第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-1] ポスター:運動器疾患 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-1-8] 母指と中指での短対立スプリントによる複合的な末梢神経損傷者の生活機能と満足度の検証

望月 光1, 吉野 智佳子1,2 (1.帝京大学ちば総合医療センター リハビリテーション部, 2.千葉大学dri)

【はじめに・目的】
 短対立スプリントは一般的に正中神経麻痺による対立位獲得のために用いられ,機能的ピンチを獲得させる手助けとなる.しかし,示指の機能低下がある場合は機能的ピンチの補助が困難となる.今回,複合的な末梢神経損傷者に対し母指と中指の対立を行えるスプリントを試作的に作製し,補助手として生活機能向上に寄与する可能性と使用時の満足度や疼痛の発現の有無を調査したため報告する.なお事例報告に際し症例より同意を得た.
【症例紹介】
 60歳代,男性,右利き.腹臥位の状態で台風後の土砂により20時間以上右上下肢が挟まれ受傷した.入院3日後にリハビリが開始され,MMTは右上肢が0~1でPTSDが認められた.皮下組織まで壊死や創部感染を合併し,7回にわたり壊死組織と前腕の伸筋腱をデブリードマンし,陰圧閉鎖療法を行った.受傷から約3か月後のROM(右/左)は母指IP関節屈曲40°/90°,橈側外転60°/90°,感覚では尺骨神経領域が脱失であった.MMTは右MP/PIP/DIPが第1~2指はすべて0,第3指は4/2/3,第4指は5/2/5,第5指は5/5/5であり,母指と示指の自動運動が困難で正中神経領域の障害が残存していた.
【方法】
 使用製品はオルフィットエコ(orfit社製,Belgium)を使用した.5回の仮作成を行う中で試行錯誤し,圧迫による発赤がある部位をカッティングし,Cバー・背側バーで母指の対立位維持・横アーチの矯正を行った.症例の要望で指尖つまみも考慮し,ベルクロで母指を掌側外転・内転位の方向に牽引し,母指と中指での対立スプリントを作製した.装着前と装着後1週間でDisabilities of the Arm,Shoulder and Hand(DASH),HAND20,ピンチ力,Short-Form McGill Pain Questionnaire-2(SFMPQ2),機能的自立度評価法(FIM),および生活内での変化や着用時間,満足度について質問紙を用いた.
【結果】
 スプリントの使用前後でDASH機能障害は141点から130点に改善し,症状スコアが92.5点から82点に向上した.Hand20は164点から132点へ改善が見られ,ピンチ力は0㎏から1.5㎏となった.装着後10分経過時に疼痛の増加がありSFMPQ2は30点から35点となった.FIMは清拭が4点から6点へ向上し,生活内ではタオルや布団を掴むこと,ペットボトルの開閉,歯ブラシと歯磨き粉の両手動作で使用するなど変化があった.「物が掴めるようになった」「再建術も今後あるから訓練したい」等のポジティブな発言も聞かれた一方,使用後の満足度は3/10で,長時間の装着による疼痛増加の意見が聞かれた.
【考察】
 健側でADL動作は可能であり,補助手としての機能獲得,QOL向上,良肢位保持,廃用予防の目的を中心として使用された.疼痛の増加は,他動で母指と中指の対立位を保持しても同様に出現するため,運動麻痺による拘縮と浮腫で関節可動域の低下や皮膚の圧迫に伴う疼痛であると考えられる.特に中指を対立対象とする場合,より母指の内転位を保つ必要があり,夜間や安静スプリントの作成など,持続的な良肢位を保つ戦略が必要であると考える.また長時間着用時の圧迫に伴う疼痛や褥瘡対策も今後の課題とする必要がある.本スプリントの導入により健側の機能的ピンチ能力の向上や使用頻度・両手動作の増加,清拭時の洗体部位の拡大がみられ,本症例の生活機能向上に寄与した可能性が示唆された.