[PB-2-1] ICU-ADとICU-AWを発症した症例に対して,早期から作業療法を行い,約1ヶ月間で自宅退院に至った一例
超急性期作業療法としての役割
【はじめに】本症例は大動脈弁狭窄症から,人工呼吸器管理と約2週間のベッド上安静を要し,Inter Care Unit - Acquired Delirium(ICU-AD)とInter Care Unit - Acquired Weakness(ICU-AW)を発症した.作業療法は入院日+3日目の人工呼吸器管理中から介入し,ICU-ADとICU-AWの改善,Activities of Daily Living(ADL)の自立を目標に,認知機能訓練とADL動作訓練を主として行っていった.入院から約1ヶ月間で目標は達成され,自宅退院した介入過程より,超急性期から作業療法を行う重要性を,改めて体感する機会となったため,ヘルシンキ宣言に基づき本症例から同意を得たうえでここに報告する.【症例紹介】本症例は呼吸困難感を主訴に救急搬送され,大動脈弁狭窄症を診断された症例である.病前の生活背景としては,独居でADLは自立されており,家事などは家族が担っていた.入院当初の状況は,心原性ショックの状態により,人工呼吸器による呼吸療法と昇圧薬などによる薬物療法が行われた.【初期評価】初期評価としてConfusion Assessment Method - Inter Care Unit(CAM-ICU)を実施すると,認知機能の日内変動からICU-ADとの判定になった.またMedical Research Council(MRC)を実施すると,両側上下肢ともにGrade1であり,ICU-AWの診断基準に当てはまった.これに伴いADLでも,Barthel Index(BI)で合計0点と評価された.【介入方法】介入方法として,ICU-ADに対しては認知機能訓練である,認知刺激療法,回想法,Reality Orientation(RO)法を行った.認知刺激療法はタブレットで音楽動画鑑賞や手浴を行い,回想法は本症例のスマートフォンにある写真を使いながら行い, RO法はカレンダーや時計を使いながら見当識を伝える内容を行った.ICU-AWによるADLの低下に対しては,早期から能動的な運動機会を作るため,しているADLを増やすことに着目した.食事と整容は,上肢の残存機能に合わせてポジショニングを行い,自力で行えるよう環境調整を行った.トイレと更衣は,介助量に応じて手すりの位置を指導しつつ,日中は病棟看護師と行えるよう情報共有を図った.入浴も介助量に応じて,足浴からシャワー浴と,段階付けながら日中の活動へ導入していった.【結果】最終評価として,CAM- ICUは入院日+20日目でICU-ADを否定する結果となり,MRCは入院日+30日目で全運動方向Grade4という結果になった.またBIに関しては,食事から更衣までの項目は満点も,排便と排尿のコントロールは動作緩慢から失禁あり,両者5点の合計90点という結果になった.【考察】今回CAM-ICUでICU-ADを否定する判定に至った要因としては,Inouye SKら(1999)により提唱されたHospital Elder Life Program(HELP)が,せん妄の発症率と羅患期間を有意に減少させたとの報告に基づき,本症例に対しても早期からの見当識入力,認知機能刺激,能動的な運動を図っていたため,ICU-ADの改善に繋がったと考える.またMRCがGrade1から4まで改善したことや,BIが0点から90点まで改善した要因としては,Schweickert WDら(2009)のICU患者を対象とした,早期リハビリテーションの受動的・能動的訓練の効果検討で,退院時ADLの向上を認めたとの報告に基づき,本症例に対しても早期からADL動作訓練を取り入れていたため,ICU-AWとADLの改善に繋がったと推測する.今回の介入結果から,ICU-ADとICU-AWに対する,早期からの認知機能訓練やADL動作訓練は有効性があると考える.【おわりに】今回の経験により早期から作業療法を行う重要性と,集中治療領域における作業療法の深甚さを知ることができた.今後は,今回の介入が集中治療領域の他症例に対しても有効的か判定していき,超急性期作業療法としての役割を確立していきたいと思い至った.