第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-9-22] 頚椎症性脊髄症術後に両上肢挙上困難になった症例の2年経過

青木 陸, 阿部 拓馬, 橋爪 航平, 吉長 大樹 (慶友整形外科病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 頚椎症性脊髄症(以下CSM)術後合併症として,上肢挙上困難をきたすC5麻痺は広く知られており,その発生率は3〜5%前後であると報告されている.しかし,発生部位は90%が片側例であり両側例は3%と症例は少なく,日常生活(以下ADL)動作に着目した報告も少ない.今回,術後に両上肢挙上困難となった症例に対して,筋力向上とADL動作獲得を目標として,作業療法介入を行ったため経過報告する.
【症例紹介】
 50代男性.頚部痛・左上肢筋力低下が出現し,当院受診しCSMの診断あり,保存療法を行っていた.右上肢の筋力低下が出現したためC4-C5椎弓切除,C4/5/6両側椎間孔開放術を施行した.本報告について,症例には文章と口頭にて説明を行い,実施した.
【評価:術前】
 しびれ・感覚障害は無く,両上肢の筋力低下のみが認められていた.徒手筋力テスト(以下MMT)(R/L)では,棘上筋3/2,棘下筋3/2,肩甲下筋3/2,小円筋4/3,三角筋4/2,上腕二頭筋4/2であった.左上肢はSulcus sign陽性であり,肩関節の亜脱臼を認めていた.術前ADLは右上肢を使用して自立していた.
【治療と経過】
 術後1日目より,両上肢の筋力低下(三角筋・上腕二頭筋ともにMMT1)が出現し,挙上困難となった.肩関節腱板(以下Cuff)筋力は術前と変化なかった.介入当初より三角筋・上腕二頭筋に対して,神経筋刺激療法(以下:EMS)を使用したプログラムを実施した.
 さらに,Cuffの筋力の維持・向上させるため,筋力訓練を実施した.筋力低下に伴い, ADL動作では上衣更衣動作,洗髪,洗体,食事動作に支障をきたしていた.症例は術後10日で退院となったが, 筋力は術直後と変わらずMMT1レベルであった.ほとんどのADL動作は代償動作と自助具を作成し,使用することで獲得できたが上衣更衣動作は獲得できなかった.
【評価と経過:術後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月・24ヶ月】
 術後1ヶ月・3ヶ月の時点では筋力に変化が見られなかったため,EMS使用してのプログラ ムを中心に実施した.術後6ヶ月より右上腕二頭筋の筋力向上を認め三角筋・上腕二頭筋MMTで3レベルとなった.肘屈曲が可能になったため自宅でのADL動作を再度確認し,動作指導を実施した.この段階で上衣更衣動作は自立となり自宅でのADL動作はほぼ自立となった.術後12ヶ月では三角筋がMMT3となり上腕二頭筋はMMT4となったため, 手段的日常生活(以下IADL)動作に対しての動作指導も併用して実施した.24ヶ月では三角筋と上腕二頭筋ともにMMT5レベルとなった.
【考察】
 C5麻痺は予後が比較的良いと報告されているが,澄川らは,筋力が回復するまでに平均3.5ヶ月程度と報告している.さらに,麻痺出現MMT1以下の筋力低下を認めている場合,予後不良とされている.従って退院までに麻痺の回復は困難であると考えた.今回,食事動作は環境設定により可能となった.洗髪・洗体は自助具を使用し可能となった.上衣更衣動作は体幹での代償や自助具を使用するなど様々方法を試みたが獲得することができなかった.ADL動作だけでなくIADL動作においても支障をきたしており,両上肢の挙上困難をきたしている症例では麻痺の回復まで,家族介助が必要になると考えた.本症例だけでなく,両上肢の挙上困難をきたしている症例に対して,ADL動作の獲得に難渋することは多いと考える.また,回復過程に合わせて,代償でのADL動作から本来の正しい筋出力でのADL動作獲得へと動作指導を行なっていくことが大切だと考えた.