第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-3] ポスター:心大血管疾患 3

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PB-3-5] 当院における摂食嚥下支援チームの介入対象となった心大血管疾患患者の特徴

当院診療録からの後方視的予備的研究

安竹 正樹1, 小林 奈美子1, 坪川 操2 (1.福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部, 2.医療法人 坪川医院)

【背景】近年,嚥下障害に対するチーム医療が重要視されており,当院では令和3年に摂食嚥下機能回復加算に基づく摂食嚥下支援チームが発足した.職種は医師,言語聴覚士,看護師,管理栄養士,歯科医師,作業療法士が参加しており,作業療法士はADL,身体機能,認知機能などの情報提供を行っているが,しばしばチーム介入の対象となる重症の心大血管疾患患者において,経口摂取獲得が難しく易疲労性や全身状態不良によってADLや身体活動への介入にも難渋するケースを多く経験してきた.心大血管疾患患者では,慢性心不全の40%に嚥下障害を認め高齢者が多い(Yokota J et al,2020)との報告や,心臓血管外科術後の嚥下障害の発症率は約3~9%(Ferraris VA et al,2001)(Grimm JC et al,2015)との報告があるが,その機序や背景,臨床経過に統一した見解はなく議論の余地はあると考える.
【目的】摂食嚥下支援チームの介入対象となった心大血管疾患患者の臨床的特徴を調査し,さらに急性期退院時における経管栄養離脱困難の予測となる因子及び退院後の予後への影響について検討すること.
【方法】令和3年7月~令和5年12月までに摂食嚥下回復加算を算定した心大血管疾患患者を対象に当院診療録から後方視的に情報を抽出し,さらに当院退院時のFunctional Oral Intake Scaleが1-3点の症例を「経管群」,4-7点の症例を「経口群」として2群間で臨床的特徴を比較した.統計処理はWilcoxonの符合付順位検定及びカイ二乗検定を用い有意水準は5%とした.なお本研究では人を対象とする医学系研究に関する倫理指針を遵守した.
【結果】対象期間において摂食嚥下支援チームの介入対象となった連続164名のうち,心大血管疾患患者は19名(平均年齢78.1±15.1歳,全例経管栄養管理)で全体の11.6%に該当し,脳血管疾患患者,頭頚部腫瘍術後患者に次いで件数が多かった.これらの症例では52.6%が外科手術,36.8%がペースメーカー移植術やカテーテル治療と,多くが非薬物治療を施行されていた.また63.3%が緊急入院であり,84.2%が人工呼吸器管理,36.8%が気管切開となっていた.入院経過中の合併症として脳梗塞を10.5%,肺炎を47.4%,声帯麻痺を26.3%に認めた.入院期間は平均82.3±37.6日で,チーム介入開始時期は入院より平均36.7±22.8日であった.退院時のADLとしてFunctional Independence Measure(FIM)は平均50.0±33.2点,栄養指標としてGeriatric Nutritional Risk Index (GNRI)は平均 81.2±10.2であった.自宅退院率は21.1%であった.
さらに群分けの結果,経管群は12名,経口群は7名で,退院時の経管栄養離脱率は36.8%であった.2群間で年齢,性別,病前生活自立度,疾患の内訳,治療内容,人工呼吸器管理の有無,挿管期間,気管切開の有無,合併症の発生率に有意差はなかった.
また退院時の所見では,FIM,GNRI,転帰に2群間で有意差はなかったが,経管群では退院時のCRP値が有意に高値であった.(経管群:2.9±2.7 mg/dl vs 経口群:0.9±1.5 mg/dl)
さらに退院後6カ月の追跡ができた症例(17/19名)において,経管群では死亡例が半数と有意に多く(経管群:6/11名vs 経口群:0/6名),経管群の他5/11名は経管栄養を離脱していた.
【結論】当院における摂食嚥下支援チームの介入対象となった心大血管疾患患者では重症度及び治療侵襲が高く,特に退院時に経管栄養を離脱できない場合は全身状態が悪く退院後に予後不良となる可能性が示唆された.しかし急性期退院時における経管栄養離脱困難の予測となる因子については本研究では検出されず,背景の複雑さと多様性が伺え,さらなる調査が必要と考えた.