[PA-8-6] 重度上肢麻痺を呈する慢性期脳卒中患者に対し,ボツリヌス療法を含む複合的な介入を行い,顕著な運動麻痺の改善が得られた一例
【はじめに】
脳卒中後上肢麻痺に対する介入について,その多くが運動学習理論に基づく麻痺手の使用頻度向上に焦点が当てられているが,重度上肢麻痺に対しては適応が難しいのが現状である.近年,病態に合わせて複数の治療法を併用することで一定の成果が報告されている(Shimodozono et al,2014;林ら,2017).一方で,慢性期の重度上肢麻痺を対象とした報告は少ない.今回,発症から16ヶ月が経過し,重度の上肢麻痺および痙縮が麻痺手の使用を阻害している患者に対し,ボツリヌス療法と併用して複合的な介入を実施した結果,運動麻痺の顕著な改善を認めた為報告する.この症例報告に際して,患者から書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
60代男性,職業は自営業(事務仕事).X年Y月にアテローム血栓性脳梗塞を発症し保存的加療となった.入院中に約7ヶ月間のリハを実施したのち自宅退院となり,退院後は週2回の外来リハと週3回の保険外リハを継続,更なる上肢機能の改善を希望しX年Y月+16ヶ月から当施設の利用を開始した.
【経過と介入】
介入期間は6ヶ月間で,利用頻度は利用開始から4ヶ月間は外来リハと合わせ週4回(外来1回/60分を1回/週,当施設1回/75分を3回/週),4ヶ月目からは復職の関係で週1回,5ヶ月目からは週2回であった.当施設利用開始時,生活動作は全自立,麻痺側は利き手である右側で,上肢機能はFugl-Meyer Assessment上肢項目(FMA-UE):20点,Action Research Arm Test(ARAT):3点,Motor Activity Log(MAL)はAmount of Use(AOU):0.38点/ Quality of Movement(QOM):0.23点,Modified Ashworth Scale(MAS):肘関節伸展2,手関節背屈3,手指伸展2であった.運動麻痺と痙縮が重度で一度手を握り込むと手を開くことが困難であった.目標設定では,生活上での麻痺手使用という大まかな希望はあるが具体的な優先項目は表出されず,初回の目標は「リハ場面において右手で物品の把持・リリースができる」となった.介入は複数の介入方法を併用した.当施設利用中に医療機関と連携し痙縮抑制目的でボツリヌス療法を合計2回施行.加えて,ストレッチ時に振動刺激を併用し,肩から末梢にかけて痙縮抑制を図った.麻痺手の機能改善目的に,電気刺激併用下で促通反復療法とシェイピング課題を実施した.直径1〜3cmの物品を操作方向と代償動作の程度で難易度調整した.適宜装具やテーピングを併用し手関節及び手指の環境を整えた.
【結果】
発症22ヶ月目(当施設利用開始6ヶ月目)にはFMA–UE:42点, ARAT:6点,MAL:AOU0.35点/QOM0.14点,MAS:肘関節伸展1+,手関節背屈2,手指伸展1とMAL以外大きな改善を認め,手関節掌屈位で母指から中指の伸展,母指の分離運動,側腹つまみが可能となった.初回の目標であった「リハ場面において物品の把持・リリースができる」は達成された.
【考察】
本研究では,痙縮を伴う重度の上肢運動麻痺を有する慢性期脳卒中患者に対し,ボツリヌス療法を含む複合的な介入を実施した結果,痙縮及び運動麻痺の改善が認められた.これは先行研究( Devier et al. 2017)と同様の結果であり,複合介入の有用性が示された.上肢麻痺の改善は本症例の方が大きく,麻痺の重症度,介入頻度,介入内容の違いが影響している可能性がある.一方で,MALの改善は乏しかった.これは上肢麻痺の重症度とMALの関係性を示した先行研究(Stewart and Cramer, 2013)から,本症例も上肢麻痺の重症度が影響していると考える.今後は複合介入を継続するとともに,日常生活における麻痺手の使用を促進する為の介入を検討する必要がある.
脳卒中後上肢麻痺に対する介入について,その多くが運動学習理論に基づく麻痺手の使用頻度向上に焦点が当てられているが,重度上肢麻痺に対しては適応が難しいのが現状である.近年,病態に合わせて複数の治療法を併用することで一定の成果が報告されている(Shimodozono et al,2014;林ら,2017).一方で,慢性期の重度上肢麻痺を対象とした報告は少ない.今回,発症から16ヶ月が経過し,重度の上肢麻痺および痙縮が麻痺手の使用を阻害している患者に対し,ボツリヌス療法と併用して複合的な介入を実施した結果,運動麻痺の顕著な改善を認めた為報告する.この症例報告に際して,患者から書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
60代男性,職業は自営業(事務仕事).X年Y月にアテローム血栓性脳梗塞を発症し保存的加療となった.入院中に約7ヶ月間のリハを実施したのち自宅退院となり,退院後は週2回の外来リハと週3回の保険外リハを継続,更なる上肢機能の改善を希望しX年Y月+16ヶ月から当施設の利用を開始した.
【経過と介入】
介入期間は6ヶ月間で,利用頻度は利用開始から4ヶ月間は外来リハと合わせ週4回(外来1回/60分を1回/週,当施設1回/75分を3回/週),4ヶ月目からは復職の関係で週1回,5ヶ月目からは週2回であった.当施設利用開始時,生活動作は全自立,麻痺側は利き手である右側で,上肢機能はFugl-Meyer Assessment上肢項目(FMA-UE):20点,Action Research Arm Test(ARAT):3点,Motor Activity Log(MAL)はAmount of Use(AOU):0.38点/ Quality of Movement(QOM):0.23点,Modified Ashworth Scale(MAS):肘関節伸展2,手関節背屈3,手指伸展2であった.運動麻痺と痙縮が重度で一度手を握り込むと手を開くことが困難であった.目標設定では,生活上での麻痺手使用という大まかな希望はあるが具体的な優先項目は表出されず,初回の目標は「リハ場面において右手で物品の把持・リリースができる」となった.介入は複数の介入方法を併用した.当施設利用中に医療機関と連携し痙縮抑制目的でボツリヌス療法を合計2回施行.加えて,ストレッチ時に振動刺激を併用し,肩から末梢にかけて痙縮抑制を図った.麻痺手の機能改善目的に,電気刺激併用下で促通反復療法とシェイピング課題を実施した.直径1〜3cmの物品を操作方向と代償動作の程度で難易度調整した.適宜装具やテーピングを併用し手関節及び手指の環境を整えた.
【結果】
発症22ヶ月目(当施設利用開始6ヶ月目)にはFMA–UE:42点, ARAT:6点,MAL:AOU0.35点/QOM0.14点,MAS:肘関節伸展1+,手関節背屈2,手指伸展1とMAL以外大きな改善を認め,手関節掌屈位で母指から中指の伸展,母指の分離運動,側腹つまみが可能となった.初回の目標であった「リハ場面において物品の把持・リリースができる」は達成された.
【考察】
本研究では,痙縮を伴う重度の上肢運動麻痺を有する慢性期脳卒中患者に対し,ボツリヌス療法を含む複合的な介入を実施した結果,痙縮及び運動麻痺の改善が認められた.これは先行研究( Devier et al. 2017)と同様の結果であり,複合介入の有用性が示された.上肢麻痺の改善は本症例の方が大きく,麻痺の重症度,介入頻度,介入内容の違いが影響している可能性がある.一方で,MALの改善は乏しかった.これは上肢麻痺の重症度とMALの関係性を示した先行研究(Stewart and Cramer, 2013)から,本症例も上肢麻痺の重症度が影響していると考える.今後は複合介入を継続するとともに,日常生活における麻痺手の使用を促進する為の介入を検討する必要がある.