[PC-3-1] 人工呼吸器管理後に妄想的記憶を認めた症例に対する作業療法
【はじめに】ICU滞在中の患者の妄想的記憶は,精神機能障害やQOLの低下,復職率の低下への関連が示唆されている.しかし,妄想的記憶に対する介入効果は未だ明らかになっていない.今回,人工呼吸器管理後に妄想的記憶を認めた症例を担当した.ICU滞在中の適切な記憶の構築を目的に傾聴や対話等の精神療法を併用した作業療法(OT)を実践したため報告する.
【症例紹介】50歳代,男性.X-486日前に間質性肺炎と診断され,これまで間質性肺炎急性増悪を繰り返しステロイドパルス療法が2回行われている.今回は感冒症状及び労作時呼吸困難を認め,X日に他院に救急搬送された.搬送時,リザーバーマスク10L/minであり,血液動脈ガス検査でP/F129,両側広範囲にすりガラス陰影を認め,感染契機の間質性肺炎急性増悪と診断された.同日気管挿管が行われ,ステロイドパルス療法が開始された.X+4日に当院に転院搬送され加療を継続.自宅退院を見据えたリハビリテーション依頼があり,X+5日よりリハビリテーション開始. X+7日に抜管,X+40日に自宅退院した.尚,本報告は本人の同意を得ている.
【作業療法経過】OTはX+7日の抜管後から開始.酸素マスク5L/minで管理され,呼吸状態は安定しており初回の離床訓練を実施.身体機能はMRC scoreで57点と明らかな筋力低下は認めず,軽介助から監視レベルで起き上がりや端坐位保持は可能であった.また,下肢の投げ出しや起き上がり等の不穏行動,看護師への暴言や暴力があったことから身体抑制され,鎮静薬や抗精神病薬が使用されている状況だった.OT実施時は意識レベルはGCSでE4V5M6と清明,CAM-ICUは陰性,礼節は保たれており指示従命も良好に得られた.しかし本人の語りからは「何日経っているのか何があったのかわからない.飲み込まれて沈み込んでしまうような感覚がして怖かった.いるはずないのに神様とか仏様が見えて声もした.目を閉じているとまたこの現象が起きて怖い」といった不安や恐怖体験に関する訴えが多く聴かれた.全身状態の改善に伴いX+8日にICUを退室し,X+10日頃には立位や足踏み訓練と順調に離床訓練を進めることができた.本人からは明らかな幻聴や幻覚,恐怖体験の語りは認めないが「まだ変な感じ,らりってる感じみたい.覚えていないうちにこんなになってしまって不安」といった語りが聴かれた.そのためOTでは本人の語りに耳を傾け,想いを受け止め共感する関わりを意識した.また欠落している部分の記憶を補い,これまでの出来事が整理できるようにサポートした.X+12日から歩行訓練を開始し,X+18日には病棟内ADLが自立した.この頃にはICU滞在中や退室後数日間の出来事が非現実的であったことを十分に理解できるようになっていたが,その出来事は不快な記憶として残っており,欠落した記憶があることに対する不安感も残っていた.自宅生活復帰可能なADLであり,自主練習にて運動耐容能向上を図ることで社会復帰が可能な状態にあったが,OTは終了せず定期的な訪室で想いを語れる機会を提供し,入院からの経過を振り返りながら出来事や想いが整理できるよう支援した.退院時「最初は怖かったけどもう整理ができているから大丈夫.継続して来てくれたおかげでここまでこれた」といった語りが聴かれ,出来事は不快な記憶として残っておらず,不安なく自宅生活及び社会復帰を果たすことができた.
【考察】妄想的記憶に対して,OTを通して症例が体験を語れる機会を提供することや記憶の再構築の援助をするために精神療法の技法を併用することで,精神機能障害の予防や社会復帰を促進することの一助となる可能性がある.
【症例紹介】50歳代,男性.X-486日前に間質性肺炎と診断され,これまで間質性肺炎急性増悪を繰り返しステロイドパルス療法が2回行われている.今回は感冒症状及び労作時呼吸困難を認め,X日に他院に救急搬送された.搬送時,リザーバーマスク10L/minであり,血液動脈ガス検査でP/F129,両側広範囲にすりガラス陰影を認め,感染契機の間質性肺炎急性増悪と診断された.同日気管挿管が行われ,ステロイドパルス療法が開始された.X+4日に当院に転院搬送され加療を継続.自宅退院を見据えたリハビリテーション依頼があり,X+5日よりリハビリテーション開始. X+7日に抜管,X+40日に自宅退院した.尚,本報告は本人の同意を得ている.
【作業療法経過】OTはX+7日の抜管後から開始.酸素マスク5L/minで管理され,呼吸状態は安定しており初回の離床訓練を実施.身体機能はMRC scoreで57点と明らかな筋力低下は認めず,軽介助から監視レベルで起き上がりや端坐位保持は可能であった.また,下肢の投げ出しや起き上がり等の不穏行動,看護師への暴言や暴力があったことから身体抑制され,鎮静薬や抗精神病薬が使用されている状況だった.OT実施時は意識レベルはGCSでE4V5M6と清明,CAM-ICUは陰性,礼節は保たれており指示従命も良好に得られた.しかし本人の語りからは「何日経っているのか何があったのかわからない.飲み込まれて沈み込んでしまうような感覚がして怖かった.いるはずないのに神様とか仏様が見えて声もした.目を閉じているとまたこの現象が起きて怖い」といった不安や恐怖体験に関する訴えが多く聴かれた.全身状態の改善に伴いX+8日にICUを退室し,X+10日頃には立位や足踏み訓練と順調に離床訓練を進めることができた.本人からは明らかな幻聴や幻覚,恐怖体験の語りは認めないが「まだ変な感じ,らりってる感じみたい.覚えていないうちにこんなになってしまって不安」といった語りが聴かれた.そのためOTでは本人の語りに耳を傾け,想いを受け止め共感する関わりを意識した.また欠落している部分の記憶を補い,これまでの出来事が整理できるようにサポートした.X+12日から歩行訓練を開始し,X+18日には病棟内ADLが自立した.この頃にはICU滞在中や退室後数日間の出来事が非現実的であったことを十分に理解できるようになっていたが,その出来事は不快な記憶として残っており,欠落した記憶があることに対する不安感も残っていた.自宅生活復帰可能なADLであり,自主練習にて運動耐容能向上を図ることで社会復帰が可能な状態にあったが,OTは終了せず定期的な訪室で想いを語れる機会を提供し,入院からの経過を振り返りながら出来事や想いが整理できるよう支援した.退院時「最初は怖かったけどもう整理ができているから大丈夫.継続して来てくれたおかげでここまでこれた」といった語りが聴かれ,出来事は不快な記憶として残っておらず,不安なく自宅生活及び社会復帰を果たすことができた.
【考察】妄想的記憶に対して,OTを通して症例が体験を語れる機会を提供することや記憶の再構築の援助をするために精神療法の技法を併用することで,精神機能障害の予防や社会復帰を促進することの一助となる可能性がある.