研究に関する倫理指針」に従い管理を行い,医療法人社団巨樹の会赤羽リハビリテーション病院倫理委員会の審査にて承認を得ている.
【初期評価】35病日目の評価では,ADLはFIMにて運動42点,認知32点の合計74点であった.認知機能評価はMMSEで28点であった.上肢機能評はfugl-meyer assessment(以下,FMA)で6点, 感覚は中等度鈍麻であった.Motor Activity Log(以下,MAL)ではAmount of Use(以下,AOU)とQuality of Movement(以下,QOM)ともに0点で,ADLでの麻痺手使用は困難であった.
【作業療法介入と経過】FMA6点と上肢の随意性が低い時期にはBFO(Balanced Forearm Orthosis)型上肢装具と手関節装具を装着し電気刺激療法と課題指向訓練を作業療法時間に実施した.74病日目にはFMA33点まで改善したが,「動いてきましたが全く使ってないですね」と事例の発言があり,MALはAOU,QOMともに0点と病棟での麻痺手の使用定着は困難であった.75病日目より作業療法の時間以外に1日3時間3週間のHANDS療法とTPを併用し実施した.TPは石垣らの論文を参考に麻痺手行動記録表を作成し,麻痺手使用頻度をMALのAOUの順序尺度を用いて自己評価し,記載してもらった. (石垣ら,2018)麻痺手の使用場面は病棟での麻痺手使用場面の一覧表を作成しOTと課題を選んだ. 96病日目にはFMAで51点,MALはAOUで0.9点,QOMで2.2点と改善した.また「この手で料理や包丁も使ってみたい」等事例の発言にも変化が見られ,再度事例がやりたい作業を話し合い「料理」「掃除」「洗濯」「肉をはさみで切る」を目標とし練習を行った.
【結果】137病日目の評価ではADLでFIMにて運動83点,認知35点の合計118点となり独歩自立となった.上肢機能評価ではFMAで54点, 感覚は軽度度鈍麻に改善し,MALではAOUで2点,QOMで2.3点と向上した.また事例自身が目標設定し取り組んだ作業を達成した.その後,発症146病日目に自宅退院し,1か月後に職場復帰した.
【考察】麻痺手の使用頻度向上にはHANDS療法での電気刺激により筋活動を補助したことと,TPにより具体的な麻痺手使用場面をリスト化したことにより,麻痺手使用の意識化につながったと考える.またこの過程は介入終了後にも事例自身で望む作業を目標設定する行動変容につながったと考える.