第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

心大血管疾患

[PB-1] ポスター:心大血管疾患 1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PB-1-4] 意思表出が乏しいクライエントに対し家族と繋がる機会を頻回に設けたことで主体性の向上が見られた事例

佐藤 佑香1, 高橋 慧2 (1.一般財団法人太田綜合病院 附属太田西ノ内病院, 2.仙台青葉学院大学 リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【緒言】今回,急性期病院において心大血管疾患術後に入院が長期化したクライエント(以下:CL)を担当した.意思表出や活動性の乏しさが見られるも,家族と繋がる機会を設けたことで主体性に変化が見られたため,以下に報告する.尚,本報告において事例の同意を得ている.COI関係にある企業,組織,団体等はない.
【事例紹介】70歳代男性,妻・息子・孫夫婦・2人の曾孫との7人暮らし.散歩や重い荷物を持った際に胸痛症状が出現するようになり,不安定狭心症の診断でX−9日入院.手術適応と判断され,X日大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術が施行された.X+5日介入開始.X+19日日中見守り歩行でトイレ移動を開始.易疲労はみられたが,自宅復帰に向け介入を進めた.縦隔炎・胸骨離開のためX+35日に胸骨再固定術施行.以後,せん妄の悪化や活動性の低下を認めた.X+46日にはCOVID-19陽性が判明.咽頭痛や徐々に喘鳴が出現し,声帯麻痺に伴う気道狭窄のためX+70日に気管切開術施行となった.
【作業療法評価】コミュニケーションは首振りでの表出やジェスチャーが中心.筆談は消極的かつ誤字もあったが,2・3語程の欲求の記載はみられた.MMT四肢4レベル,歩行は15m程で疲労を訴えることがあり,全身の耐久性低下を認めた.ADLはBI:35点,FIM:61点.食事は経管栄養.トイレは,杖歩行見守りで移動可能で,時折失敗することがあった.病棟では臥床して過ごすことが多かった.先が見えないことによるストレスから不安・焦燥感の増加が窺えた.看護師から「曾孫に会いたい.何かしてあげたい」との表出があったとの情報を得た.
【リーズニング・目標設定】入院という制限された環境や繰り返す状態変化により家族と切り離された感覚を抱いてしまい,それにより自身の思いと現状に差が生じ,作業疎外や作業剥奪の状態に陥ったと考えた.そこで,精神的な負担軽減や主体的な生活を促進するために,家族との繋がる機会や曾祖父として役割を果たす機会を設ける必要があると考え,曾孫達へクリスマスカードを作成するという目標を設定し,事例と共有した.
【経過】X+86日,CLが主体的に取り組むことができる内容を調整しながら作成を開始した.誤字はありつつも意欲的に曾孫に向けたメッセージを書く様子が見られた.完成したカードは,面会に来た妻に直接手渡しをした.後日,リハ介入時にCLから「曾孫がとても喜んでくれた」との報告を受けた.その後,曾孫達,親族,病棟スタッフに向けた年賀状を作成するなどCLの作業が拡大した.年賀状の作成は,予め自身のノートに何度も下書きをすする様子が見られ,徐々に離床時間の拡大や携帯電話で家族とやり取りをするなど,活動の増加がみられた.その後,永続的なカニューレ挿入となり,気管吸引等の自己管理が必要となるも,筆談を通して自発的に質問や不安な点を周囲に伝え手技を習得し,X+136日自宅退院となった.
【結語】本事例は,長期入院により意思表出や活動性が乏しくなったが,家族との繋がりを通した支援を行った結果,主体的な表出や活動が増加した.そして,CLの希望である「曾孫達に何かしてあげたい」という思いに対しカード作成の機会を設けたことでCLに肯定的な変化がみられた.今後,自宅生活において「家族の一員としての役割を果たしたい」という気持ちが高まることも予測される一方で,長期入院や状態の変化に対し家族も不安を抱いており,精神面の不安定な変化が強まることが予測される.それぞれの思いが制限因子とならないよう,家族も含めた継続した支援が重要だと考えられる.