[PD-2-4] 複合性局所疼痛症候群(CRPS)症状に対し意味のある作業での成功体験が有効であった一例
【はじめに】CRPS症状が慢性化すると治療に難渋するとされる.本事例は橈骨遠位端骨折術後疼痛が強く,CRPS臨床診断項目の4/5が該当し,「痛いから何もできない」と発言し患肢不使用であった.しかし介入開始から2週経過時点での意味のある作業での成功体験が改善,慢性化の予防につながったため報告する.なお本報告にあたり事例の個人情報とプライバシー保護に配慮し,説明を行った後に本人に同意を得た.
【事例紹介】自宅駐車場で転倒しX日左橈骨遠位端関節内骨折(AO分類:C2)を呈した60歳代右利きの女性で,受傷前ADLは自立,夫と二人暮らしで主婦として家事全般を行い,ドライブが趣味だった.X+6日掌側ロッキングプレート固定術施行,X+27日外来作業療法開始となった.主治医の指示は「CRPS様.自動,他動運動,車の運転を許可する」とのことだった.介入は外来作業療法を1回40分で週に2回であった.「痛いから何もできない」と繰り返し訴えた.
【初期評価】X+27日,可動域は手関節掌屈30°背屈20°前腕回外40°回内30°指尖手掌間距離(以下TPD)は55mm,手内在筋優位の手指屈曲パターンが認められ患肢不使用であった.浮腫,熱感,知覚過敏,手掌の発汗がみられ,把持動作時に左各指から左手背にNumerical Rating Scale(以下NRS)8/10の痛みがあり, Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)は35点(反芻15点,拡大視5点,無力感15点),Pain Self-Efficacy Questionnaire(以下PSEQ)12点であった.カナダ作業遂行測定(以下COPM) score(遂行度/満足度)は「車の運転」が1/1で把持動作が必要であることが明らかとなり,車の運転を目標とすることに合意した.
【経過】初回介入時に「痛いから動かせない」と発言し自動運動を行おうとしなかった.そこで,車の運転には把持動作が必要で,そのためにMP関節のブロッキングエクササイズを行うこと,痛みの破局的思考と学習性不使用モデルについて説明した.その後MP関節のブロッキングエクササイズを実施すると「これならできる」と発言し短時間の自動運動を実施するようになった.自主訓練としてMP関節のブロッキングエクササイズを毎日1時間ごとに30回行うよう説明した.自主訓練を毎日行うようになり,X+41日にはTPDは35mmとなった. 同日OTが「一緒に運転してみましょう」と提案し,実際に運転を行い車のシフトレバーやハンドルを操作できることを確認すると「運転できる.そう痛くない」「色々できるのかもしれない」と発言した.その後,毎日車を運転するようになり,徐々にADLと家事で患肢を使用するようになった.X+56日には把持動作時痛NRS1/10,TPDは5mmとなり患肢を用いて,すべてのADLと家事が可能となり,「ドライブに行けた.楽しかった」と発言した.
【結果】X+64日,可動域は手関節掌屈70°背屈60°前腕回外90°回内85°TPDは0mm, 手内在筋優位の手指屈曲パターンは無くなった.すべてのADLと家事で患肢を使用するようになり,浮腫,熱感,知覚過敏,手掌の発汗は消失,把持動作時痛はNRS0/10,PCS6点(反芻3点,拡大視1点,無力感2点), PSEQ52点,COPM score(遂行度/満足度)は「車の運転」が9/10となり「何でもできるようになった」と発言し毎週ドライブに行くようになった.
【考察】自己効力感の低下は痛みに悪影響を及ぼすとされる.本事例は意味のある作業に焦点化したプログラムに取り組み,意味のある作業で成功体験を得て,その後も成功体験を繰り返したため自己効力感を高めることができたと考える.これが患肢不使用の改善につながり,CRPS症状の慢性化を防ぐことができたと考えられる. CRPS症状に対して目標設定,痛みに対する教育に加え,可及的早期の意味のある作業での成功体験の重要性を認識する事例となった.
【事例紹介】自宅駐車場で転倒しX日左橈骨遠位端関節内骨折(AO分類:C2)を呈した60歳代右利きの女性で,受傷前ADLは自立,夫と二人暮らしで主婦として家事全般を行い,ドライブが趣味だった.X+6日掌側ロッキングプレート固定術施行,X+27日外来作業療法開始となった.主治医の指示は「CRPS様.自動,他動運動,車の運転を許可する」とのことだった.介入は外来作業療法を1回40分で週に2回であった.「痛いから何もできない」と繰り返し訴えた.
【初期評価】X+27日,可動域は手関節掌屈30°背屈20°前腕回外40°回内30°指尖手掌間距離(以下TPD)は55mm,手内在筋優位の手指屈曲パターンが認められ患肢不使用であった.浮腫,熱感,知覚過敏,手掌の発汗がみられ,把持動作時に左各指から左手背にNumerical Rating Scale(以下NRS)8/10の痛みがあり, Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)は35点(反芻15点,拡大視5点,無力感15点),Pain Self-Efficacy Questionnaire(以下PSEQ)12点であった.カナダ作業遂行測定(以下COPM) score(遂行度/満足度)は「車の運転」が1/1で把持動作が必要であることが明らかとなり,車の運転を目標とすることに合意した.
【経過】初回介入時に「痛いから動かせない」と発言し自動運動を行おうとしなかった.そこで,車の運転には把持動作が必要で,そのためにMP関節のブロッキングエクササイズを行うこと,痛みの破局的思考と学習性不使用モデルについて説明した.その後MP関節のブロッキングエクササイズを実施すると「これならできる」と発言し短時間の自動運動を実施するようになった.自主訓練としてMP関節のブロッキングエクササイズを毎日1時間ごとに30回行うよう説明した.自主訓練を毎日行うようになり,X+41日にはTPDは35mmとなった. 同日OTが「一緒に運転してみましょう」と提案し,実際に運転を行い車のシフトレバーやハンドルを操作できることを確認すると「運転できる.そう痛くない」「色々できるのかもしれない」と発言した.その後,毎日車を運転するようになり,徐々にADLと家事で患肢を使用するようになった.X+56日には把持動作時痛NRS1/10,TPDは5mmとなり患肢を用いて,すべてのADLと家事が可能となり,「ドライブに行けた.楽しかった」と発言した.
【結果】X+64日,可動域は手関節掌屈70°背屈60°前腕回外90°回内85°TPDは0mm, 手内在筋優位の手指屈曲パターンは無くなった.すべてのADLと家事で患肢を使用するようになり,浮腫,熱感,知覚過敏,手掌の発汗は消失,把持動作時痛はNRS0/10,PCS6点(反芻3点,拡大視1点,無力感2点), PSEQ52点,COPM score(遂行度/満足度)は「車の運転」が9/10となり「何でもできるようになった」と発言し毎週ドライブに行くようになった.
【考察】自己効力感の低下は痛みに悪影響を及ぼすとされる.本事例は意味のある作業に焦点化したプログラムに取り組み,意味のある作業で成功体験を得て,その後も成功体験を繰り返したため自己効力感を高めることができたと考える.これが患肢不使用の改善につながり,CRPS症状の慢性化を防ぐことができたと考えられる. CRPS症状に対して目標設定,痛みに対する教育に加え,可及的早期の意味のある作業での成功体験の重要性を認識する事例となった.