[PA-8-9] 脳卒中後の両上肢の異なる筋緊張異常に対する物理療法の影響:症例報告
【はじめに】脳卒中後の拘縮や筋緊張異常は褥瘡の発生やケアの負担を増大させる.それらに対して経皮的電気刺激療法(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)や拡散型圧力波療法(Radial shock wave therapy: rSWT)などの物理療法が用いられている.今回,脳卒中後に両上肢に筋緊張異常と屈曲内転内旋拘縮を呈し,更衣などの介護負担が高かった症例に対し,TENSやrSWTを用いた介入を行った.
【症例】症例は広範な右視床出血発症後,約4ヶ月経過した50代男性である.両上肢は屈曲内転内旋肢位を呈し,筋緊張はModified Ashworth Scale (MAS)にて肘関節伸展が右4,左4で他動運動が困難であった.深部腱反射は右上肢消失,左上肢に著明な亢進を認めた.関節可動域(Range of Motion: ROM)は肩関節屈曲が右30°,左90°,肩関節外転が右60°,左90°,肘関節伸展が安静時で両側-140°,他動運動は両側-90°で著明な可動域制限を認めた. Modified Tardieu Scale (MTS)では,速い速度で他動運動抵抗感が生じるROM(R1)は,右-130°,左-135°,ゆっくりの際のROM(R2)は右-130°,左-100°であった.またその差(R2-R1)が,左は35°に対し右は0°であり,右は持続的な筋緊張亢進がみられた.以上から左上肢は痙縮,右上肢は除皮質硬直の影響が強いと考えられた.痙縮の介護負担感を評価するCarer burden scale (CBS)は,右上肢が全項目最重症の20点,左上肢が13点であり,可動域制限による介護負担が高かった.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し, 対象者の保護に十分留意した. 対象者の代諾者に本研究の目的及び収集される資料の使用意図, 同意の撤回の自由について口頭及び書面で説明し, 同意を得た.利益相反関係にある企業等はない.
【経過】<介入前期>rSWTには振動ヘッド付空気圧式マッサージ器(インテレクトRPW: Chattanooga製)を用いて左右の上腕二頭筋,腕橈骨筋に対し刺激強度を1.2bar,周波数は10Hz,刺激回数は各筋に約2,000から4,000発を1セッションとし,週3から4回の頻度で計9セッション実施した.介入前後で肘関節伸展のROM,MAS,MTSを評価し,2週間ごとにCBSを看護師と評価した.その結果,右肘関節伸展ROMは-75°,MASやMTSは即時的な改善のみであった.一方,左肘関節伸展ROMは-85°,MASは2となった.MTSのR1は平均-128.3°,R2は平均-96.7°に改善した.ここで,脊髄運動ニューロン興奮性を,左右の橈側手根屈筋のH波最大振幅とM波最大振幅の比で評価した.左が56%,右が29%と左側の興奮性が高くなっていた.
<介入後期>H反射の結果から,左上肢は反射性要素に効果が期待できるTENSに切り替えた.機器は低周波治療器(DRIVE-HOME, デンケン製)を使用し,上腕三頭筋に1セッション30分間,計12セッション行った.右上肢にはrSWTを継続して実施した.その結果,右上肢は即時的なROMの改善のみであった.左上肢のROM,MASは前期の結果を維持し,R1は平均-112.5°,R2は平均-89.2°に改善した.CBSは,右は17点で更衣の袖通しが改善し,左は6点となった.
【考察】前期での左肘関節のROMや筋緊張の改善は,rSWTが非反射性要素である末梢の筋の硬さなどを改善した可能性がある.また,rSWTは効果が持続しやすく,前期での改善が維持された可能性もある.それに加え,後期ではTENSによって反射性要素に影響を与えた可能性がある.一方,右上肢は全期間で即時的なROMの改善に留まった.本症例は右上肢が除皮質硬直を呈し,痙縮とは病態が異なると考えられた.このような筋緊張異常には,rSWTの効果は限定的であり,薬物療法や外科的手術が適応となる可能性が考えられた.
【症例】症例は広範な右視床出血発症後,約4ヶ月経過した50代男性である.両上肢は屈曲内転内旋肢位を呈し,筋緊張はModified Ashworth Scale (MAS)にて肘関節伸展が右4,左4で他動運動が困難であった.深部腱反射は右上肢消失,左上肢に著明な亢進を認めた.関節可動域(Range of Motion: ROM)は肩関節屈曲が右30°,左90°,肩関節外転が右60°,左90°,肘関節伸展が安静時で両側-140°,他動運動は両側-90°で著明な可動域制限を認めた. Modified Tardieu Scale (MTS)では,速い速度で他動運動抵抗感が生じるROM(R1)は,右-130°,左-135°,ゆっくりの際のROM(R2)は右-130°,左-100°であった.またその差(R2-R1)が,左は35°に対し右は0°であり,右は持続的な筋緊張亢進がみられた.以上から左上肢は痙縮,右上肢は除皮質硬直の影響が強いと考えられた.痙縮の介護負担感を評価するCarer burden scale (CBS)は,右上肢が全項目最重症の20点,左上肢が13点であり,可動域制限による介護負担が高かった.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し, 対象者の保護に十分留意した. 対象者の代諾者に本研究の目的及び収集される資料の使用意図, 同意の撤回の自由について口頭及び書面で説明し, 同意を得た.利益相反関係にある企業等はない.
【経過】<介入前期>rSWTには振動ヘッド付空気圧式マッサージ器(インテレクトRPW: Chattanooga製)を用いて左右の上腕二頭筋,腕橈骨筋に対し刺激強度を1.2bar,周波数は10Hz,刺激回数は各筋に約2,000から4,000発を1セッションとし,週3から4回の頻度で計9セッション実施した.介入前後で肘関節伸展のROM,MAS,MTSを評価し,2週間ごとにCBSを看護師と評価した.その結果,右肘関節伸展ROMは-75°,MASやMTSは即時的な改善のみであった.一方,左肘関節伸展ROMは-85°,MASは2となった.MTSのR1は平均-128.3°,R2は平均-96.7°に改善した.ここで,脊髄運動ニューロン興奮性を,左右の橈側手根屈筋のH波最大振幅とM波最大振幅の比で評価した.左が56%,右が29%と左側の興奮性が高くなっていた.
<介入後期>H反射の結果から,左上肢は反射性要素に効果が期待できるTENSに切り替えた.機器は低周波治療器(DRIVE-HOME, デンケン製)を使用し,上腕三頭筋に1セッション30分間,計12セッション行った.右上肢にはrSWTを継続して実施した.その結果,右上肢は即時的なROMの改善のみであった.左上肢のROM,MASは前期の結果を維持し,R1は平均-112.5°,R2は平均-89.2°に改善した.CBSは,右は17点で更衣の袖通しが改善し,左は6点となった.
【考察】前期での左肘関節のROMや筋緊張の改善は,rSWTが非反射性要素である末梢の筋の硬さなどを改善した可能性がある.また,rSWTは効果が持続しやすく,前期での改善が維持された可能性もある.それに加え,後期ではTENSによって反射性要素に影響を与えた可能性がある.一方,右上肢は全期間で即時的なROMの改善に留まった.本症例は右上肢が除皮質硬直を呈し,痙縮とは病態が異なると考えられた.このような筋緊張異常には,rSWTの効果は限定的であり,薬物療法や外科的手術が適応となる可能性が考えられた.