[PA-8-7] 重度上肢麻痺患者に対して目標を共有し上肢機能訓練や動作方法の提案を行うことで育児動作再獲得を目指した一例
【はじめに】回復期の作業療法においては,退院後の生活を見据えて患者と目標を共有し介入していくことが重要である.今回重度上肢麻痺を呈した症例に対して,育児再開に向けてカナダ遂行測定(COPM)を用いて目標を設定し,修正CI療法による上肢機能訓練や育児動作の方法を検討した.退院1ヶ月後まで経過を追い,育児動作再獲得の一助となったため報告する.尚,本報告にあたり症例に同意を得た.
【症例紹介】症例はアテローム血栓性脳梗塞により左上肢の運動麻痺を呈した40歳代女性で, 8歳女児と3歳男児を育てる専業主婦であった.発症2週後に当院へ入院となり,入浴以外の日常生活動作が独歩で自立していた.上肢機能は,Stroke Impairment Assessment Set上肢運動項目(SIAS-m) (1,1a),Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)8点と重度運動麻痺を認め,Modified Ashworth Scale(MAS)0点,表在・深部感覚は正常であった.入院当初より「娘の髪を結べるようになりたい」との希望が聞かれていた.
【方法】上肢機能に対して,入院初期は促通運動やミラー療法を実施し,2.5週後からロボット療法,2ヶ月後から修正CI療法を開始した.症例は家事や育児に対する不安を訴えていた為,退院後の課題を整理し目標を共有することで自己効力感の向上を図る必要があると考えた.そこで,修正CI療法開始前にCOPMを用いてニーズを聴取したところ,"育児"が重要な作業として挙げられた.さらに症例との対話により必要な育児動作を列挙し,重要度と遂行度,満足度を聴取した.「挙げられた育児動作を実用的に実施できること」を目標として共有し,模擬動作や実動作場面の動画を用いて作業工程分析を行った.その後修正CI療法のプロトコールに従い3週間の介入を行った.併せて育児動作を模擬的に確認し困難さに応じて対応方法を提案した.入院3ヶ月で退院となり,その1ヶ月後に当院外来にて育児の状況について聴取した.
【経過および結果】修正CI療法開始時の左上肢機能は,SIAS-m上肢(4,2),FMA-UE 51点,握力8.7kg,Nine Hole Peg Test(NHPT)は72秒であった.COPMの"育児"は,重要度10点,遂行度3点,満足度1点であった.症例と列挙した育児動作は,「娘の髪を結ぶ」「息子を抱っこする」「娘に目薬をさす」など19項目となった.各動作の重要度は5〜10点,遂行度は平均5.1点,満足度は平均4.8点であり,症例は不安な様子であった.各動作の作業工程分析の結果,左上肢近位部の耐久性や手指伸展の随意性,母指外転筋出力の低下が問題となっており各要素の改善を促す課題を段階的に行った.さらに,娘に目薬をさす際は左右の手の役割を交換するなどの提案を行い,成功体験を積むことで自己効力感の向上を図った.修正CI療法終了時は,SIAS-m上肢(4,3),FMA-UE60点,握力13.8kg,NHPT56秒であった.COPMの"育児"は遂行度5点,満足度5点となった.19項目全ての育児動作において遂行度,満足度が向上し(平均:遂行度7.8点,満足度7.8点),症例は「できるようになって驚いた」と語った.退院1ヶ月後の聴取において,19項目のうち10項目は遂行度,満足度が9〜10点とさらに改善していたが,「娘の髪を結ぶ」等4項目は一部低下していたため動作方法の提案を行った(平均:遂行度8.4点,満足度8.9点).
【考察】 症例とともにCOPMを用いて目標を共有し,作業工程分析に基づいた上肢機能訓練や対応方法の提案を行ったことが,上肢機能の改善及び育児動作の満足度と自己効力感の向上に繋がった.さらに,退院後も改善傾向が持続し,実動作の課題に基づいた作業療法が育児動作再獲得の一助となった.
【症例紹介】症例はアテローム血栓性脳梗塞により左上肢の運動麻痺を呈した40歳代女性で, 8歳女児と3歳男児を育てる専業主婦であった.発症2週後に当院へ入院となり,入浴以外の日常生活動作が独歩で自立していた.上肢機能は,Stroke Impairment Assessment Set上肢運動項目(SIAS-m) (1,1a),Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)8点と重度運動麻痺を認め,Modified Ashworth Scale(MAS)0点,表在・深部感覚は正常であった.入院当初より「娘の髪を結べるようになりたい」との希望が聞かれていた.
【方法】上肢機能に対して,入院初期は促通運動やミラー療法を実施し,2.5週後からロボット療法,2ヶ月後から修正CI療法を開始した.症例は家事や育児に対する不安を訴えていた為,退院後の課題を整理し目標を共有することで自己効力感の向上を図る必要があると考えた.そこで,修正CI療法開始前にCOPMを用いてニーズを聴取したところ,"育児"が重要な作業として挙げられた.さらに症例との対話により必要な育児動作を列挙し,重要度と遂行度,満足度を聴取した.「挙げられた育児動作を実用的に実施できること」を目標として共有し,模擬動作や実動作場面の動画を用いて作業工程分析を行った.その後修正CI療法のプロトコールに従い3週間の介入を行った.併せて育児動作を模擬的に確認し困難さに応じて対応方法を提案した.入院3ヶ月で退院となり,その1ヶ月後に当院外来にて育児の状況について聴取した.
【経過および結果】修正CI療法開始時の左上肢機能は,SIAS-m上肢(4,2),FMA-UE 51点,握力8.7kg,Nine Hole Peg Test(NHPT)は72秒であった.COPMの"育児"は,重要度10点,遂行度3点,満足度1点であった.症例と列挙した育児動作は,「娘の髪を結ぶ」「息子を抱っこする」「娘に目薬をさす」など19項目となった.各動作の重要度は5〜10点,遂行度は平均5.1点,満足度は平均4.8点であり,症例は不安な様子であった.各動作の作業工程分析の結果,左上肢近位部の耐久性や手指伸展の随意性,母指外転筋出力の低下が問題となっており各要素の改善を促す課題を段階的に行った.さらに,娘に目薬をさす際は左右の手の役割を交換するなどの提案を行い,成功体験を積むことで自己効力感の向上を図った.修正CI療法終了時は,SIAS-m上肢(4,3),FMA-UE60点,握力13.8kg,NHPT56秒であった.COPMの"育児"は遂行度5点,満足度5点となった.19項目全ての育児動作において遂行度,満足度が向上し(平均:遂行度7.8点,満足度7.8点),症例は「できるようになって驚いた」と語った.退院1ヶ月後の聴取において,19項目のうち10項目は遂行度,満足度が9〜10点とさらに改善していたが,「娘の髪を結ぶ」等4項目は一部低下していたため動作方法の提案を行った(平均:遂行度8.4点,満足度8.9点).
【考察】 症例とともにCOPMを用いて目標を共有し,作業工程分析に基づいた上肢機能訓練や対応方法の提案を行ったことが,上肢機能の改善及び育児動作の満足度と自己効力感の向上に繋がった.さらに,退院後も改善傾向が持続し,実動作の課題に基づいた作業療法が育児動作再獲得の一助となった.