第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-9-18] めまい症状に対して目標設定と自己管理を促すことで安定した日常生活が可能となった事例

酒井 里彩, 宇都宮 裕人 (IMSグループ 医療法人社団明芳会 イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院 リハビリテーション科)

【はじめに】良性発作性頭位めまい症は最も頻度が高いめまい疾患であり,予後は良好である(一般社団法人日本めまい平衡医学会/2023).一方,症状が週単位で持続することが多いことから患者の不安感,日常生活への影響が大きいと指摘している(石川和夫/2009).本症例はめまいの増悪により,日常生活動作自立度や精神機能が著しく低下した.めまいの改善に加え,共有した目標の達成により成功体験を積むことでめまいに対しての行動が変わり,自身で管理することで安定した日常生活が可能となった為,報告する.発表に関して,本人に了承を得ている.
【症例紹介】70歳代前半男性.受傷前の日常生活動作自立.現病歴はX年Y月Z日に2mの高さから転落,受傷し,急性期病院に入院.Z+3日に第12胸椎破裂骨折に対し後方固定術を施行し,Z+29日に当院に入院した.また当院入院前よりめまい症状があり,Z+47日にめまいの増悪を認め,Z+58日に前医を受診し良性発作性頭位めまい症の診断となった.
【初期評価】MMSE:28/30点.Vertigo Symptom Scale-short form(めまい症状尺度短縮版.以下,VSS-sf):14/60点.FIM(運動項目のみ):めまいがない時は75/91点も,増悪時は28/91点.めまい消失まで8日間を要す.めまいがない時はリハビリに対して積極的に取り組むも,増悪時は「動くと悪化しそうで怖い.」とめまいに対しての恐怖心やネガティブな発言が聞かれ,リハビリを拒否することもあった.
【介入経過】介入は全体で32日間行い,身体機能の向上やめまい症状の改善に加え,自己評価を高める関わりを行った.介入初期は症例と目標を共有することは難しく,めまい症状の改善を目的として“Epley法”と“慣れの誘導”を行った.さらにリハビリ室で訓練が可能となってからは目標設定を行い,症例と共有し,成功体験を積むことで自己効力感の向上を図った.設定した目標は症例にとって意味のある内容であり,達成できると思えるように段階的に設定し,共有を行った.具体例として,移動手段の獲得を目的にまずは移動手段を問わずに毎日リハビリ室で訓練を行うことを共有した.1週間継続して目標が達成された際には次の目標へと変化していき,移動手段を車椅子からサークル歩行器,フリーハンドへと変化させていった.最終的にはめまいに対する歩行訓練を自主トレーニングとして導入し,退院まで継続して行った.介入初期はめまい増悪によりベッド上で過ごすことが多く「ベッド上でリハビリをお願いします.」との発言から生活範囲が自室内で留まっていた.介入後は,めまいがあってもリハビリ室で訓練を行い,訓練以外の時間は積極的に自主トレーニングに励む様子も見られ,生活範囲が広がったことで他者交流も増加した.
【結果】VSS-sfは14→9/60点とめまい症状の改善を認めた.まためまいの持続期間が8→2日間に短縮されたことで,FIMの点数も28→87/91点と安定した日常生活が可能となった.また発言に関しても「めまいには負けない.退院しても自主トレを続けて出来ることからやっていきます.」とポジティブな発言が聞かれた.
【考察】共有した目標の達成に向け心身機能の両側面に着目して介入を行い,自己効力感を高めることで自己管理能力が向上し安定した日常生活に繋がることが示唆された.今回,目標共有する中で症例自身ができる自己管理に着目して段階づけを行った.そのことにより,成功体験を共有することができ,自己効力感の向上に伴いポジティブな行動変容に繋がったと考える.