[PA-9-9] 左半球病変後に右半側空間無視を呈した亜急性期脳卒中患者の無視症状およびADLの経過:症例報告
【はじめに】半側空間無視(USN)は空間性注意における機能的な優位性から右半球病変後の左USNに関する報告が多いが,臨床現場では左半球病変後に右USNを呈する症例も存在する.一般的に右USNは左USNよりも症状の重症度は低いとされるが,症状の特徴とADLへの影響については不明点が多い.今回,左半球病変後に右USNを呈した亜急性期症例の症状とADLの経過について報告する.
【症例紹介】症例は左被殻出血を発症した亜急性期の60代女性であり,血種は被殻から視床に認めた.入院前は主婦業を担い全自立であった.回復期リハビリテーション病棟に入棟となった発症約1ヶ月後のGlasgow Coma Scale(GCS)はE1V2-3M5と意識障害が遷延していたが,発症1.5ヶ月後のGCSはE4V4M6と改善した.Fugl-Meyer Assessment(FMA)は上肢4点,下肢2点と感覚障害も重度であり,基本動作は全介助であった.失語症を認めたが検査に対する理解は可能だった.行動性無視検査(BIT)の通常検査は107点であり,線分二等分線は主観的中点が左側に偏倚し,模写や描画は右空間で不十分であった.生活上の無視評価であるCatherine Bergego Scale(CBS)の主観項目は言語表出の制限により困難であり,客観得点は3点で口腔ケアでは右側で不十分であった.また,洗面では頸部は左回旋位であったものの右側の蛇口を認識できていた.本報告に際し本人,家族に説明し同意を得た.
【方法】USNの評価はBIT通常検査とPCベースの選択反応課題(@ATTENTION, Creact社製)を実施した.能動注意は任意順序でオブジェクトを選択する課題時の見落としを,受動注意はランダムな順序で点滅するオブジェクトへの反応時間を計測し,その空間分布より得た平均反応時間(RTmean)と左右比(L/Rratio)を全般性注意障害およびUSNの指標とした.視線行動の評価には点滅オブジェクトへの視覚反応課題を実施し,その視線動態を評価した.ADL場面のUSNはCBSにて評価した.
【経過】発症1.5ヶ月の初回のATTENTIONでは能動探索で見落としなく受動選択でRTmean2秒,L/Rratioは0.62と右側の反応は遅延し,視線反応課題では左側に偏倚を認めた.発症約2.5ヶ月→約4ヶ月→約5.5ヶ月の経過ではRTmean1.53→1.27→1.16秒,L/Rratioは0.93→0.86→0.85と全般性注意とUSNの改善を認めた.視線反応課題では,USN空間への視覚代償は認めず左側の偏倚は改善傾向だったが,視線は非USN空間に惹きつけられ易かった.BITは130→137→141点となり線分二等分線,模写や描画も可能となった.発症約2.5ヶ月のCBSでは主観評価が可能となり主観得点0点/客観得点1点と起居時に麻痺側上下肢を忘れるなど身体空間にのみUSNを認め,排泄動作は介助であった.退院時にはFMAは著変なく経過し,CBSにおいても主観得点0点/客観得点1点と身体無視は残存していたが,動作直前で身体の忘れに気づき,修正することが可能となったため移乗とポータブルトイレでの排泄は自立した.
【考察】本症例の右USNの病態は非無視空間への視線バイアスや受動的注意の低下,身体無視が生じたことが示唆された.また,右USNの経過は非無視空間に対して視線が惹きつけられ易い特徴が残存したが,視空間の反応は代償戦略を伴うことなく高まった.一方,症例のADLにおいては視空間無視というよりも身体無視に起因して困難が生じていたと考える.今回,単一症例の右USN症状とADLの経過を示したが,今後は症例を蓄積し一般的な回復過程と併せてADLとの関連を明らかにしていく必要がある.
【症例紹介】症例は左被殻出血を発症した亜急性期の60代女性であり,血種は被殻から視床に認めた.入院前は主婦業を担い全自立であった.回復期リハビリテーション病棟に入棟となった発症約1ヶ月後のGlasgow Coma Scale(GCS)はE1V2-3M5と意識障害が遷延していたが,発症1.5ヶ月後のGCSはE4V4M6と改善した.Fugl-Meyer Assessment(FMA)は上肢4点,下肢2点と感覚障害も重度であり,基本動作は全介助であった.失語症を認めたが検査に対する理解は可能だった.行動性無視検査(BIT)の通常検査は107点であり,線分二等分線は主観的中点が左側に偏倚し,模写や描画は右空間で不十分であった.生活上の無視評価であるCatherine Bergego Scale(CBS)の主観項目は言語表出の制限により困難であり,客観得点は3点で口腔ケアでは右側で不十分であった.また,洗面では頸部は左回旋位であったものの右側の蛇口を認識できていた.本報告に際し本人,家族に説明し同意を得た.
【方法】USNの評価はBIT通常検査とPCベースの選択反応課題(@ATTENTION, Creact社製)を実施した.能動注意は任意順序でオブジェクトを選択する課題時の見落としを,受動注意はランダムな順序で点滅するオブジェクトへの反応時間を計測し,その空間分布より得た平均反応時間(RTmean)と左右比(L/Rratio)を全般性注意障害およびUSNの指標とした.視線行動の評価には点滅オブジェクトへの視覚反応課題を実施し,その視線動態を評価した.ADL場面のUSNはCBSにて評価した.
【経過】発症1.5ヶ月の初回のATTENTIONでは能動探索で見落としなく受動選択でRTmean2秒,L/Rratioは0.62と右側の反応は遅延し,視線反応課題では左側に偏倚を認めた.発症約2.5ヶ月→約4ヶ月→約5.5ヶ月の経過ではRTmean1.53→1.27→1.16秒,L/Rratioは0.93→0.86→0.85と全般性注意とUSNの改善を認めた.視線反応課題では,USN空間への視覚代償は認めず左側の偏倚は改善傾向だったが,視線は非USN空間に惹きつけられ易かった.BITは130→137→141点となり線分二等分線,模写や描画も可能となった.発症約2.5ヶ月のCBSでは主観評価が可能となり主観得点0点/客観得点1点と起居時に麻痺側上下肢を忘れるなど身体空間にのみUSNを認め,排泄動作は介助であった.退院時にはFMAは著変なく経過し,CBSにおいても主観得点0点/客観得点1点と身体無視は残存していたが,動作直前で身体の忘れに気づき,修正することが可能となったため移乗とポータブルトイレでの排泄は自立した.
【考察】本症例の右USNの病態は非無視空間への視線バイアスや受動的注意の低下,身体無視が生じたことが示唆された.また,右USNの経過は非無視空間に対して視線が惹きつけられ易い特徴が残存したが,視空間の反応は代償戦略を伴うことなく高まった.一方,症例のADLにおいては視空間無視というよりも身体無視に起因して困難が生じていたと考える.今回,単一症例の右USN症状とADLの経過を示したが,今後は症例を蓄積し一般的な回復過程と併せてADLとの関連を明らかにしていく必要がある.