第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-3] ポスター:心大血管疾患 3

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PB-3-3] 心停止を伴った重症急性心筋梗塞患者の復職支援

古澤 貴裕, 阿部 純平, 田中 瑞希, 横堀 令 (日本赤十字社旭川赤十字病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
今回心停止を伴った急性心筋梗塞患者を経験した.斉藤洋ら(2018)の報告では心筋梗塞患者にMETsを用いた指導を行なった結果,復職は92%と高い値となっている.しかし,浅香葉子ら(2016)の報告では心停止蘇生後患者の復職は15.8%となり心停止を伴うと復職率は低い結果となっている.心拍再開後より早期から理学療法士と作業療法士の介入を行った結果,配送業への部分的な復職が可能となったため作業療法介入の結果を以下に報告する.なおヘルシンキ宣言に則り,本学会報告に際して本人より書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
50代男性X月Y日,運送用のトラックを運転中に胸部痛と意識障害を呈した.路側帯へ停車し自ら救急搬送を要請した.当院搬送後の12誘導心電図ではV1〜3のST上昇を認め, Peak CK7505U/Lであった.心臓カテーテル検査で#1の100%の閉塞と#2の99%の狭窄が認めた.緊急で経皮的冠動脈形成術(以下PCI)の施行となったがPCI中に心室細動となり胸骨圧迫と直流除細動器を実施し心拍再開となった.人工呼吸器と人工心肺装置とノルアドレナリン・ドブタミンを用いて集中管理目的にICU入室となった.
【経過と結果】
2病日目より理学療法・作業療法開始となった.4病日目に人工心肺装置,7病日目に人工呼吸器を離脱した.介入場面では記銘力低下を認め同じことを何度も尋ねる様子があった.神経内科医の診察では脳画像状は低酸素脳症の所見はなく一過性の脳虚血による症状と診断された.11病日目に一般病棟へ転出し,短期記憶障害を自覚し「もう仕事は出来ない」と復職については諦めていた.21〜26病日目に高次脳機能評価を開始しS-PA有関係10,無関係0と記銘力の低下を認めた.SDSAの判定は合格でドライビングシミュレーターでは小渕浩平ら(2023)の基準を用いて評価を行い判定は運転再開群の基準内であった.29病日目にS-PAの再検査を実施し,有関係10,無関係2と判定は境界であった.復職に向け手帳を用いてメモを取りスケジュールの管理をする練習を開始した.30病日目から心電図着用下で5〜20kgの荷物をカートに乗せて運ぶ模擬動作訓練を実施した.徐々に復職に関しては前向きな発言が聞かれ,49病日目にCPXを実施しATが2.99 METsとなりPeakが 4.74 METsであった.52病日目に自宅退院となった.また車の運転に関しては,高次脳機能評価とドライビングシミュレーターの結果を主治医へ報告し運転再開の許可を得た.退院後1ヶ月で午前中のみの勤務から再開し大型ショッピングモールで小型荷物の集荷や配送を行う事務に配置転換となったものの元の職場へ復帰した.また,現在はフルタイムでの復職となっている.車の運転に関しては,職場の判断で運送用トラックの運転の再開には至らなかった.
【考察】
 本症例は重症であること,短期記憶障害を自覚しており一度は復職を諦めていたが,実際の動作練習と動作指導とCPXを用いた運動耐容能の評価,高次脳機能評価と代償手段の提示を行なったことで退院後の復職に対して前向きに検討する一助となったと考えた.また,浅香らの報告では復職とならなかった群では高次脳機能障害が有していたとされている.本症例では低酸素性脳症の所見はないが軽度の短期記憶障害であったため,リハビリテーション場面と病棟場面を通して早期から手帳を用いてメモを取りスケジュールの管理をする習慣を付けるように促したことで,短期記憶障害に対しての代償手段を確立したことも,復職をする事が出来た要因と考えた.