第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-9-1] 脳梗塞急性期の両側片麻痺症例に対し,段階的な介入と成功体験の積み重ねが希死念慮消失に有効であった一例

山本 勝仁1, 高井 京子1, 細見 雅史2 (1.北播磨総合医療センター リハビリテーション室, 2.北播磨総合医療センター リハビリテーション科)

【はじめに】脳卒中後多くの患者は落胆,苦悩,希死念慮を抱えているといわれている.急性期では,患者が主体的に行動することは困難とされるが,成功体験による自己効力感の獲得により,行動変容を導けると報告されている.今回,脳梗塞後の両側麻痺によりADLが重度障害され,希死念慮のみられた患者に対し,電気刺激療法・装具療法・課題指向型練習の複合的な介入および,段階的な成功体験により上肢機能・ADLの改善,希死念慮の消失を認めたため報告する.本報告は,ご本人の了承および当院倫理員会の承認を得ている.
【症例】80歳代,男性.両延髄内側~腹側の脳梗塞により入院・保存的加療となり,2病日よりPT・OT・STを開始した.特記すべき既往歴はなく,病前ADLは自立していた.初回評価は,GCS15,上肢機能はBRS右上肢Ⅲ,手指Ⅳ,左上肢・手指Ⅱであった.感覚機能は,触覚・深部覚に鈍麻を認めた.3病日に症状が進行し,右上肢の失調症状を認めた.離床を開始したが, SIAS40点,TCT0点と体幹機能低下を認め,FIM34点とADL全般に介助を要した.「死にたい.良くならない」と悲観的な発言が繰り返し聞かれ,脳卒中後うつスケール(JSSD)は13.72点であった.
【経過】【複合的上肢機能練習とADLの実施】6病日,物品の把持ができず整容動作が困難であった.8病日,右母指CMバンド,背屈装具,総指伸筋にIVESの手指装着型電極を使用し,右上肢の課題指向型練習を実施した.CMバンド・背屈装具を装着し,髭剃り・歯磨きが可能となったため,モーニングケアとして実施した.可能な動作が増え,上肢使用に対する前向きな意見が聞かれるようになった.介入の目標を,整容動作における右手での動作獲得として,患者本人とも共有した.
【食事介入】16病日よりスプーンの使用練習を開始した.通常のスプーンでは把持が困難であったため,ピストル型の太柄スプーンを使用した.背屈装具のみで様々な大きさ・形態の物品の把持・移動・離しが可能となり,上肢の空間保持も徐々に安定性の向上を認めた.スプーンの使用は,易疲労性のため数口のみの自己摂取に留まった.
【食事での右手の実用的使用】23病日,背屈装具を除去して食事を試みた.半量程度自己摂取が可能となり,自分で食べられることを喜ぶ発言が聞かれた.
【結果】30病日の最終評価では,上肢機能はBRS右上肢・手指Ⅳ,失調症状は残存したが,食事や整容は可能となった.感覚機能は四肢に鈍麻は残存した.FIM48点,SIAS43点,TCT36点と上下肢・体幹機能に改善がみられ,ADLの介助量は軽減した.電気シェーバー・歯ブラシは,背屈装具を装着して動作が可能となった.また,食事はピストル型の太柄スプーンの使用により半量自己摂取が可能となった.JSSDは2.15点となり,悲観的な発言は聞かれず,希死念慮は消失し,意欲的にリハビリを実施できた.
【考察】脳卒中後の物品の把持が困難な患者に対し,装具を装着しADLを実施することで,麻痺手の使用が促されるとされる.本症例は上肢に麻痺を呈し,課題練習は困難であったが,電気刺激および装具を併用し,麻痺手のつかみ・離しを効率的に実施できるよう設定したことで,早期からの課題指向型練習の量と質,ADLでの使用の担保が可能となった.
 脳卒中後の抑うつ状態の症状軽減に,自己効力感が関連するとされる.今回,上肢機能への介入とADLでの麻痺手使用の段階的な難易度調整により,上肢機能の改善,ADLでの右手使用頻度増加につながった可能性と,それに伴いモーニングケアなど自分でできる動作が増えたことが成功体験の積み重ねとなり,悲観的な思考が軽減し,希死念慮の消失につながったことが考えられる.