第58回日本作業療法学会

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ポスター

心大血管疾患

[PB-1] ポスター:心大血管疾患 1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PB-1-3] 初発心不全患者に対し心不全手帳を用いて行動変容を促した経験

関口 なつき, 堀越 一孝, 大西 織帆, 渡邊 宏樹 (湘南藤沢徳洲会病院 リハビリテーション室)

【はじめに】心不全の再発予防には,患者のセルフマネジメント力や治療者の指導方法が問われる.今回,初発心不全患者に対し作業療法(以下OT)介入および療養指導を行い,行動変容を経て 1年後も再入院なく経過した症例について報告する.なお本報告については,本人・家族・所属長より承認を得た.
【症例紹介】80代男性.身長161.4cm 体重60.2kg BMI 23.1.持続性心房細動,高血圧,2群肺高血圧症を既往にもち,3ヶ月前より労作時息切れを自覚.「息切れが出始めて,薬の副作用かと思って減薬した」と自己判断で降圧剤を減薬した.入院数日前より発熱・起坐呼吸を認め,受診時には血中酸素飽和度(以下SpO2)の低下あり,X日に感染による心不全(HFpEF)の診断で入院加療となった.X+3日よりOT開始となった.
【作業療法評価】BP121/53mmHg HR53bpm SpO2 94%(室内気) 四肢筋力MMT4相当.セルフケア自立.FIM 125/126点(運動項目90点,認知項目35点).意欲的・積極的な印象.MMSE26点,HADS-A5点,HADS-D5点.高血圧指摘時より血圧手帳への記載をしていた.服薬は自己管理,食事管理は妻が行っていた.運動機会としてごみ出し,ターゲットバードゴルフを週3回,毎日3~4km散歩する習慣があったが息切れ自覚以降は4,000歩程度に留めていた.
【経過】感染契機の心不全発症だが,自己減薬の経緯がある.今後再発リスクがあると予測し,症状管理や内服管理ができるよう行動変容を促す必要があると考えアプローチを行った.
<熟考期>入院数日前より血圧手帳への記録は絶えていた.会話の中で減薬していた旨を聴取した.認知機能評価を実施し,心不全手帳への記載を提案した.併せて手帳内の内容も一緒に読み合わせを行った.
<準備期>翌日より毎朝同じ時間にOT介入を行い記載内容の確認をした.体重以外の記載はなく,OT開始前に一緒に記載することを提案した.内服移行後は1日配薬となり,服薬指導を行いつつ内服欄も確認した.介入の中で「ちょっと頑張りすぎてしまったかも」と身体状況の振り返りや,「まだ喋りながら歩くのはキツい」「少し余裕がでてきた」と自覚症状を確認する様子が見られた.退院後の生活を見据えBorgスケールを使用し,運動時の疲労度を確認する指導を行った.
<実行期>退院前より「自信がついてきた」と発言があり,OT介入前の心不全手帳への記載が定着した.X+15日に自宅退院.月2回の定期受診および理学療法による外来心臓リハビリテーションを継続し,5ヶ月後に終了した.以降,心不全手帳への記載・毎日の散歩が定着し心不全増悪なく経過.1年後にかかりつけへ移行となった.
【考察】本症例は初発心不全であり,心不全ステージCにあたる.ステージCの療養指導では,患者のこれまでの療養行動を知ることが大切である.再発予防として病状理解はもちろん,服薬管理・食事管理・感染管理・活動管理が行動変容を促す上でも重要とされる.本症例では入院前に血圧手帳の記載ができていたことを踏まえ,動機付けとして心不全手帳を導入し,同時刻に介入することで “心不全手帳へ記載する” という作業の定着を促した.入院前の日常生活の習慣が行動変容進展のきっかけとなり,数値や自覚症状の変化を通じて活動量の増加を実感したことが,行動変容に繋がったのではないかと推測した.行動変容については評価が不十分であり,憶測に過ぎず今後の課題であるが,認知機能や遂行能力の評価に加え,その患者の療養行動,また性格や生活背景を知り,個々に応じた療養指導をすることが心不全患者に対するOTにとって大切な視点であると考える.