[PA-9-16] 傾聴などを通して習慣や役割を意識したことで目標を再共有できた症例
ADOCではわからなかった症例との目標のズレ
【はじめに】右被殻出血を呈した60歳台女性を担当した.Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下ADOC)を通し目標を設定したが,リハ拒否となった.しかし,作業療法士(以下OTR)との傾聴の関わりから,退院後生活の習慣と役割に気づき,目標を再共有し自宅退院に繋がった症例を報告する.尚,発表に際し事例に同意を得ている.
【事例紹介】60歳台女性,X年Y月Z日に呂律難と左上肢麻痺が出現.右被殻出血の診断を受け手術施行.Y+2ヶ月に当院回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟へ転棟.病前は独居でADL自立.清掃のアルバイトをしていた.キーパンソンは娘2人で,退院後のサポートに協力的な姿勢であった.症例は自宅に帰って生活することを望んでいた.
【回復期リハ初回評価】運動麻痺(Brunnstrom Stage(以下BS)左Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ),表在・深部感覚軽度鈍麻.FIMは59点(運動項目33点 認知項目26点).ADLに見守り~中等度介助が必要な状況であった.基本動作は軽~中等度介助を要していた.高次脳機能障害は,注意障害・左半側空間無視を認めていた.「家族に迷惑をかけたくない」と発言があり,リハゴールを,介護保険サービスを利用しながら自宅で生活できるとした.
【経過】初回ADOC(初回~2カ月目):項目はトイレや更衣等のADLを中心に選択されリハ介入を行っていった.満足度は全て1点から3点まで向上した.症例も意欲的にリハビリに取り組む姿が見られADLの目標は達成された.
2回目ADOC(3~4カ月目):目標を再検討するためADOCを実施.「家に帰ったら料理もやりたい」との希望が聞かれ,炊事等のIADLが選択された.4ヶ月目には,病棟内ADLほぼ自立,FIMは109点(運動項目75点認知項目34点)となった.しかし,退院希望が強くなり,リハビリは拒否傾向となり原因をADOCで確認するが実施困難となった.
ADOC拒否,傾聴からの目標設定(4カ月目):OTと会話のやりとりは可能だったため,理由を尋ねると「良くなりリハビリの意味がないので退院させて下さい」という発言が聞かれた.その後傾聴を重ねていき,症例は,独居生活での1日の流れや,連続する家事動作をイメージできずにいた.そのため1日の流れ,独居で必要な動作など共有していくと,「何が出来ていないかわかってなかった」と発言が聞かれ,現状を理解することに繋がった.
リハビリ再開(4ヶ月半~退院):お互いが現状を把握した上で,屋外歩行,調理,掃除など在宅をイメージした作業を提案し共有し,積極的なリハビリを行うことが可能になった.調理訓練では,症例から「退院せずやって良かった」との発言が聞かれた.ADOCは非実施であった.
【最終評価(Y+6ヶ月)】運動麻痺(BS左Ⅱ-Ⅱ-Ⅲ),高次脳機能障害は残存.FIM111点(運動項目77点 認知項目34点).ADL入浴以外自立.家事動作は自立.退院後は訪問リハ・通所を使用し独居生活を送ることになった.
【考察】ADOCを実施し目標共有をしていたが,リハ拒否となった.友利(2021)は目標設定において,「対象者とOTの目標の認識にはズレが生じやすい」とされている.症例は初回のADOCの項目を達成したことで退院できると感じ,IADLは必要としない作業に変化していた.そこでOTRとの目標設定にズレが生じた.しかしその後,会話を通して,生活習慣や役割,環境面も踏まえ目標共有したことで関係が再構築でき,意味のある作業となった. 斎藤(2014)は「クライエントが自らの生活を振り返り,作業療法に主体的に取り組もうと思えるような丁寧な説明や面談評価を心掛けなければいけない」としている.OTが目標設定をする上でADOC のような評価法での意思決定だけでなく,介入中に対象者の心境に気付くこと,習慣・役割も踏まえて目標共有を行うことが重要である.
【事例紹介】60歳台女性,X年Y月Z日に呂律難と左上肢麻痺が出現.右被殻出血の診断を受け手術施行.Y+2ヶ月に当院回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟へ転棟.病前は独居でADL自立.清掃のアルバイトをしていた.キーパンソンは娘2人で,退院後のサポートに協力的な姿勢であった.症例は自宅に帰って生活することを望んでいた.
【回復期リハ初回評価】運動麻痺(Brunnstrom Stage(以下BS)左Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ),表在・深部感覚軽度鈍麻.FIMは59点(運動項目33点 認知項目26点).ADLに見守り~中等度介助が必要な状況であった.基本動作は軽~中等度介助を要していた.高次脳機能障害は,注意障害・左半側空間無視を認めていた.「家族に迷惑をかけたくない」と発言があり,リハゴールを,介護保険サービスを利用しながら自宅で生活できるとした.
【経過】初回ADOC(初回~2カ月目):項目はトイレや更衣等のADLを中心に選択されリハ介入を行っていった.満足度は全て1点から3点まで向上した.症例も意欲的にリハビリに取り組む姿が見られADLの目標は達成された.
2回目ADOC(3~4カ月目):目標を再検討するためADOCを実施.「家に帰ったら料理もやりたい」との希望が聞かれ,炊事等のIADLが選択された.4ヶ月目には,病棟内ADLほぼ自立,FIMは109点(運動項目75点認知項目34点)となった.しかし,退院希望が強くなり,リハビリは拒否傾向となり原因をADOCで確認するが実施困難となった.
ADOC拒否,傾聴からの目標設定(4カ月目):OTと会話のやりとりは可能だったため,理由を尋ねると「良くなりリハビリの意味がないので退院させて下さい」という発言が聞かれた.その後傾聴を重ねていき,症例は,独居生活での1日の流れや,連続する家事動作をイメージできずにいた.そのため1日の流れ,独居で必要な動作など共有していくと,「何が出来ていないかわかってなかった」と発言が聞かれ,現状を理解することに繋がった.
リハビリ再開(4ヶ月半~退院):お互いが現状を把握した上で,屋外歩行,調理,掃除など在宅をイメージした作業を提案し共有し,積極的なリハビリを行うことが可能になった.調理訓練では,症例から「退院せずやって良かった」との発言が聞かれた.ADOCは非実施であった.
【最終評価(Y+6ヶ月)】運動麻痺(BS左Ⅱ-Ⅱ-Ⅲ),高次脳機能障害は残存.FIM111点(運動項目77点 認知項目34点).ADL入浴以外自立.家事動作は自立.退院後は訪問リハ・通所を使用し独居生活を送ることになった.
【考察】ADOCを実施し目標共有をしていたが,リハ拒否となった.友利(2021)は目標設定において,「対象者とOTの目標の認識にはズレが生じやすい」とされている.症例は初回のADOCの項目を達成したことで退院できると感じ,IADLは必要としない作業に変化していた.そこでOTRとの目標設定にズレが生じた.しかしその後,会話を通して,生活習慣や役割,環境面も踏まえ目標共有したことで関係が再構築でき,意味のある作業となった. 斎藤(2014)は「クライエントが自らの生活を振り返り,作業療法に主体的に取り組もうと思えるような丁寧な説明や面談評価を心掛けなければいけない」としている.OTが目標設定をする上でADOC のような評価法での意思決定だけでなく,介入中に対象者の心境に気付くこと,習慣・役割も踏まえて目標共有を行うことが重要である.