[PC-1-3] 呼吸器疾患症例に対する,行動変容への取り組み
【序論】呼吸器リハビリテーションでは,セルフケアへの行動変容を促すことが重要である. 今回,心理療法のシステムを統合したTranstheoretical Model(以下TTM)を用いた介入を実施し,セルフケアの改善に至ったので報告する. 本演題で発表する内容は,本人及び家族への説明,同意を得ている.また,当院の倫理審査の承認を得た.【症例】80代,女性,身長 150㎝,体重 49.7kg,BMI 22.1kg/m2,疾患名:COPD増悪.現病歴:X年にCOPDの診断となり在宅生活を送っていた.X+12年に呼吸困難感を訴え肺炎の診断で前院入院となる.X+12年Y+3月に当院の地域包括ケア病棟へ施設退院の調整目的で入院となった.【作業療法評価】OT開始時は,鼻カニューレ1L /min(安静時)・3L /min(運動時),連続歩行距離11mで呼吸困難感がみられた. mMRC息切れスケール5.握力左10kg,右11kg.Short Physical Performance Battery(以下SPPB)7, FIM 33点,ADLは呼吸困難感から中等度介助レベルであった.HDS-R 30点,人当たりは良いが,前院にて症状悪化もあり「今週中にもう死ぬ,思い残すことは何もないから心配しないでください」と話し,身辺処理も行なっていた.初回の面接時も悲観的ということではないが諦観した発言も聞かれた.【作業療法介入・経過】COPD増悪前は,息切れを出現しない動作の工夫は行えており,休息のタイミングも調整していた.運動習慣はなかったが,家事等の身の周りのことを行い活動量は保たれていた.そのためCOPD増悪後の運動耐用能の低下についての理解は乏しく負担の掛かる動作も散見された.施設退院方向であり活動量の低下によるデコンディショニングを起こさないよう,運動習慣の獲得に加え,運動や活動と休息の重要性を理解し,活動量の調整を自身で行えることを目的として介入した.TTMは,リハビリは意欲的で身体活動への利益は感じており,身体活動を維持しようと活動を始めていることから行動変容ステージは関心期と判断された.COPD増悪後の自身の運動耐用能に関する経験や認識が乏しく休息と活動に対する自己効力感は低い状態であった.作業療法では運動耐用能の評価結果やADL・IADL動作のフィードバックを行い自己の再評価を促しセルフケアの改善を図った.また,活動と休息の調整を自身で行えるよう身体活動量の目安としてスマートフォンを利用した歩数の確認等も行い,症例自身でも管理を行えるよう教示した.【結果】入院より76日目に施設退院となった.連続歩行距離40m,mMRC息切れスケール5,SPPB9,FIM77点であった.症例から「退院後の施設でも自主トレーニングを行います」等の肯定的な発言が聞かれ,歩数の目標値を決める等,具体的な活動量イメージを獲得できた.また,症例自身が生活パターンを再構築し,活動と休憩を自身で調整するようになったことで自己効力感も改善し,行動変容ステージも関心期から準備期へ移行した.【考察】COPD増悪により,自身の身体活動量の調節やセルフケアが困難な症例に対して,自己の再評価を行うことで,症例自身の自己肯定感を高め,運動耐用能の理解を深めることでセルフケアの改善が得られたと考える.【結語】呼吸器疾患症例に対し,作業療法では,身体機能や運動耐用能の改善だけでなく, TTMを用いてセルフケアを高め,対象者が希望する生活を支援することの一助になると考えられる.