[PD-1-3] ADOC-Hで共有した目標の達成から行動変容へと至った一事例
上腕骨悪性腫瘍術後に橈骨神経麻痺を呈した10代女性
【はじめに】今回,左上腕骨悪性腫瘍摘出手術により橈骨神経麻痺を呈した10代女性を担当した.患側手を使用しない生活様式で日常生活活動(以下ADL)が自立され,症状や今後の生活に対して楽観的な事例に対し,Air for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下ADOC-H)を使用し目標設定を行った.その結果,退院後の生活を具体的にイメージし患側手を使用するための行動変容が認められたため以下に報告する.尚,発表に際し事例と保護者より書面にて同意を得ている.
【事例】10代女性.診断名:左上腕骨悪性腫瘍.合併症:左橈骨神経麻痺.現病歴:左上腕部の腫瘤を自覚し近医受診.上腕骨傍骨性骨肉腫の疑いで他院へ紹介.傍骨性骨肉腫と診断され摘出術及び骨移植術,橈骨神経切離及び神経縫合術を施術され,術後2週にリハビリテーション目的で当院へ転院となる.後療法:術後3週固定,その後可及的に可動域練習開始.医師より神経回復には半年必要と説明あり.HOPE:復学とアルバイト復帰,卒後は進学希望.感覚:橈骨神経領域の表在感覚軽度鈍麻,痺れあり.筋力(左):徒手筋力検査(以下MMT)三角筋1,手根伸筋群・総指伸筋0.自動関節可動域(以下A-ROM):肩関節屈曲,外転0°,患部外著名な制限なし.Quick Dash:9点,HAND20:49点.ADL:機能的自立度評価表(以下FIM)118点.
【経過】初期(術後3週):固定期間中は右手でADL自立され,作業療法(以下OT)では装具療法と電気療法,可動域練習まで実施した.「特に困らない」と患側手の状態について焦りなども見られなかった.OTを通して患側手の使用について問うも明確な回答は得られず,両手を使用する項目では「できない」と感じているが,生活での制限はなく不安を表出することはなかった.医師からの説明や病態から,どのような場面で患側手を使用できるか理解できていないと予測し,ADOC-Hを用い「水を出す」「椀に手を添える」を目標として設定した.中期(術後5週):具体的な活動で実際に患側手を使用し遂行可能なことに気付いた事例は,「髪を結びたい,化粧水を付けたい」と,自身の生活で必要な両手活動を表出するようになった.目標の難易度が上がることで容易には遂行困難ではあったが,OTでの部分練習,実場面での実施,面接での振り返りを通して,達成できる機会が増えた.自主練習にも積極的に取り組み,HAND20では「患側手の影響で生活に支障がある」と回答する項目が増えた.後期(術後7週):初期にはイラストを参照して絞り出した目標が,自身が患側手を使用して困難だった実際の活動を提示する機会が増えた.「下着の着脱」「着替えの時間短縮」など,退院後必須となる活動内容が適切に抽出され,また達成に向けた積極的な行動が観察されるようになった.HAND20では両手活動での制限は感じなくなっており,術後8週に自宅退院となった.退院後は復学とアルバイトの再開に向けて調整する運びとなった.
【結果】感覚:橈骨神経領域の表在感覚正常,痺れ改善.筋力(左):MMT三角筋4,手根伸筋群・総指伸筋1.A-ROM:肩関節屈曲140°,外転120°,肘関節140°.Quick Dash:11.4点,HAND20:8点.ADL:FIM126点.
【考察】ADOC-Hで抽出した目標を達成する過程において,ADL上での患側手の使用が容易となり,その経験が不安の改善につながる可能性があるとされている(Wataru Kukizaki et al,2023).本事例は導入時にADOC-Hを用い目標の共有を行った.作業基盤型の目標を達成する過程で,患側手の状況を客観的に内省でき,患側手を使用できた経験の積み重ねが,自己肯定感の向上に寄与し積極的な行動変容へと繋がったと考える.
【事例】10代女性.診断名:左上腕骨悪性腫瘍.合併症:左橈骨神経麻痺.現病歴:左上腕部の腫瘤を自覚し近医受診.上腕骨傍骨性骨肉腫の疑いで他院へ紹介.傍骨性骨肉腫と診断され摘出術及び骨移植術,橈骨神経切離及び神経縫合術を施術され,術後2週にリハビリテーション目的で当院へ転院となる.後療法:術後3週固定,その後可及的に可動域練習開始.医師より神経回復には半年必要と説明あり.HOPE:復学とアルバイト復帰,卒後は進学希望.感覚:橈骨神経領域の表在感覚軽度鈍麻,痺れあり.筋力(左):徒手筋力検査(以下MMT)三角筋1,手根伸筋群・総指伸筋0.自動関節可動域(以下A-ROM):肩関節屈曲,外転0°,患部外著名な制限なし.Quick Dash:9点,HAND20:49点.ADL:機能的自立度評価表(以下FIM)118点.
【経過】初期(術後3週):固定期間中は右手でADL自立され,作業療法(以下OT)では装具療法と電気療法,可動域練習まで実施した.「特に困らない」と患側手の状態について焦りなども見られなかった.OTを通して患側手の使用について問うも明確な回答は得られず,両手を使用する項目では「できない」と感じているが,生活での制限はなく不安を表出することはなかった.医師からの説明や病態から,どのような場面で患側手を使用できるか理解できていないと予測し,ADOC-Hを用い「水を出す」「椀に手を添える」を目標として設定した.中期(術後5週):具体的な活動で実際に患側手を使用し遂行可能なことに気付いた事例は,「髪を結びたい,化粧水を付けたい」と,自身の生活で必要な両手活動を表出するようになった.目標の難易度が上がることで容易には遂行困難ではあったが,OTでの部分練習,実場面での実施,面接での振り返りを通して,達成できる機会が増えた.自主練習にも積極的に取り組み,HAND20では「患側手の影響で生活に支障がある」と回答する項目が増えた.後期(術後7週):初期にはイラストを参照して絞り出した目標が,自身が患側手を使用して困難だった実際の活動を提示する機会が増えた.「下着の着脱」「着替えの時間短縮」など,退院後必須となる活動内容が適切に抽出され,また達成に向けた積極的な行動が観察されるようになった.HAND20では両手活動での制限は感じなくなっており,術後8週に自宅退院となった.退院後は復学とアルバイトの再開に向けて調整する運びとなった.
【結果】感覚:橈骨神経領域の表在感覚正常,痺れ改善.筋力(左):MMT三角筋4,手根伸筋群・総指伸筋1.A-ROM:肩関節屈曲140°,外転120°,肘関節140°.Quick Dash:11.4点,HAND20:8点.ADL:FIM126点.
【考察】ADOC-Hで抽出した目標を達成する過程において,ADL上での患側手の使用が容易となり,その経験が不安の改善につながる可能性があるとされている(Wataru Kukizaki et al,2023).本事例は導入時にADOC-Hを用い目標の共有を行った.作業基盤型の目標を達成する過程で,患側手の状況を客観的に内省でき,患側手を使用できた経験の積み重ねが,自己肯定感の向上に寄与し積極的な行動変容へと繋がったと考える.