[PA-9-3] 急性期から自動車運転再開可能と判断した脳損傷者の追跡調査
【はじめに】
脳損傷者の自動車運転再開にあたって,諸外国では発症後一定期間の制限を設けることを推奨しているが,我が国では適切な評価時期や運転再開時期について統一した見解がないのが現状である.当院は,公共交通機関が充足していない地域を医療圏とする急性期病院である.自動車運転が生活に欠かせず,退院後早期の運転再開を希望する脳損傷患者は少なくない.このため,当院で定めている基準に達する患者には,早期の運転再開が可能と判断し,運転免許センターでの適正相談を受ける運用としている.今回,当院入院中に運転再開が可能と判断した脳損傷者に対してアンケート調査を行い,急性期での自動車運転支援の有益性について考察したため報告する.
【対象と方法】
当院では,活動能力・神経心理学的検査・専門家の主観評価の3つの側面から評価し,すべての基準を満たした場合に運転再開が可能としている.基準は,活動面ではADL・IADL自立,神経心理学的検査ではMMSE24点以上,TMT-J(partA・B)80歳代正常域,J-SDSA合格,専門家の主観評価では,担当OTおよび主治医が運転再開に支障がないと判断した場合としている.対象は,2019年7月から2023年3月の期間に当院で自動車運転支援を行った脳損傷者のうち,入院中に早期の運転再開が可能と判断された89名である.調査用紙は記名式とし,郵送してアンケート調査を行った.調査項目は,⑴運転再開の有無と再開時期,再開理由,⑵運転再開後の事故の有無と回数,事故内容とした.患者情報を診療録より後方視的に収集し,⑶発症や退院してから運転再開をした期間,⑷事故率,⑸運転継続期間を算出した.なお,本研究は当院倫理委員会にて承認を得たうえで行い,アンケート結果の学術的利用については対象者から同意を得ている.
【結果】
アンケートは,89名中44名から返送された(回収率49.4%).運転再開者は44名中39名であった.発症から運転再開までの期間は,1.1±0.8か月であった.退院から運転再開までの期間は,2週間以内が21名,2週間から1か月以内が10名,1か月から2か月以内が7名,2か月から3か月以内が1名,3か月から1年以内および1年以上は0名であった.運転再開理由は,日常生活での用途に関する内容が16名,運転技能への自信に関する内容が11名,公安委員会の許可としたのが6名であった.事故を起こした者は2名で,回数は合計2回(事故率4.3%)であった.いずれの事故も物損事故であり,生命に支障のない軽微な事故であった.運転再開者の基本属性として,平均年齢66±11歳(男性29名女性10名),疾患の内訳は,脳梗塞23名,脳出血6名,くも膜下出血6名,脳挫傷1名,その他3名であった.運転継続期間は,2.2±1.3年であった.
【考察】
対象者のうち約8割は,退院後1か月以内に運転再開をしていた.早期の運転再開理由として,生活や仕事に必要であるといった内容が多く,公共交通機関が充足していない地域の環境特性が影響していると考える.また,早期の運転再開にも関わらず,事故率は一般運転者と同程度であった.このことから,退院後に制限期間を一律に設ける必要はないと考えるが,疾患特性の観点から発症後一定期間の制限を設けることの意義が報告されており(武原,2015),今回は疾患の観点からの検証はできておらず具合的には言及できない.当院の自動車運転再開の判断は特別な機器を要さず,比較的簡便な運用といえる.昨今,在院日数の短縮がはかられ時間的制約がある急性期においても実践可能な運用であると考える.
脳損傷者の自動車運転再開にあたって,諸外国では発症後一定期間の制限を設けることを推奨しているが,我が国では適切な評価時期や運転再開時期について統一した見解がないのが現状である.当院は,公共交通機関が充足していない地域を医療圏とする急性期病院である.自動車運転が生活に欠かせず,退院後早期の運転再開を希望する脳損傷患者は少なくない.このため,当院で定めている基準に達する患者には,早期の運転再開が可能と判断し,運転免許センターでの適正相談を受ける運用としている.今回,当院入院中に運転再開が可能と判断した脳損傷者に対してアンケート調査を行い,急性期での自動車運転支援の有益性について考察したため報告する.
【対象と方法】
当院では,活動能力・神経心理学的検査・専門家の主観評価の3つの側面から評価し,すべての基準を満たした場合に運転再開が可能としている.基準は,活動面ではADL・IADL自立,神経心理学的検査ではMMSE24点以上,TMT-J(partA・B)80歳代正常域,J-SDSA合格,専門家の主観評価では,担当OTおよび主治医が運転再開に支障がないと判断した場合としている.対象は,2019年7月から2023年3月の期間に当院で自動車運転支援を行った脳損傷者のうち,入院中に早期の運転再開が可能と判断された89名である.調査用紙は記名式とし,郵送してアンケート調査を行った.調査項目は,⑴運転再開の有無と再開時期,再開理由,⑵運転再開後の事故の有無と回数,事故内容とした.患者情報を診療録より後方視的に収集し,⑶発症や退院してから運転再開をした期間,⑷事故率,⑸運転継続期間を算出した.なお,本研究は当院倫理委員会にて承認を得たうえで行い,アンケート結果の学術的利用については対象者から同意を得ている.
【結果】
アンケートは,89名中44名から返送された(回収率49.4%).運転再開者は44名中39名であった.発症から運転再開までの期間は,1.1±0.8か月であった.退院から運転再開までの期間は,2週間以内が21名,2週間から1か月以内が10名,1か月から2か月以内が7名,2か月から3か月以内が1名,3か月から1年以内および1年以上は0名であった.運転再開理由は,日常生活での用途に関する内容が16名,運転技能への自信に関する内容が11名,公安委員会の許可としたのが6名であった.事故を起こした者は2名で,回数は合計2回(事故率4.3%)であった.いずれの事故も物損事故であり,生命に支障のない軽微な事故であった.運転再開者の基本属性として,平均年齢66±11歳(男性29名女性10名),疾患の内訳は,脳梗塞23名,脳出血6名,くも膜下出血6名,脳挫傷1名,その他3名であった.運転継続期間は,2.2±1.3年であった.
【考察】
対象者のうち約8割は,退院後1か月以内に運転再開をしていた.早期の運転再開理由として,生活や仕事に必要であるといった内容が多く,公共交通機関が充足していない地域の環境特性が影響していると考える.また,早期の運転再開にも関わらず,事故率は一般運転者と同程度であった.このことから,退院後に制限期間を一律に設ける必要はないと考えるが,疾患特性の観点から発症後一定期間の制限を設けることの意義が報告されており(武原,2015),今回は疾患の観点からの検証はできておらず具合的には言及できない.当院の自動車運転再開の判断は特別な機器を要さず,比較的簡便な運用といえる.昨今,在院日数の短縮がはかられ時間的制約がある急性期においても実践可能な運用であると考える.