[PB-3-1] 心臓リハビリテーションにおける抑うつを呈した患者に対する介入
作業経験の共有が有用であった事例
【はじめに】心疾患患者の2〜3割は抑うつを呈し,治療期間の延長が問題となっている.精神心理学的な評価や介入の重要度はガイドラインに示されているが,明確な介入方法は確立していない.今回,抑うつ症状により自己認識に歪みが生じたA氏に対し,カナダ作業遂行測定(COPM)を行った.A氏の語りから目標の共有と支持的な関わりを行うことで,自己認識が改善し,諦めていた作業の再獲得に至った事例を経験したため,以下に報告する.なお,発表に際して症例の了承を得ている.
【事例紹介】A氏70代男性,既往は胆管がん,脳梗塞である.診断名は腹部大動脈閉塞術後.急性下肢虚血が生じ,右足の筋力低下と痺れを呈し,急性期病院へ入院.自宅に退院後,本人の希望で当院の回復期病棟へ入院.一軒家で妻と二人暮らし.家事は妻が行っていた.入院時,独歩が可能で棟内のADLは自立,FIMは102点.「足が痺れて何もできない」と訴え,動作遂行に消極的になり,出来る能力とその自己認識の乖離があった.うつ病のスクリーニングであるPHQ-9は13点と中等度の抑うつであった.
【介入方針】抑うつ症状から誘発された自己認識の歪みに対し,作業経験の共有を通じて認識の変化に繋げる.
【介入経過】初回面接では,痺れによって退職後の生活で多くの時間を占めていたラジコンができなくなるかもしれないという喪失体験によって認識が阻害されていたことが明らかとなった.今後の生活で,具体的に必要な作業を確認し,できないことへの対処法を一緒に検討したい旨を伝え,COPMを実施した(遂行度/満足度).目標となった作業は,階段昇降(6/6),布団畳み(5/4),散歩(6/6),ストレッチ(7/0),ラジコン(3/3)であった.介入では,目標に必要な運動の他,できないことへの代償方法を伝え,実践した.その日のリハビリを中心に作業を振り返る時間を設け,本人にできたことを語ってもらった.外泊を行い,外泊の様子も同様に振り返った.不安が残る作業に対しての訓練を追加し,支持的に関わった.
【結果】退院時のPHQ-9は15点と抑うつ傾向は変化がなかった.下肢の痺れも入院時と同様に残存したが,「できることがある」と認識が変化した.目標とした作業(遂行度/満足度)は,階段昇降(8/8),布団畳み(8/7),散歩(8/8),ストレッチ(8/8),ラジコン(7/6)と変化した.また,入院当初に諦めていたラジコンに対して,「飛ばすことはできなくても作りかけのラジコンを完成させたい.」と継続の意志が聞かれた.さらに,抗がん剤治療により不味く感じるようになった料理に対して「家に帰ったら料理がしてみたい.」と挑戦したことのない作業への意欲を示した.実際に退院後1ヶ月評価では,ラジコンの制作を行い,味噌汁などの簡単な調理をしていた.
【考察】A氏と作業経験を共有する関わりは,事前情報からはわからなかったA氏の認識の阻害に繋がった経験を理解することを可能にした.また,共有という時間を通して自分を振り返り,支持的に声かけをすることでA氏自身が正しい能力に気づき,前向きな気持ちになることができたと考える.高木ら(2020)が開発した活動日誌を用いた集団プログラムでも,作業経験を共有する時間を設けており,このプログラムが生活満足度や生きがい感に効果を示すことを報告している.心リハではセルフマネジメントが再発防止や生命予後の改善に有用とされている.作業経験の共有は患者の漠然とした不安の表出を促し,自己を正しく認識する機会となり認知行動変容に有効であることが考えられる.本事例は,抑うつ症状を呈することの多い心リハにおいて,作業療法介入の一助となるだろう.
【事例紹介】A氏70代男性,既往は胆管がん,脳梗塞である.診断名は腹部大動脈閉塞術後.急性下肢虚血が生じ,右足の筋力低下と痺れを呈し,急性期病院へ入院.自宅に退院後,本人の希望で当院の回復期病棟へ入院.一軒家で妻と二人暮らし.家事は妻が行っていた.入院時,独歩が可能で棟内のADLは自立,FIMは102点.「足が痺れて何もできない」と訴え,動作遂行に消極的になり,出来る能力とその自己認識の乖離があった.うつ病のスクリーニングであるPHQ-9は13点と中等度の抑うつであった.
【介入方針】抑うつ症状から誘発された自己認識の歪みに対し,作業経験の共有を通じて認識の変化に繋げる.
【介入経過】初回面接では,痺れによって退職後の生活で多くの時間を占めていたラジコンができなくなるかもしれないという喪失体験によって認識が阻害されていたことが明らかとなった.今後の生活で,具体的に必要な作業を確認し,できないことへの対処法を一緒に検討したい旨を伝え,COPMを実施した(遂行度/満足度).目標となった作業は,階段昇降(6/6),布団畳み(5/4),散歩(6/6),ストレッチ(7/0),ラジコン(3/3)であった.介入では,目標に必要な運動の他,できないことへの代償方法を伝え,実践した.その日のリハビリを中心に作業を振り返る時間を設け,本人にできたことを語ってもらった.外泊を行い,外泊の様子も同様に振り返った.不安が残る作業に対しての訓練を追加し,支持的に関わった.
【結果】退院時のPHQ-9は15点と抑うつ傾向は変化がなかった.下肢の痺れも入院時と同様に残存したが,「できることがある」と認識が変化した.目標とした作業(遂行度/満足度)は,階段昇降(8/8),布団畳み(8/7),散歩(8/8),ストレッチ(8/8),ラジコン(7/6)と変化した.また,入院当初に諦めていたラジコンに対して,「飛ばすことはできなくても作りかけのラジコンを完成させたい.」と継続の意志が聞かれた.さらに,抗がん剤治療により不味く感じるようになった料理に対して「家に帰ったら料理がしてみたい.」と挑戦したことのない作業への意欲を示した.実際に退院後1ヶ月評価では,ラジコンの制作を行い,味噌汁などの簡単な調理をしていた.
【考察】A氏と作業経験を共有する関わりは,事前情報からはわからなかったA氏の認識の阻害に繋がった経験を理解することを可能にした.また,共有という時間を通して自分を振り返り,支持的に声かけをすることでA氏自身が正しい能力に気づき,前向きな気持ちになることができたと考える.高木ら(2020)が開発した活動日誌を用いた集団プログラムでも,作業経験を共有する時間を設けており,このプログラムが生活満足度や生きがい感に効果を示すことを報告している.心リハではセルフマネジメントが再発防止や生命予後の改善に有用とされている.作業経験の共有は患者の漠然とした不安の表出を促し,自己を正しく認識する機会となり認知行動変容に有効であることが考えられる.本事例は,抑うつ症状を呈することの多い心リハにおいて,作業療法介入の一助となるだろう.